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 眠れぬ夜を過ごして、一夜明けても戻らなかった麗花の事を思い不安になった。居ても立ってもいられず、私は土曜の午後、街へと向かった。

 ふらふらと当てもなく歩き続け、そろそろ夕方が近づく時間になっても、麗花はみつからない。

 やっぱりRhapsody in Blue以外に麗花が行きそうな心当たりはない。あそこに行ってみよう。

 Rhapsody in Blueへと行く途中、駅前広場を通りかかり、ふと立ち止まる。結城君が巻き込まれたテロ騒ぎからまだ2日しかたっていない。

 それなのにまるで何も無かったように、いつも通りの広場だった。あんな事をまた麗花はやろうとしているのだろうか? そう思うと胸が痛む。


「音無さん?」


 振り返ればそこに、あのときと同じように結城君がいた。


「結城君……どうしてここに?」

「アイツらのテロが正しいのか悩んでたら、自然とここに来てしまったんだ」


 結城君の困った様な笑顔に私は小さく頷いた。私も結城君と同じ気持ちだった。事件は何事もなければ風化して忘れ去られていく。でもこの場所に来ると、あの時のリアルな感情が思い起こされた。

 救急車が来るまで、結城君の安否が気になって泣き出してしまった事、目覚めない結城君が怖くて離れられなかった思い。

 麗花の言う事もわかる。でもやっぱりテロなんてさせちゃいけない。無事な結城君の姿を見て、改めて思った。


「麗花が昨日の夜出て行って帰ってこないの」

「アイツなら……午前中に会った」

「え?」


 結城君は怒りと悲しみが入り交じったような、複雑な顔をしている。


「テロ組織のリーダーだっていうのに、僕が怒ったら本気でうろたえて、困って……泣きそうな顔してた。音無さんと同じ顔でそんな姿を見たら……調子が狂う。怒って反論でもしてくれたら、こっちも怒ったままでいられたのに」


 犯罪者だ、悪いテロリストだ。そうやって悪人として切って捨てられたなら、楽だという気持ちはわかる。私も割り切れずに迷ったから。


「麗花がどこに行ったかわかる?」

「……ちょっと話しただけで、どこに行ったか知らない」


 結城君に話していいのか、少し迷ったけど、一緒に相談できる人がいて欲しかった。


「麗花達はまたテロをしようとしてるみたい……」

「何だって!」

「止められなかった……麗花に『双子分割居住法』に苦しむ人達を見捨てる事は許されるのかって言われて、反論できなかった」


 涙があふれそうになるのをこらえる。結城君はそっと私の肩に手をおいて言った。


「音無さんは悪くない。僕だってそう言われたら、なんて返して良いかわからなくなる」

「それでも止めたいの。私は普通に幸せに暮らしたい。麗花と二人で」

「だから探しているの?」


 私が小さく頷くと結城君は優しく微笑んだ。


「僕も手伝うよ。僕もアイツを悪人だって切り捨てられない。音無さんの妹なんだから……助けたい」

「ありがとう……」


 私達はそのままRhapsody in Blueへと向かった。店の扉を開くと、マキさんはいなくて、藍田君と何人かの男の子や女の子達がいた。『ブレイカー』のメンバーだと気づいてびくりとする。

 結城君の顔が険しくなって、私の服を強く握りしめてた。『ブレイカー』のメンバーは結城君の顔をじろじろ見て警戒している感じだ。


「結城……お前なんでここに……」


 藍田君は明らかに戸惑って、一瞬私を睨んだ。気まずい空気の中、なんとか何か言わなきゃと勇気を振り絞る。


「……麗花が……いなくなって。どこに行ったか知らない?」

「俺達も連絡がつかなくなって困ってた所だ。……色々相談中だったのに……」

「優弥と鏡弥は?」

「優弥は部屋で休んでる。アイツは俺達と関わりたくなさそうだから。鏡弥は麗花を探しに行って、まだ帰って来ない」


 藍田君は部外者の結城君の前だから、曖昧な事しか言えないのだろう。それ以上何かを言おうとしなかった。


「藍田。ここにいる人間は、皆テログループのメンバーなのか?」


 結城君の言葉に弾かれたように、皆の顔がキツく強ばる。


「何で……テロなんかやるんだ?」


 結城君を警戒して皆固く口を閉ざしている。そんな中で藍田君は皆の代表のように前にでた。


「結城はさ……確か親と一緒に暮らしてたよな」

「そうだ。両親と姉と一緒に住んでる」

「なら……俺達の気持ちはわからないよ」

「何で!」

「俺達は皆ホーム育ちだ。ホームの管理人が保護者だなんて嘘だよ。管理人は監視者だ。ホームの不満を外に出さない事だけに必死で、俺達が助けてくれと言ってもとりあってもくれない」


 その言葉に続くように他のメンバー達も口々に不満を口にする。

 大人達は優等生で優秀な子供を優遇し、反抗的な子供を冷遇する。区別が差別を生み、ホーム内の子供達の中に、いつの間にか序列ができる。そして下の層の子供達は上からイジメられて苦しんでいた。

 ホームの中で争いが起きても、誰も止めない。学校の先生も、警察も、口裏を合わせたようにホーム内のトラブルを無視する。


「ホーム育ちでない友達に相談しても、信じてもらえない。信じてくれたと思ったら、すぐに大人に懐柔されて、俺達の悲鳴は潰される。この国はそういう社会なんだよ」


 何度も、何度も裏切られ、そして同じようにホームに不満を持つ物達がこうして集まった。


「あそこに居場所がなくて家を飛び出して、もう他に帰る所なんてない。ここの仲間達が居場所だ」


 藍田君の静かな声が、悲鳴のように部屋の中に響いて。私も結城君も何も言えなくなってしまった。

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