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二階の内階段の途中、ちょうど一階全体が見渡せるところで、海斗と優弥は固唾をのんで見守っていた。
「音無さん……だいじょうぶなのか?」
「結花ちゃんなら大丈夫……きっと」
優弥の言葉に根拠はなく、むしろ自分に言いきかせているようだった。一階にたむろする、鏡弥とブレイカー達の雰囲気は険悪なもので、僕ですら、その中に入っていくのに尻込みする状態だ。
皆が麗花を取り戻すため、明日の移送中を狙おうと話し会っている真っ最中。そんななか麗花の振りをして入っていくなんてできるのだろうか?
音無さんが準備が必要だから時間が欲しいと出て行ってから随分立つ。もう時間は夕暮れに近づき、残された時間は残り少なくなってきた。
じりじりと焦っていると、店の重い扉がみしりと音を立ててゆっくりと開いた。皆がその扉に注目し、ついでどよめきが生まれた。
そこには紛れもなく音無麗花が立っていた。前髪を流し、緩くウェーブを描いてセットした髪と、ギリギリ丈のミニスカートがオシャレに似合っている。しかし形だけの似方では無かった。不敵に笑い、鏡弥達の視線を浴びてなお、堂々と胸を張って立つ姿はまぎれもなく麗花だった。
「なに辛気くさい顔してんのよ。みんな」
明るくそう言いはなって麗花はずかずかと店の中に入ってきた。真っ先に駆け寄ったのは鏡弥だった。
「麗花! 無事だったのか? 警察に捕まったんじゃ」
「警察の誤認逮捕よ。捕まったのは姉の結花の方。私は隠れて隙をうかがってたの。奴らに反抗する隙をね」
よく通る声はフロアの隅々まで響きわたり、皆の注目を一身に集めた。その中で尚、音無さんは麗花であり続けた。
「本当に……麗花なのか? 誤認逮捕だなんてあるのか?」
藍田が疑うような眼差しで麗花を見つめる。しかし麗花はまったく動じずに不敵に笑った。
「誤認逮捕よ。じゃなきゃどうしてここに私がいるのよ」
あまりに堂々とした姿に、殺伐とした空気から一転、皆が歓喜の声をあげ始めた。
「じゃあ。麗花は無事だったんだな」
「当然よ。いい、今回の件は警察の罠よ。急いで奪還しようとした隙をついて、私達の一斉検挙を狙ってるの。だから今は動かない事が重要なの」
麗花がそう言い切った時、鏡弥は不安な表情で言った。
「でも……結花は捕まってるんだろ。助けなくて良いのか?」
麗花もその言葉にくすりと余裕の笑みで返した。
「そもそも誤認逮捕。音無結花に罪状はないのよ。捕まったのが結花だと証明すればいいだけ。そうすれば警察も釈放せざるを得ないわ」
「そんな……どうやって……」
麗花はすっと一枚のDVDを取り出した。
「これは私の映像入りの犯行声明。これを信用できるジャーナリストに渡すの。ネットや色んな媒体に拡散してもらえる見込みがあるわ。私は警察になんか捕まってない、誤認逮捕の警察はバカだと嘲笑ってやったわ。マスコミが流せば世間が騒ぎ、警察も糾弾される。結花を釈放せざるを得ないでしょう」
それは優弥がたてた作戦だった、それをあたかも自分が思いついたかのように自信たっぷりに話す。しかしその姿はよく似合っていて皆を引きつけた。またもや歓声があがり、麗花はみんなにもみくちゃにされるように取り囲まれた。
それでも音無さんは麗花のまま明るい笑顔を浮かべていた。
そうここにいるのは紛れもなく音無麗花だった。とても音無結花が変装しているとは思えないほどに。
彼女は生まれ変わったかのような変貌を遂げたのだ。
「すごい……。音無さんすごい」
「ああ……僕も正直ここまで結花ちゃんができるとは思わなかった」
事実を知る僕と優弥は眼下の状況を見下ろしながら、密かに感動していた。ふと麗花の振りをした結花が見上げた視線と、僕は目があった。
それはもう恥ずかしがりで内気な彼女の物ではなかった。大切な物のために戦おうとする、芯の強い意志を感じた。彼女は確かに変わったのだ。
「僕も変わらなきゃいけないのかもしれない。音無さんみたいに。ただテロを否定するだけじゃない、この世界を変えるための何かを」
「この国の人達が少しづつ変われば世界が変わる。そんな夢物語あるわけないとバカにする人もいるだろう。でも僕達は結花ちゃんは変身した姿を目撃したんだ。彼女に出来て僕達にできないという事じゃない。やるかやらないかなんだ。海斗君も変われるはずだよ」
僕と優弥の二人に見守られながら、無事結花は麗花の役目を成し遂げた。




