第二話 剣精霊と初スキル
俺と拓男が、まさかのレアジョブについたことで、一時間目の数学の授業は自習になった。
そんな俺と拓男は、めぐみ先生に連れられ、今は校長室にいる。
元の時代では、校長室なんて入ったことはない。
ましてや校長先生なんて、朝礼で遠くから見たことがあるくらいだ。
「うーん……まさか我が校の生徒が、レアジョブにつくとは……」
「もし魔王が復活したら、二人は戦いに行くのですか?」
「千年前の話ですからね。お二人もまだレベル1でしょうし、とりあえずは様子を見ましょう」
「……分かりました」
めぐみ先生と校長先生の話を、俺と拓男は黙って聞いていた。
話をまとめると、レアジョブといっても、ただ単に珍しいだけ。
もし魔王が復活しても、千年前とは違い、今は自衛隊などもいる。
なので、俺たちは今まで通り、普通に生活していいとのこと。
……なんだ、結局普通なのか。
これから冒険の旅でも始まるのかと、少し期待していた俺が馬鹿だった。
「じゃあ二人は、先に教室に戻ってていいわよ。私はもう少し、校長先生と話をしてから行くわ」
拓男と共に、校長室を出る。
最初は焦っていた俺と拓男だったが、めぐみ先生と校長先生の話も聞き、落ち着きを取り戻していた。
すると、拓男がニヤニヤした顔で俺に話しかけてきた。
「なぁ正樹、教室に戻る前に、剣精霊呼び出してみようぜ!」
「えっ?」
「俺たちの剣には、もう精霊が宿っているはずだ。ちょっとやってみようぜ!」
美樹が言っていた、剣精霊。
拓男の話だと、剣に対しイメージをするだけで、剣が精霊の姿に変化するとのこと。
魔法系だと杖精霊で、杖が変化するらしい。
いろいろな姿の精霊がいて、基本的には犬や猫の動物の姿をしているとのこと。
言葉も話せて、いわゆるMMORPGのペットみたいな位置づけか。
もちろん剣を使う時には、また剣に変化することができるらしい。
「でも、学校で出したりしてもいいのか?」
「もちろん授業中とかはだめだけど、三年生は昼休みに精霊とよく遊んでるじゃん」
「……そうだっけ?」
「そうだろうが! ちょうど今自習中だし、屋上でこっそりやろうぜ!」
元の時代じゃ、授業をサボったことなんてない。
普通の生活が嫌で、この時代に来たんだ。
俺は拓男の誘いに、乗ることにした。
拓男と共に、屋上に行く。
そしてお互いステホを起動して、剣を取り出した。
「よし、まずは俺からやるぜ!」
拓男が剣を地面に浮かし、イメージをしているかのように、目を閉じる。
すると、拓男の剣が輝きだし、精霊へと変化した。
「あ、どうも、拓男様」
そこにいたのは、犬でも猫でもなく、見るからにゾンビの男性だった。
見た目は、中年男性。
髪の毛がなく、片目が飛び出て、ボロボロの服を着ている。
「ぎゃあああああああ!!」
俺と拓男は叫び声を上げ、そのゾンビな精霊から離れた。
「拓男様、お友達さんも、そんなに驚かないでくださいよ」
「おっ、お前が、俺の精霊!?」
「はい、そうです。今後ともよろしくお願いします」
見た目はグロいが、礼儀が正しい精霊だ。
拓男は肩を落とし、落ち込んでいる。
「……正樹、次はお前の番な!」
「おっ、おう」
俺も剣を地面に浮かせ、精霊に変化するようにイメージをする。
すると、剣が輝きだし、精霊へと変化した。
「初めまして! 正樹様!」
どう見ても人間の、それも女の子が出てきた。
見た目は、中学生くらいか。
綺麗な水色の髪色で、ツインテール。
瞳の色は緑色で、白の薄いワンピースを着ている。
「えええええええ!?」
これまた、拓男と共に叫び声を上げる。
「よろしくお願いしますね!」
女の子が、俺の腕に抱きついてきた。
腕に胸の柔らかい感触が伝わり、俺はとっさに女の子から離れる。
「君が、俺の精霊!?」
「はい! 恥ずかしがらないでください! 正樹様!」
「正樹! なんでお前だけ、そんなかわいい精霊なんだ!」
「しっ、しらねーよ!」
拓男が、怒りの形相で俺を睨んでくる。
「失礼だなぁ、拓男様……そうだ、名前つけてください」
拓男の精霊が、しょんぼりしつつ話し出した。
話によると、精霊には名前がなく、初めて呼び出した際に、名前をつけて貰えるのが常識とのこと。
「……グロ男、お前の名前はグロ男だ!」
「ありがとうございます、拓男様」
急に拓男に名前をつけてもらい、それでも笑顔になるグロ男。
もう吹っ切れたのか、そんなグロ男を見て、拓男も笑顔になっていた。
「驚いたりして、ごめんなグロ男。これからもよろしく!」
「はい!」
すると、俺の精霊がワクワクした顔で、こっちを見ているのに気づく。
「……そうだな、剣……ソード……ソー子。ソー子でどうだ?」
「ソー子! ありがとうございます!」
ソー子も笑顔になり、また俺の腕に抱きついてくる。
まぁいいか、とりあえずそろそろ教室に戻らないとまずい。
ソー子とグロ男を剣に戻し、インベントリに直す俺と拓男。
剣精霊との初対面を終えて、急いで教室へと戻った。
――昼休み。
教室では、クラスのみんなが精霊との対面を始めていた。
犬や猫や鳥、やはり動物の姿の精霊ばかりだ。
俺と拓男の精霊を見て、みんなが驚くのも無理はない。
「なぁ高橋、お前の精霊かわいすぎるだろ……」
「……はは、そうかな?」
「そうかな? 正樹様! なんで疑問系なんですか!?」
「小田……お前が【ゾンビナイト】だから、ゾンビなのか?」
「それもあるかもな」
「よろしくお願いします、拓男様のお友達さんたち」
芸能人が取材を受けている時は、こんな気分なのだろうか?
なんだか少し、嬉しい気分になる。
ソー子もグロ男も、みんなに笑顔で接している。
田中まどかも、小林楓と一緒にこっちを見ている。
元の時代じゃ、こんなに注目されたことなんてなかった。
「正樹、とりあえずパン買いに行こうぜ!」
「おっ、おう」
俺は昼ごはんを買いに、拓男と共に購買へ向かうことにした。
その時だった。
俺は、あることを思い出した。
元の時代で、高校二年生の時、この日ある事件が起こる。
この後、教室をでた時に。
「拓男! 待っ――」
「いてっ!」
遅かった。
やはり、この事件が起きてしまった。
拓男が、栄倉とぶつかってしまったのだ。
「いってぇなぁ……」
「げっ……栄倉!」
「どうした? 栄倉?」
栄倉の後ろから、二人の男が現れる。
美籐と篠塚だ。
栄倉、美籐、篠塚、通称恐怖のABC。
クラスは違うが、俺たちと同じ高校二年生。
この高校の不良であり、上級生すら恐れる三人組だ。
元の時代では、俺と拓男はこの後殴られた。
そして、残りの高校生活、この三人に恐怖して生活するはめになる。
「てめぇ、どこに目つけてんだ?」
「……ごっ、ごめん」
「俺はよ、【ウォリアー】になりたかったのに【ナイト】になっていらついてんだよ!」
「ぎゃっ!」
「たっ、拓男様!」
拓男が栄倉に殴られ、吹っ飛ばされた。
グロ男が心配そうに、拓男に駆け寄る。
「ケンカだー!」
「先生呼べ先生!」
教室内がざわつく。
元の時代と、一緒のパターンだ。
あの時通りなら、俺も目があったからって、この後殴られる。
……でも、もう普通は嫌だ!
「やめろよ!」
「……あぁ?」
思わず叫んでしまったが、やっぱり怖い……。
栄倉が睨みながら、俺に近づいてくる。
「正樹様、なんですかこいつ? ぶった斬りますか?」
「ソー子、下がってて」
「なんだ? そのガキは?」
栄倉が、俺に向かって右手を振りかざした。
右ストレートだ。
あれっ? 今なんで右ストレートって分かったのだろう?
……そして、これはなんだろうか?
まだ栄倉の右手は俺に届いていないのに、栄倉の右手らしき赤いエフェクトが、俺に届いているのが見えた。
そのエフェクトを、避けてみる。
遅れて、そのエフェクト通りに、栄倉の右ストレートが飛んできた。
「なにっ!?」
攻撃をかわした俺を見て、栄倉が一瞬驚いた顔を見せる。
しかし、続けて攻撃を仕掛けてきた。
……まただ、栄倉の攻撃と思われる、エフェクトが見える。
この時代じゃ、そうなのだろうか?
俺は、プロボクサーのように栄倉の攻撃をかわしながら、倒れている拓男に質問をする。
「拓男! なんか栄倉の攻撃が見えるんだけど!」
「はぁ!? なんだそれ!?」
俺だけに見える、赤いエフェクト。
しかも、なんだか体が軽い。
まさかと思い、俺は栄倉から距離を取って、ステホを起動してステータスを見てみた。
名前 高橋 正樹
クラス 剣系 剣聖
性別 男
レベル 1
HP 250/250
SP 50/50
STR 35(+30)
VIT 40(+30)
INT 34(+30)
MND 33(+30)
DEX 32(+30)
AGI 33(+30)
E なし
スキル 心眼
俺は、ステータス画面を見て驚きを隠せなかった。
【剣聖】のボーナスポイントは、ALL+30だったのだ。
だから、こんなに体が軽かったのか……。
そして、スキルの項目が増えているのが確認できる。
スキルの部分を、タップしてみた。
心眼 スキルレベルMastered
剣聖専用の、パッシブスキル。相手の挙動を予測して、行動できる。
赤いエフェクトが見えるのは、これの効果だったのだ。
「ハァハァ、てめぇ……ステホ見るとか、余裕こきやがって……!」
俺と違って、栄倉は疲れてきているようだ。
これが、VITの違いか。
すると、後ろから俺の顔を突き抜けて、赤い腕のエフェクトが見えた。
「後ろ!?」
「なにっ!?」
後ろからの、尾藤の攻撃をかわす。
「なんで分かった!? こいつ!」
「うおおおおおおお!!」
美籐と篠塚も加わり、栄倉と共に三人で攻撃をしてきた。
しかし、【剣聖】のボーナスポイントと、スキルの【心眼】のおかげで、俺は三人の攻撃を余裕でかわす。
慣れてきたからか、三人の動きが妙に遅く感じる。
いや違う、俺が速くなったのだ。
「正樹、お前……」
「正樹様! すごーい!」
「高橋ー! すげえええええええ!!」
拓男とソー子、そして教室内のみんなから、驚きの声が上がる。
「こらー!」
「やばい! 逃げるぞ!」
ようやくめぐみ先生が来て、恐怖のABCは逃げていった。
「ケンカ?」
「いえ、じゃれあいですよ、じゃれあい」
「言うねー! 高橋ー!」
「……まったく」
ため息をつくめぐみ先生と、歓喜の声に包まれる教室内。
みんな、あのような恐怖のABCを見たことがなく、嬉しかったのだろう。
田中まどかも、笑顔でこっちを見ている。
これは、気持ちがいい。
その後、元の時代とは違い、俺は無事拓男と共に購買へと向かった。
【剣聖】、【心眼】、最高のジョブとスキルだ。
――その日の夜。
優越感に浸りながら初日の高校生活を終えた俺は、家族にソー子を紹介していた。
「はじめまして! ソー子です!」
始めは両親も美樹も驚いていたが、ソー子の明るさもあり、すぐに打ち解けていった。
美樹とソー子なんて、もう友達のように話している。
「じゃあソー子、そろそろ剣に戻ってインベントリ入れ」
「えー! 嫌です!」
「お兄ちゃん! かわいそうじゃない!」
「ソー子ちゃん、はい、お飲み物」
「ありがとうございます! 正樹様のお母様!」
「正樹、父さんは家族が増えたみたいで嬉しいぞ」
俺の家族が、一人増えたようだ。