~京と魔物と新撰組と~
幕末、様々な思想や策略がうずまき、政権が揺れ動く混沌とした激動の時代。
倒幕派と佐幕派が攻防を繰り広げる中で、京の都には不穏な闇が蔓延っていた。
それは、妖怪のような類のものであったり、人に取り付く魔物であったり……。
普通の刀では斬ることのできぬソレは、瞬く間に京中を恐怖に陥れた。
暮六つ(18時頃)には戸を締めよ、出歩くば魂を喰われるぞ。
誰もが恐れ、幕府や朝廷ですらお手上げであった現状を打破したのは、まだ幼さの残る一人の少年だった。名前を、阿部 苑流と申す。
文献などで古くから伝わる、阿部。
陰陽師の阿部 清明の末裔だという苑流は、今回の事件を阿部に対抗する道摩法師といわれる一族の仕業であると考えていた。
道摩法師は、かつて清明がその邪悪な力を封印し、一族を追いやったという記録が残っている。しかし、先祖が追いやった道摩法師がこの幕末、再び力を取り戻したのは、何か裏で糸を引く人物がいるやもしれぬ。
祖父にそう言われて、苑流は江戸からはるばる京へと趣いて情報収集を始めた。
京について早々、薄暗い小路から悲鳴が聞こえてきた。
走ってその場所へと向かうがその場には既に先着がいる。
京に集まって幕府をよく思わない過激派の人間を捕縛している、人斬り集団新撰組。壬生狼と呼ばれている、そんな連中が浅葱の羽織を靡かせて、魔物と退治をしていた。
事の真実を知るため、首謀者を滅するため、苑流は京都守護職お預かりの彼らの元に飛び込み、協力を要請する。
魔物に手を拱いていた新撰組も、苑流の持つ不思議な力に助けられながら、ともに道摩法師を追い詰めていく。
池田屋事件、禁門の変、そして五稜郭の戦い。
新選組は榎本武揚とともに、品川沖から開陽丸を旗艦に8隻の軍艦を率いて江戸を脱出し、蝦夷地に向かった。
途中仙台で会津戦争で敗走した伝習隊、旧新選組や彰義隊の残党を吸収し、北上、鷲ノ木に上陸し、各地を平定、五稜郭を攻略し、蝦夷共和国を作り上げる。
そして、ついに首謀者にたどり着く。
首謀者である男は、安政の大獄で処刑されたはずの吉田松陰だった。
時代の荒波に揉まれながらも、闇に立ち向かい奔走する新撰組。
たどり着いた蝦夷の地で、新政府軍と戦う最中に現れた吉田松陰は、ぽつりぽつりと、今回の事を引き起こしたきっかけを語り始めた。
それは、革命を起こせなかったことの無念。
激しい戦いも、新政府軍勝利と共に終わりを告げ、新選組は松陰と共に北の大地に散った。
最期を見届けた苑流は、彼らの存在した証を、後世に語り継いでいく。