19
眠れぬ夜を過ごして、一夜明けても戻らなかった麗花の事を思い不安になった。居ても立ってもいられず、私は土曜の午後、街へと向かった。
ふらふらと当てもなく歩き続け、そろそろ夕方が近づく時間になっても、麗花はみつからない。
やっぱりRhapsody in Blue以外に麗花が行きそうな心当たりはない。あそこに行ってみよう。
Rhapsody in Blueへと行く途中、駅前広場を通りかかり、ふと立ち止まる。結城君が巻き込まれたテロ騒ぎからまだ2日しかたっていない。
それなのにまるで何も無かったように、いつも通りの広場だった。あんな事をまた麗花はやろうとしているのだろうか? そう思うと胸が痛む。
「音無さん?」
振り返ればそこに、あのときと同じように結城君がいた。
「結城君……どうしてここに?」
「アイツらのテロが正しいのか悩んでたら、自然とここに来てしまったんだ」
結城君の困った様な笑顔に私は小さく頷いた。私も結城君と同じ気持ちだった。事件は何事もなければ風化して忘れ去られていく。でもこの場所に来ると、あの時のリアルな感情が思い起こされた。
救急車が来るまで、結城君の安否が気になって泣き出してしまった事、目覚めない結城君が怖くて離れられなかった思い。
麗花の言う事もわかる。でもやっぱりテロなんてさせちゃいけない。無事な結城君の姿を見て、改めて思った。
「麗花が昨日の夜出て行って帰ってこないの」
「アイツなら……午前中に会った」
「え?」
結城君は怒りと悲しみが入り交じったような、複雑な顔をしている。
「テロ組織のリーダーだっていうのに、僕が怒ったら本気でうろたえて、困って……泣きそうな顔してた。音無さんと同じ顔でそんな姿を見たら……調子が狂う。怒って反論でもしてくれたら、こっちも怒ったままでいられたのに」
犯罪者だ、悪いテロリストだ。そうやって悪人として切って捨てられたなら、楽だという気持ちはわかる。私も割り切れずに迷ったから。
「麗花がどこに行ったかわかる?」
「……ちょっと話しただけで、どこに行ったか知らない」
結城君に話していいのか、少し迷ったけど、一緒に相談できる人がいて欲しかった。
「麗花達はまたテロをしようとしてるみたい……」
「何だって!」
「止められなかった……麗花に『双子分割居住法』に苦しむ人達を見捨てる事は許されるのかって言われて、反論できなかった」
涙があふれそうになるのをこらえる。結城君はそっと私の肩に手をおいて言った。
「音無さんは悪くない。僕だってそう言われたら、なんて返して良いかわからなくなる」
「それでも止めたいの。私は普通に幸せに暮らしたい。麗花と二人で」
「だから探しているの?」
私が小さく頷くと結城君は優しく微笑んだ。
「僕も手伝うよ。僕もアイツを悪人だって切り捨てられない。音無さんの妹なんだから……助けたい」
「ありがとう……」
私達はそのままRhapsody in Blueへと向かった。店の扉を開くと、マキさんはいなくて、藍田君と何人かの男の子や女の子達がいた。『ブレイカー』のメンバーだと気づいてびくりとする。
結城君の顔が険しくなって、私の服を強く握りしめてた。『ブレイカー』のメンバーは結城君の顔をじろじろ見て警戒している感じだ。
「結城……お前なんでここに……」
藍田君は明らかに戸惑って、一瞬私を睨んだ。気まずい空気の中、なんとか何か言わなきゃと勇気を振り絞る。
「……麗花が……いなくなって。どこに行ったか知らない?」
「俺達も連絡がつかなくなって困ってた所だ。……色々相談中だったのに……」
「優弥と鏡弥は?」
「優弥は部屋で休んでる。アイツは俺達と関わりたくなさそうだから。鏡弥は麗花を探しに行って、まだ帰って来ない」
藍田君は部外者の結城君の前だから、曖昧な事しか言えないのだろう。それ以上何かを言おうとしなかった。
「藍田。ここにいる人間は、皆テログループのメンバーなのか?」
結城君の言葉に弾かれたように、皆の顔がキツく強ばる。
「何で……テロなんかやるんだ?」
結城君を警戒して皆固く口を閉ざしている。そんな中で藍田君は皆の代表のように前にでた。
「結城はさ……確か親と一緒に暮らしてたよな」
「そうだ。両親と姉と一緒に住んでる」
「なら……俺達の気持ちはわからないよ」
「何で!」
「俺達は皆ホーム育ちだ。ホームの管理人が保護者だなんて嘘だよ。管理人は監視者だ。ホームの不満を外に出さない事だけに必死で、俺達が助けてくれと言ってもとりあってもくれない」
その言葉に続くように他のメンバー達も口々に不満を口にする。
大人達は優等生で優秀な子供を優遇し、反抗的な子供を冷遇する。区別が差別を生み、ホーム内の子供達の中に、いつの間にか序列ができる。そして下の層の子供達は上からイジメられて苦しんでいた。
ホームの中で争いが起きても、誰も止めない。学校の先生も、警察も、口裏を合わせたようにホーム内のトラブルを無視する。
「ホーム育ちでない友達に相談しても、信じてもらえない。信じてくれたと思ったら、すぐに大人に懐柔されて、俺達の悲鳴は潰される。この国はそういう社会なんだよ」
何度も、何度も裏切られ、そして同じようにホームに不満を持つ物達がこうして集まった。
「あそこに居場所がなくて家を飛び出して、もう他に帰る所なんてない。ここの仲間達が居場所だ」
藍田君の静かな声が、悲鳴のように部屋の中に響いて。私も結城君も何も言えなくなってしまった。




