第三話 初ダンジョンと拓男死す
「なぁ正樹、今からダンジョン行こうぜ!」
次の日、この時代での高校生活二日目を終えた俺は、放課後の教室で拓男の誘いに驚いていた。
この時代は、ダンジョンも普通に存在するとのこと。
ダンジョンは、色々なところに存在し、いわゆる地下にある洞窟らしい。
その中には、以前拓男から聞いた【キラービー】などの自然系モンスターではなく、【ゴブリン】や【オーク】などのダンジョン系と呼ばれるモンスターが生息しているとのこと。
国の専属【クレリック】が結界を張っていて、普通は人間もモンスターも出入りすることができないが、見習い戦士からジョブチェンジをした人間はダンジョンに進入することができるようになり、狩りなどに行けるようになるらしい。
「……でも、危なくないのか?」
「大丈夫だよ、レベル1専用ダンジョンなら」
「正樹様! 行きましょう!」
「拓男様もいますし、安全ですよ」
「なによグロ男! 正樹様を舐めてるの!?」
精霊の姿になっているソー子とグロ男も、もう普通の友達のように話している。
レベル1専用。
ダンジョンにはランクがあるらしく、例えばレベル2専用ダンジョンには俺たちレベル1は入れないようになっているとのこと。
そのダンジョンに生息しているモンスターのレベルから、国に見極められて結界が張られ、ちゃんと侵入制限がされているらしい。
「魔王が復活したら、結界が破られるって噂もあるけどな」
「……なるほど」
拓男の話を聞きつつも、俺は後ろの方を気にする。
そう、田中まどかが、小林楓と共にまだ教室に残っていたのだ。
「じゃあまどか、帰ろっか」
「そうだね」
田中まどかと小林楓が、帰ろうとする。
この時代でも部活は普通にあるが、俺と拓男は帰宅部。
田中まどかと小林楓も、確か習い事をしていて帰宅部だ。
田中まどかはピアノ、小林楓は空手をやっていた記憶がある。
俺はこの時代に戻った理由を思い出し、勇気を振り絞り立ち上がった。
「たっ、田中さん! これから一緒にダンジョンに行かない!?」
緊張しすぎて、少し大声になってしまったことに後悔をする。
拓男は驚いた顔をして、こっちを見ていた。
拓男は、俺が田中まどかを好きなことは知っている。
驚くのも、無理はない。
「おっ、【剣聖】さん。私たちをデートにお誘いですか?」
「かっ、楓! 何言ってるのよ!」
「私は【シーフ】、まどかの心を奪うのは、私の仕事よ!」
「もうっ! 楓ったら!」
どちらかといえば、田中まどかは消極的な性格、小林楓は活発な性格。
思っていた通りの返答だ。
俺もこれまた勇気を振り絞り、返答をする。
「デッ、デートじゃないけど、行ってみない?」
「まどか、どうする?」
「……夕方までなら、特に予定はないけど」
「じゃあいいよ! 【剣聖】さん!」
……やった、奇跡だ。
「おいおい正樹、いきなりどうした?」
「正樹様も、隅に置けませんね」
拓男とグロ男が、ニヤニヤしながら言い寄ってきた。
二人とは違って、ソー子はなぜか俺を睨んでいる。
「まどか様、私がいるから大丈夫ですよ」
「楓様は、随分楽しそうですね!」
田中まどかの杖精霊は鳩、小林楓の剣精霊は猿の姿をしていた。
ちなみに名前は、鳩のポッポ、猿のモンちゃんらしい。
「じゃあさ、PT組もうぜ!」
「そうだね!」
拓男と小林楓が、当たり前かのように話し出した。
PT。
RPGなら、一緒に狩りに行くなら当然のシステムだ。
この時代でも、そうとのこと。
ゲームが大好きな俺は大体分かるが、この時代ではステホを使ってPTを組むらしい。
ようするに、携帯電話の電話番号とアドレスを交換して、そこから組むのだ。
まさかの展開。
田中まどかの電話番号やアドレスなんて、元の時代じゃ知りもしなかった。
拓男のすばらしい手引きもあり、電話番号などを交換して、無事四人でPTを組んだ。
密かに興奮する俺をよそに、拓男が再び話しかけてくる。
「正樹、ONにしてるか?」
「……なにを?」
「おいおい、お前は初心者か」
悪いが、俺はこの時代では初心者だ。
拓男にこれまた教えられて、俺はステホのオプションの項目をタップした。
そして、三つの項目をONにする。
HP、SP表示 ON
PTメンバーのHP、SP、RP ON
モンスターのレベル、HP ON
すると、自分の視界の隅に、HPなどが数字とゲージで見えるようになった。
自分のものと、拓男たちPTメンバーのものが見える。
……何度も思うが、ゲームの世界だ。
PTを組んだ俺たちは、高校を出てしばらく歩き、高校の裏にある普通の田んぼに到着する。
そこにはダンジョンと思わしき土の塊で出来た、見るからに洞窟な建造物があった。
入口を覗くと、地下へと階段が続いている。
「ここが、ダンジョンだ」
「……なるほど」
拓男から説明され、俺たちはダンジョンの中へと入っていく。
もちろん、レベル1限定ダンジョンだ。
中は、見るからに洞窟って場所をしている。
拓男がグロ男を、田中まどかがポッポを、小林楓がモンちゃんをそれぞれ剣と杖に変化させた。
俺もソー子を剣に変化させようとした、その時である。
ソー子が俺を睨みながら、語りかけてきた。
「正樹様、あの女共はなんなんですか?」
「……えっ?」
「まさか、正樹様の彼女とかですか?」
「ちっ、違うよ!」
「……ふーん」
よかった、他のみんなには、ソー子の今の声は聞こえていなかったみたいだ……。
ダンジョンの奥へと進むと、他のPTらしき人たちがモンスターと戦っていた。
RPGでよく見る姿の、【ゴブリン】らしき者とだ。
モンスターのレベル、HP表示をONにしているので、その【ゴブリン】らしき者の上に、【ゴブリン】、レベル1との表示が見える。
なので、間違いなくあれは【ゴブリン】なのだろう。
「【二段斬り】!」
他のPTらしき人の一人が、そう叫んで【ゴブリン】に攻撃をした。
凄い、一回しか攻撃していないのに、二回斬撃が出た。
たぶん、あれもスキルなのだろう。
俺は【心眼】は持っているが、いわゆる攻撃スキルは持っていない。
少し、羨ましい気持ちになった。
その時だった。
俺のステホが、ブルッと振動したのだ。
ステホを見てみると、こう表示がされていた。
【二段斬り】を習得しますか?
はい いいえ
【剣聖】は、六つまで、その目で見た剣系スキルを習得できます。
任意で、覚えたり、忘れたりできます。
……驚いた。
さすがはレアジョブ、【剣聖】は他人のスキルを見ただけで、スキルを習得できるみたいだ。
とりあえず俺は、みんなに説明をして、【二段斬り】を習得した。
拓男が、凄い羨ましそうな目でこっちを見ていたのを忘れない。
しばらくすると、俺たちも【ゴブリン】と遭遇をした。
最初は焦ったが、【ゴブリン】は小さい子がじゃれてくるように、ナイフを持って攻撃をしてくる。
ナイフは確かに危ないが、普通の人間でもかわせるレベルの攻撃だ。
俺は心眼のスキルがあるので、みんなよりかわすのは楽ってのもある。
田中まどかは【プリースト】なので、後ろに下がって援護の体勢。
回復スキルの【ヒール】があるらしいので、もし傷ついても大丈夫そうだ。
あえて、その【ヒール】を受けてみたいと思ったのは内緒だが……。
そして、俺と拓男と小林楓で、【ゴブリン】を攻撃する。
剣で何かを斬るのは初めての体験だが、包丁で野菜を切るような感覚だ。
MNDの効果もあるのだろう。
特に、嫌な気分もしなかった。
【ゴブリン】は、いわゆる死ぬとその場で輝いて消えた。
よかった、この時代は死体とかは残らないパターンらしい。
しかし、【ゴブリン】を倒しても経験値やお金などは貰えなかった。
やはりこのくらいじゃ、この時代ではレベルなんて上がらないのだろう。
しばらくすると、小林楓がニヤニヤとして話しかけてきた。
「私、実は【観察】スキルがあるんだよね」
「えっ?」
俺と拓男と田中まどかが、その言葉に反応をする。
「ムフフ、隠し扉ってやつ? 見つけたよ!」
小林楓が、洞窟の何もない場所を指差す。
俺たちには見えてないが、【シーフ】の【観察】スキルがあると、そこに扉が見えるらしい。
「行ってみる?」
「行こうぜ! お宝とかあるんじゃね?」
「さすが小田! ノリがいいね!」
初ダンジョンで拓男のテンションが上がっているのもあり、俺たちは小林楓が見つけた隠し扉の中へと入った。
RPGの定番、その部屋には宝箱が置いてあった。
「うひょー! 宝箱じゃん!」
拓男が真っ先に宝箱へと近づく。
でも、大丈夫なのだろうか?
もしかしたら、トラップの可能性もあるのではないのだろうか?
ゲームが大好きな俺は、そんなことを考えていた。
でも、まぁ大丈夫だろう。
レベル1制限の、ダンジョンなのだから……。
しかし、俺の予想は虚しくも外れてしまった。
拓男が宝箱を開けようとした瞬間、その部屋の出入り口が閉じられ、同時に警報音のような音が鳴り響いたのだ。
「なんだ!?」
「きゃっ!」
「まどか! 大丈夫だから!」
拓男が辺りを見渡し、驚く田中まどかを、小林楓が落ち着かせる。
すると、宝箱の前に、大きな輝きと共に巨体のモンスターが現れた。
モンスター名を見ると、【サイクロプス】、レベル3。
一つ目で大きな斧を持った、モンスターだった。
「レベル3!? 嘘だろ!?」
拓男がそう叫び声を上げた、その瞬間だった。
【サイクロプス】の攻撃で、拓男が胴体を真っ二つにされたのだ。
「拓男おおおおおおお!!」
「キャアアアアアアア!!」
洞窟内に、俺と田中まどかの叫び声が響き渡った。