鬼の居ぬ間になんとやら
土方さんと、山南さんが大阪へ出張にいった。
副長と総長が同時に不在だと、みんな浮き足立っていた。
「苑流ーっちょっと付き合えよ!!」
縁側で休憩をしていた僕の背中に飛びついてきたのは、藤堂組長。
『ぐぇっ・・・・・・・藤堂組長、土方さんと山南さんがいないからって、遊んでたら怒られますよ!というよりも僕に飛びかからないでください』
藤堂組長はいつも、僕と遭遇すると飛びかかってくる。
「へへっ別に怒られねーって!心配性だなあ、苑流は」
人懐っこい笑顔を向けてくるから、許さざるおえない。
「平助は苑流が自分より年下で背も低いから飛びつきやすいんだよな~なつかれたな、苑流」
『原田組長・・・・・・』
僕は藤堂組長になつかれてるんですか・・・・・・。
でも藤堂組長、犬っころみたい。
「平助、佐之!おせぇよっ、苑流呼んでくるのにどんだけかかってんだよ!」
「わりぃな、新八」
三馬鹿が揃ってしまった。
どうやらこれからどこかへ出かけるらしい。
「これから島原にいくんだが、お前もどうだ?」
『島原・・・・・・有名な花街じゃないですか、真昼間から女子でも買うんですか』
正直、組長が揃いも揃って情けない。
『組長方が昼間から花街では、隊士に示しがつきませんよ』
「おいおい、山南さんみてーなこというなよ」
正直、僕は花街に興味がないし、別に組長たちがどこへ行こうが関係ないんだけれど・・・・・・
「だいたいなぁ、いつ死ぬかわわからねえこのご時世、楽しみたい時に楽しむのが一番ってわけだ!!組長命令だ、行くぞ!」
『それ、職権乱用ですよ、組長』
「うるせーっ」
そんな会話をしながら、三組長に連れられて屯所の玄関へ向かっていた。
「おや、みんな揃って出かけるのかい?」
出てきたのは、源さんこと、井上源三郎さん。
僕的には、優しいおじいちゃんなんだけど、怒ると超怖いの。
「おお、おう、源さんじゃねーか、そうなんだ、これからちょっと町へ行こうかとおもってよ」
「せっかくこんな晴れてっからなぁ!!」
「そうか、なら私の買い物に付き合ってくれるかい?ちょうど今日の夕餉の買い出しに行こうとおもっててねぇ、荷物が重たくてかなわんから、君たちが手伝ってくれたらおお助かりだよ」
源さんは、組長たちの苦し紛れの言い訳を信じたようだった。
しかし、源さんに頼まれてはさすがに組長たちも断りきれない。
「うっ・・・・・・あ、あたりめーだよ。おら、おまえら行くぞ!」
渋々買い出しに付き合わされ、しまいには夕餉の準備をさせられた。
そして、幹部全員揃って夕餉を食べている最中、源さんが入ってきた。
「みんな、ちょっといいかい」
そして、僕たちは悲報を聞かされることになる。
「そんな・・・・・・」
大阪に出張中の山南さんが、腕を斬られた・・・・・・・。
『それで、容態は?』
「命に別条はないようだが・・・・・・。」
武士にとって腕は命の次に大事なもの。
刀は容易に片手で震えるものじゃない。
「・・・・・・・山南さん、もう刀は握れねぇな・・・・・・・」
山南さんは、大丈夫だろうか。
「どっちにしても二人の帰りを待つしかねえよ」
楽しかった、夕餉が嘘のように暗くなった。
各々席をたち、部屋へ帰っていってしまった。
幹部たちがこれだけ落ち込むほど、山南さんは愛されていたし、刀の腕は素晴らしかったのだ・・・・・・。