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ミュンと魔法

「へえ、じゃあミュンさんは汎性魔法士なんだ?」

「そうなんです。よく、器用貧乏なんて言われちゃうんですけど、ネ」


 わたしが食事を終えるのを待って、わたしたちは街へ繰り出した。

 アルアの先導に従って、わたしとアルスさんが横並びでついていく。

 いつも基本的にわたしとアルアはとなりだから、こういう形で歩くのは珍しい。

 いつもは見ないアルアの後ろ姿は、補正がかかっているのを無視してもカッコイイと思う。

 剣士だけあって、立ち姿が綺麗なのだ。


「器用貧乏なんて言う奴はね、汎性魔法士と一緒に戦ったことがない奴だよ。一緒にダンジョンに潜ってみれば、ミュンさんみたいな魔法士がひとりいるだけでどれだけ変わるかすぐにわかるのにね」

「そんな……、褒めすぎですよ」

「いやいやご謙遜を。僕なんて、元素魔法を二系統二音節と、系統外が少しだけの攻性魔法士だからね。仲間の援護はできないし、日常じゃこれっぽっちも役に立たない。焚き火一つ起こすのだって、どれだけ魔力を抑えても消し炭にしちゃうんだもの」

「アハハ、攻性魔法士の贅沢な悩み、ってやつですね?」

「贅沢すぎて涙が出ちゃうよ」


 ふと、アルアが立ち止まってわたしたちを振り返った。

 お、もしかして嫉妬してくれちゃったり?


 ところがやっぱりアルアはアルアだった。わたしたちを見比べると、にやっと笑って。


「そうしてると仲のいい兄妹みたいだな。ほら、髪の色も似てるし」


 たしかにわたしの髪とアルスさんのブロンドの髪は似てるかもだけどさあ。

 もうちょっと他に、ないのかなあ。


「おやおや、アルアがあんなことを言ってるよ、妹よ」


 えっ、アルスさん乗るんですか!?

 この人も、良くも悪くもアルアの友達ってことか……。


 ならわたしも乗ってやろうじゃないの。


「まったくですわ、アルスにい様。おかしなアルア。わたしたち、最初から兄妹なのに」


 負けた、とアルアが苦笑いして両手を上げる。

 アルスさんがクスクス笑いながらその肩を叩いた。

 わたしからしてみれば、あの二人の方が、よっぽど仲のいい兄弟に見えるんだけどな。

 もちろん、アルス兄にアルア弟で。


「と、ついたな。ここだ」


 アルアがわたしたちを連れてきたは、魔法道具を扱うお店だった。

 アルスさんはこの街に来て日が浅く、アルアは以前来たことがあるらしいので、案内してもらったというわけだ。

 かくいう私も、切れかけていた触媒を補充するためにいろいろ欲しいものはリストアップしてある。


 シワだらけのお爺さん店長に挨拶してから、わたしとアルスさんは店内を物色する。

 アルアは入口の方で特価品のケージを見ていた。

 たまに無意味なものを衝動買いするのがアルアの悪い癖なんだけど、まあ特価品ならいいか。


 アルスさんは火と土の系統魔法に使う触媒を重点的に見ているみたいだった。

 さっき、二系統二音節って言ってたから、それに使うのだろう。


 この世界の魔法はいろいろある。

 本当にいろいろ、というしかないくらいたくさんの種類があって、その中でも有名なのが『元素魔法』と『系統外魔法』、『古代魔法』に『精霊魔法』だ。


 この世を創っているとされる四大元素、すなわち火、水、土、空気を扱うのが『元素魔法』。

 その四系統から外れたユニーク魔法が『系統外魔法』。

 魔法士の国だったとされる古エルフィアン国で使われていた『古代魔法』に、わたしがこの前バルガスに使った『精霊魔法』。

 ほかにも『召喚魔法』や『付与魔法』など分類はたくさんあるけど、主なのは今挙げた四つだ。


 この四つの分類は結構適当。

 『系統外魔法』の中には、いくつかまとめて『○○魔法』みたいに体系化してるのもあるし、『古代魔法』を使いやすくしたのが『元素魔法』だから、もとはと言えば全部『古代魔法』じゃないか、という人もいる。


 一般的に『元素魔法』は一番簡単で、そこから先、才能やスキルで『系統外魔法』が使えるようになり、そういう人たちが何人か集まって大規模な『古代魔法』が使える、という感じらしい。

 『精霊魔法』は適性しだいで、四大元素を司る精霊たちに気に入られた人だけが使うことができる。


 わたしの肩書き『汎性魔法士』は、そういった分類の魔法のうち、二十以上の種類が使えるということを示してる。

 たくさんの便利な魔法を使える代わりに、使える魔力は少ない、というのが器用貧乏と言われる所以だ。

 割とレアな肩書きなんだけどなあ。


 アルスさんの『攻性魔法士』は、その名の通り攻撃が主な魔法士のこと。

 回復専門の魔法士や援護専門の魔法士もいるんだけど、一番多いのは『攻性魔法士』だ。

 魔力にものを言わせて、攻撃力の高い魔法で敵を押し切る、PTの最大火力。

 高名な『攻性魔法士』の中には、敵対する国の軍をひとりで消し飛ばした、なんていう人もいるらしい。


 アルスさんは二系統二音節の元素魔法を使うらしい。

 火、土の二系統。二音節ということは、2×2でフォースクラスってことか。


 元素魔法の名前は、その威力によって音節が分かれてる。

 簡単な魔法士の力量の測り方に、何系統の魔法を何音節で使えるか、っていうのがある。


 たとえばアルスさん。

 火、土の二系統に『en-ka』や『do-heki』と言った二音節魔法が使えるってこと。

 これを掛け算して、出てきた数字がその人のだいたいの力量、ということになる。

 まあ、元素魔法を使わない人もいるし、あんまりあてにならないんだけどね。


 わたしの場合、火、水、土、空気の四元素全て使えるけど、魔力が少ないから使えるのは一音節だけ。

 だから4×1でわたしもフォースクラスってこと。


 わたしは精霊さんたちがよろこぶ供物の棚を見ながら、チラ、とアルスさんを見た。

 触媒はもういいのか、今度は陳列されている杖のあたりを見てる。


 アルアの旧友で、武闘会で決勝まで上がれるような人物。

 そんな人が、わたしと同じクラス?

 よほどその『反則技』というのがすごいのだろうか。

 『魔法殺し』。なんか怖い二つ名だけど、本当ならすごいことだ。

 現代では剣士など前衛職も魔法を使って自己強化しているのが当然だから、それを崩されると弱いという人も多い。

 そういうのを利用するのでは。


 ぼんやりしていたら、アルスさんがわたしの手許を覗き込んでいた。


「何かいいのがあった?」

「は、はひっ」

「? あ、これは……」


 そう言ってアルスさんが手にとったのは、精霊さんたちの大好物の鉱物だった。

 土の精霊『ノーム』は目に見えないけれど、これを置いとくといつの間にか無くなっている。

 彼らの好物らしく、これをあらかじめ播いておいて精霊魔法を使うといつもよりも威力が強くなるのだ。


「ミュンさんは精霊魔法も使えるのか。よかったら、何系統使えるか教えてくれるかい?」

「あ……、四つ、です」

「! それはすごい! 精霊たちに愛されてるんだね」

「愛されてるだなんて……」

「いや、僕の知ってる魔法士の中にも、精霊魔法を四系統使える人はほとんどいない。それこそ、賢者と呼ばれる一部の高位魔法士だけだ」

「あ、わたしも賢者の人をひとり知ってます。その人も四系統使えますよ」

「へえ、よければ名前を教えてくれる?」

「わたしはラファ姉って呼ぶんですけど、本名は確か……。ラファエラ・カリエラだったけ?」

「…………、『天蓋の魔女』ラファエラか。物凄い人と知り合いなんだね……」

「え、そんなに凄い人なんですか?」


 アルスさんは苦笑する。


「その様子じゃ知らないみたいだね。本人が言ってないなら、僕が言うわけにもいかないか」


 手の中で供物を転がしながら、わたしの頭を撫でるアルスさん。


「大丈夫、そのうち本人が話すか、旅を続ければ嫌でも知ることになると思うよ。賢者でありながら、『魔女』と呼ばれる彼女のことを。だけど安心して。彼女個人に会ったことはないけれど、きっと君の味方だから」

「それは、まあ……」

「はは、会ってすぐの僕が言うことでもないか。ごめんね、変なこと言って。年を食うとどうもダメだな、言うことが全部説教臭くなってしまう」


 そう言うと、アルスさんは鉱物をいくつか持ってレジの方へ。


「あ、あの……、それ……」

「迷惑料、ってことで、僕に払わせてくれない?」

「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ」


 アルアにもこういう気遣いができるといいんだけど……。

 店頭を振り返ると、野良猫と遊んでいた。


 まあ、期待するだけ無駄ですよね。




 買い物を終えたわたしたちは、街から一度出て近くの平原へ。

 低ランククエストの採集なんかをしてるPTやソロの冒険者たちとすれ違いながら、まわりに誰もいないところまで来た。

 ここでPTの連携の確認なんかをする予定だ。


 さて、とアルアが指を立てた。あれはアルアの癖なのだ。


「アルア、まだ君その『さて』っての使ってるの? 好きだねえ」

「うっせ、いいだろ別に」


 ごほん、と咳払いしてアルアがわたしを指さす。


「俺が前衛でミュンが後衛って形でしばらくやってきたから、俺もその連携が体に染み付いてるし」


 染み付いてるって。なんか嫌だな。身に付いてるくらいにしといてよ。


「ミュンに至ってはこれ以外の形を知らない。だから、基本はこの形にアルスが臨機応変に入る形にしたいんだけど、いいか?」

「僕は大丈夫だよ。だとするなら、僕は中衛ってとこかな?」

「後衛寄りで大丈夫だけどな。俺がタゲ取りに失敗することはないだろうから」

「でも前衛1の後衛2よりは縦列の方がいいしね。ま、僕はミュンさんの近くにいるようにするよ」

「ああ、頼んだ」

「ということらしいけど、ミュンさんは大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「よし、じゃあおたがいできることを知っとこうか。ミュンさんは僕の『反則技』も知りたいだろうしね」


 う、バレたか。でも早く知りたいのだ。死活問題だし。


「じゃあ先にご開陳といこうか」


 笑顔でアルスさんが杖を取り出す。


「ミュンさん、なんでもいいから魔法を僕に撃ってくれないかな? あ、わかりやすいように、派手なやつの方がいいね……。アルア、危なくないけど、一応離れてて」


 どういうことかな、と不思議に思ったけど、本人が言うならと気を取り直して私も杖を構える。

 あたってしまっても大怪我にならず、それでいて派手、か。なら……。


「じゃ、いきますよー?」

「OK。いつでもいいよ」

「では……」


 詠唱はショートカット。

 魔力を練り上げる過程で初心者は呪文を唱えるけど、中級者以降は省略がデフォルトだ。

 当然わたしも元素魔法なら詠唱はいらない。


 練り上げて密度が高まった魔力を、杖に流し込む。

 杖は魔力の収斂機関。練り上げた魔力に指向性を持たせて、さらに圧縮する。

 発動に必要な量がたまったところで魔力の注入をやめる。

 ここから魔力をたくさんつぎ込むと、魔法の威力も一定範囲までは上がるけど、アルスさんに怪我させるわけにもいかないから最低限でやめておく。


 すう、と息を吸ってアルスさんを見る。

 自然体で立っている彼は魔法を準備している様子はない。

 系統外魔法『魔力壁』も土の物理防御『do-heki』も発動していない。


「『ryu』」


 選んだのは水の一音節魔法。

 強烈な水流が杖の先からほとばしり、蛇行しながらアルスさんに迫る。

 威力は最低とは言え、直撃すれば細身のアルスさんは吹き飛ばされてしまうだろう。


「『マジック・ディスターバー』」


 危ない、とわたしが魔法を解除しようとした瞬間、アルスさんの杖が紫色に輝き、その瞬間。


 強引にわたしの魔法が掻き消えた。


 それはまさに、感覚的に言うなら『乱された』。

 練ってまとめて圧縮した魔力の結果である魔法が、乱暴にぐちゃぐちゃにされた感じ。

 結果として魔法は維持できず、消えた。


 凄い。こんな魔法、見たことない。系統外魔法だろうか?


「これが『魔法殺し』だ。ミュン、すげえだろう?」

「う、うん、すごい」

「いやあ、そんなでもないさ。別にこんなの使わなくても、『魔力壁』とか使えばいいんだからね」

「でもこれ、この感じなら……」


 もしかして……。


「あの、『呪い』とかも解けるんじゃ?」

「お、よくわかったね。そう。こいつは『呪い』にも一定の効果がある」


 『呪い』。

 系統外魔法の一種で、体系化した小規模の魔法群。

 その効果は残酷なものが多く、対象を苦しめることを主眼においたそれらは忌避されることが多い。

 ただ、だからこそ多用する人もいて、しかも厄介なのが、『呪い』は解くまで効果が継続する、ということ。

 放っといても治るわけじゃないのだ。


 『呪い』を解くためには高位の神官に『解呪魔法』を使ってもらうしかないんだけど、これがまたややこしい。


 『呪い』には『対解呪強度』っていうのがあって、これが高いほど『解かれにくい』。

 逆に解呪魔法には『解呪能力』の高低があって、この二つの勝負で解ける解けないが決まる。

 で、それがどっちも高いと、あとは『呪い』をかけた人と『呪い』を解く人の魔法資質の差によっても変わってくる。


 というわけで、要するに『呪い』は解くのが非常に難しいのだ。

 高位の神官の中には高いお金を要求する人もいるし、貧しい人の中には一生呪いに苦しむ人もいる。

 だから『呪い使い』は指名手配とかされている場合も多いのだ。


 そんな『呪い』にも効果がある『マジック・ディスターバー』。

 凄いとしか言い様がない。


「僕も普段は解呪が副業みたいになっててね。各地を回って呪いに苦しむ人たちを解呪して回ってるんだ。今回の仕事もそのつながりで依頼されてね」

「呪いを放つ魔獣の討伐、ですか」

「そう。AランクPTが追い詰めたらしいんだけどね、メンバーが呪いをかけられちゃって、あと一歩で逃げられたらしくて。そいつを仕留めるのが、今回僕の請け負ったクエストなんだ」


 AランクPTが仕留め切れなかった魔獣……。

 わたしとアルアで大丈夫だろうか……。


「心配しなくても、もう手負いらしいから大丈夫だろ。ま、相手が完調だろうが別に問題ないけどな」

「そうそう、その場で解呪できる僕もいるし、安心して」

「は、はい……」


 アルアとアルスさん。二人が言うと、なんだか本当に心配する気がなくなってしまうから不思議だ。この二人なら、本当になんでもできそう。


「さ、触媒はたくさん仕入れたんだ。今度はミュンさんの魔法を見せてもらおうかな」

「はいっ」

「俺は?」

「アルアは素振りでもしてれば?」

「ひでえな、おい」


 その日、わたしは魔力切れギリギリまで魔法を使い、ひさびさに気絶寸前まで頑張った。


 否、気絶してアルアに抱えられて宿まで帰ってきたらしい。

 どんな抱え方だったか非常に気になるところだけど、誰かに聞くわけにもいかず悶々とすることになる。

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