目覚ましに少々の殺気はいかがですか
まだ陽が出て間もない、六ツ半。
木刀同士がぶつかる重い音と隊士の声が元気よく響いている。
『ん~・・・・・・あと半刻ぅ・・・・・・』
妖怪退治から帰ってきて、報告した後に組がいかに効率よく回るかを考えていたらなかなか寝付けなかったのだ・・・・・・。
なかなか布団から出れずに、寝返りをうった。
しかし、いくら初陣で疲れていたとはいえども新選組はそれを許さない。
――スパァアアアアン
なんだか、前にもこの音を聞いたことがある・・・・・・
「おい、苑流起きろ!稽古しようぜ稽古!」
「なんだ苑流って朝弱いのか?」
「いや、昨日は初陣だったらしいし、緊張して疲れてんだろ、っていってもこのまま寝かせとくわけにはいかねぇしなぁ・・・・・・」
3人の組長が、襖の前で考えこんでいた。
あどけない青年の寝顔を見て、起こすべきか、そっとしておくべきか悩んでいたのだ。
その時・・・・・・
シュッ
「組長方、お揃いで何をされておられるのですか・・・・・・」
「あんたは・・・」
監察方、紀炎。
自分の組の組長の部屋の前で3つの組の組長が揃っていることを不審に思って天井裏から降りてきたのだ。
もちろん、腰の刀に手をかけて。
「まぁまぁ、そんな睨むなや。俺らは苑流をとって喰おうとしてるわけじゃねーんだ、ただこいつの寝顔見てたらどうも起こしづらくてよ・・・・・・」
原田はそういった。
紀炎は、その言葉を尻目に苑流の方を見てため息を付いた。
「まったく・・・・・・いつまで寝ておられるのですか、苑流組長。組長は日中、二番組の組員のはずでしょう、組長に起こされるまで目を覚まさないとは」
そして、突然凄まじい殺気を放った。
「お、おいなに殺気だしてんだよ!」
「そこまでしなくてもいいだろ!」
永倉と藤堂がその行動を批判する。
確かに、自分の組の組長に殺気を向けるなど、あってはならない行為だ。
『(ビクッ)うぉおおっほい!? 紀炎君何事!?』
しかしその殺気で、今まで爆睡していた苑流は飛び起きた。
「さすがに鈍感な組長でも殺気には気づきましたか(ニコ)」
『う・・・・・・』
「三組長が呼びに来ていましたよ」
黒い笑顔を纏った紀炎は、修羅場を数々と踏んだ原田、永倉、藤堂でも後ずさるほどの威力を放っている。
「いやー、爆睡してたなー苑流」
「よっぽど疲れてたんだな!あんまり無茶すんなよ?」
『すいませんでした・・・・・・紀炎君も、起こしてくれてありがとう。できればもう少しやさしく起こして欲しいな』
「無理ですね」
『うんだよね』
紀炎は、可愛い子ほどいじめたくなる、といった心境だった。
殺気を出して、組長を怯えさせるのは心苦しいし好きでやっているわけではないが組長が殺気に敏感なため、起こすには手っ取り早くていいのだ。
しかし、殺気に敏感になるほどとは、いったい今までどんな生活をしてきたのか、興味がわいた。
そんなことを思いながら天井裏に戻る。
『まったく僕に優しくないよね、紀炎君h・・・っていないし!』
まったくもう!と地団駄をふむ組長・・・・・・可愛い←
「さってと、起きたことだし、さっさと顔洗って稽古するぞ!」
「ったくー新ぱっつぁんってほんとせっかちだよなー」
「ああ、ゆっくりでいいぜ?着替えてこいよ、部屋の外で待ってるからよ」
三人の中でも大人で、配慮があるのは原田組長だった。
お言葉に甘えてゆっくり着替え、部屋を出た。
これから、また厳しい1日が始まる。