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 扉を開けて入ってきたのは、マキさんと同じくらいの年頃の男性。マキさんはちらっと見て、笑顔を消した。


「まだ準備中だ。開店時間に出直しな」

「ツレないなぁ……マキは。相変わらず面白い事やってるんだって?」


 マキさんが入ってきた男にじろりと睨みを効かせる。


「……まったく、何を嗅ぎ付けてきたんだか……」

「俺は子供の味方なんだよ。オマエと一緒でな」


 ニヤニヤ笑いながら、私と鏡弥を見比べる。

 誰? 鏡弥も警戒して睨み返した所で、マキさんは鏡弥をじっと見つめた。


「鏡弥。結花の荷物持ちに付き合ってあげな」


 私はびっくりして鏡弥の顔をまじまじと見てしまう。マキさんや優弥が一緒だと心強いが、鏡弥と二人きりというのはまだ怖い気もした。


「えー。面倒」


 文句を言いつつ鏡弥は男を気にして、マキさんと交互に見比べている。


「ちょっとコイツと話があるんでね。出かけてもらえた方がこっちもありがたいんだよ。安心しな。優弥が寝てる間に終わるし、お前達の悪いようにはしないよ」


 鏡弥も私もマキさんにそう言われれば断れない。善意で居候させてもらってるのだし。鏡弥と一緒の買い物か……と、ビクビクしていたらマキさんがこっそり言った。


「心配する事ないよ。鏡弥は口は荒っぽいけどあれで結構お人好しだから」


 マキさんに背中を押されて鏡弥の前に進み出る。面倒そうに頭をかいてため息をついているが、すでに買い物に付き合う気があるようだ。


「財布持ったか。行くぞ」

「鏡弥さん。よ、よろしくお願いします」


 鏡弥がくしゃっと顔を歪めて笑った。そして私の頭をポンポンと叩く。


「そんな顔するなよ。とって食ったりしないからさ。それと俺の事は鏡弥でいいよ。麗花の姉妹なら同じ年だろ」


 そういえば双子の優弥が同級生なら、鏡弥も同じ年なのだ。精悍な顔つきが大人びて見えるが、中身は自分と変わらない。

 そう思ったら少しだけほっとして、私は大人しく着いて行く事にした。

 店を出る直前まで、鏡弥は男の事を気にしてたけど、きっとマキさんの友達とかそういう人……だよね?



 自分の分の買い物を終え、マキさんに頼まれた食材を買いにスーパーによる。店について買い物かごを持とうとしたら、鏡弥にひょいと取り上げられた。


「俺はどうせ荷物持ちだからな」


 鏡弥は拗ねたように唇を尖らせつつ、重い荷物を全部持ってくれようとする。マキさんが言ってた案外お人好しというのは、わかる気がした。

 第一印象は怖くて最悪だったけど、不器用な優しさを知ったら、逆に親しみがわいた。


「でも……荷物もう持ってもらってるし、左手が……」


 前の店で買った荷物を右手で持ち、左腕にぶら下げた買い物かご。怪我をしてるはずの左手が気になった。


「ああ……これか。ちょっと力を入れづらいが、だいぶ治ってきたし、気をつければ大丈夫だよ」

「怪我……したの?」

「まあな……一ヶ月前くらいかな。ちょっと……警察に捕まりかけて、逃げる途中で骨を折っちまって」


 警察という言葉にびくりと怯え、骨を折ったと聞いてさらに驚く。私の怯えを見て、鏡弥はへらっと笑った。


「麗花が手当してくれたし、だいぶ傷みもなくなってきた。一ヶ月使わずにいたから、鈍って力が入りづらいだけだ」

「麗花が手当? 医者じゃないのに?」

「医者なんて信用できない。大人はみんな敵だ。麗花は凄いよ。手の腫れ具合を見て、骨折だって気づいて、ギブスみたいにぐるぐる巻きにして固定してくれた。一ヶ月不自由だったけど、もう痛みもほとんどないし平気」


 医者でもないのに、怪我の知識がわかって、手当できる。双子なのに麗花との格差が凄すぎて嫉妬した。私なんて何の特技もないしな……と比較して落ち込む。

 その時ふっと笑った鏡弥の手がぽんと頭に乗る。


「心配してくれてありがとな」

「ちが……」

「怪我の心配してないのか?」

「……心配はしてるけど……そうじゃなくて……私じゃなくて、麗花が一緒ならよかったのに……って、思って」


 麗花という言葉に、鏡弥の笑顔が陰る。とてもせつない表情で、俯いて左手をじっと見る。


「本当は……俺の事情に巻き込みたくなかったんだが、アイツは優しいからな。越境なんて危険を犯してまで追いかけてくれた」

「麗花のこと……好きなの?」

「いやっ……その、あの……えっと……憧れてるというか、俺にとって特別というか……好きとかそんな生温いもんじゃないっていうか……」


 しどろもどろになる鏡弥の顔がほのかに赤い。麗花の事が本気で好きなのかな? と思ったら、さっきの嫉妬とはまた別の胸の痛みを感じた。

 鏡弥に好かれる麗花が羨ましい。そう思ってしまった。

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