ワケあり令嬢と騎士2
運良く、子宝に恵まれない貴族の養子となった。
けれど妹が産まれ、『いらない子』となった。
元々、必要とされる感じはよくわからなかったから特に何も思わなかった。
そのはずなのに何故か妹を見るたび心の中が複雑にざわつきはじめて。無垢な赤子の顔を見て何をそんなに不快になるか、この気持ちは一体何なのかと考えてはみたがよくわからなかった。
歩けるようになり、言葉が話せるようになった妹を見てもやはりその感情は続いた。
心中がモヤッとしていてその正体がわからなくて苛々して仕方がない。それとは裏腹に悲しくなってくる、そんな時もあった。
妹が産まれた当時、ユーリスという少年はいつもと違うノノアントを気にかけて何があったのか問いたが、妹が産まれたと聞いた少年はノノアントのことをただじっと確かめるように見ていた、良かったねとは最後まで言わずに。
ユーリス。その少年はノノアントにとって唯一気の許せる存在となりつつあった。
生い立ちやここにいる理由、全てに関する情報を知らなかったが知ろうともしなかった。少年だけは信じてもいいと思ったから。
妹が最初に発した言葉は『お姉ちゃん』だった。
「この子があなたのお姉ちゃんよ」「お姉ちゃんに面倒みられて嬉しそうね」「お姉ちゃんのこと好き?」「お姉ちゃん、本当に面倒見が良くて助かるわ」
数々と母親が妹に発してきたことによるものである。ノノアントとしては「ママ」とか「パパ」とか最初に発するものだと思っていたから意外でしかない。それでも少し嬉しかった、だからーー。
血筋の繋がらない自分のことより、正式に血筋の繋がりのある親のことを最初に呼ぶようになってほしかった、それが普通であると罪悪感を感じた。
妹の面倒をよくみてたから捨てられずにすんだ。存在意義はない。生かされてるから生きてるだけ。
「お姉ちゃん。新しい騎士さんだよ」
透き通った優しい声は風にのって耳にすっと入る。
わざわざ紹介してくるのは毎度同じこと。今回も来るだろうとは思っていた。
妹は新しい騎士が来るたびその騎士を連れて紹介してくる。まるでお付き合いご報告のようだ。
妹の横に立っている人物を見て思う。ああ知ってる、と。
「ずいぶんとひ弱そうな男」
「そうかな。でもこう見えて筋肉とか結構ありそうだよね、騎士さんだし」
いつまで『お姉ちゃん』を演じ続けるか冷や冷やしたことがある。自分はまともな生活をしていたわけではないのに貴族の子供の面倒がちゃんとみれるのか。自分と同じように育ってしまわないか。
そんな不安をよそに妹は良き大人へと成長し続け、今でも妹は姉として慕ってくれている。
だから姉として居続けなければいけない。
嫌味を言っているというのに隣の男というやつは嫌な顔せず立っている。本当におかしなやつだ。
「よろしくお願いします」
あくまで初対面を装う。彼にしてはいい判断だと思う。
妹が成長し、認識や記憶ができるようになる前から彼の姿は見当たらなかった。この屋敷にはすでにいなかったということだろう。
お互い知り合いだと明かして妹に追求されるようなことにならずにすんだ。
へたでもして血筋の繋がっていない偽姉と知られたら、妹は、ルナはどんな顔をするか。
姉と偽ってきた自分を幻滅し冷笑し、そして一切関わろうとしないかもしれない。それが今までの期間の代償としたら納得できる。
この生活は何不自由なく楽すぎる。
出てきた食事を食べ気分転換に庭を歩いて疲れては眠る。
そんな生活はいつか壊れる。わかっている、だから慣れないようにとしているが十年は長すぎた。もっと短い時期に捨てられるだろうと思っていた。こんなにも長く居着いてしまえば少しくらい慣れてしまう。
でもこれ以上は望まない。後悔しないために。
「アンバスの世話してくる」
一瞥しては理由をつけてその場から離れた。
妹の前で羽目を外しているような態度は取れない。