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テレビには政治討論番組が映し出されている。いくつかの政策について、政治家達が議論していて、その議題の中に、双子分割居住法の是非について話題があがった。
「基本的人権の侵害だ」
「いや、双子によるトラブル防止の為に、必要な法律だ」
多くの議員は反対意見に同意している。
「世論調査では、国民の98%が双子分割居住法は国民に支持しているという、データがあります」
テレビだけを見ていると、双子分割居住法に否を訴える議員が、まるで悪者のような印象があった。
双子分割居住法は、僕が生まれる前からあった法律で、今まで疑問も感じず過ごしてきた。不都合も感じず、普通に世界は廻っていたから。
昼間出会った、生意気そうな女の顔を思い浮かべ、ぎりっと歯を食いしばる。
だが同時に思う。顔が音無さんそっくりなせいか、どうも憎めない。
そしてどうして双子は離れて暮らさなきゃいけないのか……姉妹なのにと思った。
「どうしたの? 海斗。そんな怖い顔して」
姉が不思議な顔をして問いかける。その姿を見て、慌ててテレビを消した。
「なんでもない」
双子分割居住法には、もしかしたら問題があるのかもしれない。
でも世論調査で国民は、双子分割居住法を支持していると、テレビで言ってたじゃないか。何も問題ない……そのはずなんだ。
自分の部屋に戻ってネットで調べた。双子分割居住法の成立経緯、施行後の国内の変化。それは学校の授業で習ったように、双子分割居住法の正当性を示すものばかりだ。
反対意見はないのかと調べたが、なかなか見つからない。
ずっと探してやっと、アンダーグラウンドな掲示板で、最近かき込まれた反対コメントを見つけた。
『双子の片方を親から引き離して育てるのは虐待だ』
だがその掲示板の過去の書き込みは、いくつか削除されている。嫌な予感がした。この反対意見もまた、削除されるんじゃないだろうか?
何も疑問に思わなかったこの世界に、得体の知れない不気味さを感じて、僕はそっとパソコンを閉じた。
その後、隣のクラスの友人に、氷室について何か知らないか? と連絡をする。
『氷室? ああ……あの陰キャな奴な。いつも一人で友達もいなさそうだったし、あんまりよく知らない』
『でも無断欠席してるんだろう? 騒ぎになってないのか?』
『担任はただの家出だって言ってたぜ。ホームも捜索願を出したって、連絡がきたんだってさ。そんな事珍しくもないだろう? たいした事じゃないよ』
家出がたいした事じゃないのだろうか? 珍しくもないのだろうか? なんだかその感覚に違和感を感じた。
ホームそれは『双子分割居住法』とともに作られた特殊な施設だ。
双子を別地区に引き離すということは、片方は親から引き離されて育つことになる。引き離された双子を集団で集めて保護するため、通称ホームと呼ばれる共同生活施設が作られた。寮のような物だが、その施設の管理人が法的に保護者扱いになる。
僕は双子ではなかったので、両親とともに暮らしている。ホームで暮らす友人もいるが、住んでいるわけではないので実態を知らない。
『氷室がいたホームは前にも家出が何人かいたらしい……とも聞いたけど、でも誇張されたデマだって噂だよ』
デマ? 本当にそうなのか?
今まで聞いた噂ではホームには良いところも悪いところも色々あるらしい。僕は年の近い友人が沢山出来そうなホームに、僕は密かに憧れを持っていた。でもそれだけ。
今までホームの事はよく知らなかったし、知ろうとも思わなかった。ただ、今日感じたいくつもの違和感。作為的に双子分割居住法への反対意見が消されている感じ。
それを思うと、ホームの内情も怪しいものに思えてきた。生まれながらに親と一緒に生活できない双子。彼ら、彼女らは、どんな想いでいるのだろう?