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プロローグ

 行き過ぎた少子化対策が進み、遺伝子操作、卵子誘発剤の乱発等で、生まれてくる子供の45%が双子という歪んだ世界となった日本。

 双子の増加にともない、取り違えなどのトラブルや、双子を悪用した犯罪(アリバイ偽装)などが多発。しかし遺伝子レベルで改良された双子社会は、後戻りできないところまできていた。

 そこで日本国政府は双子対策のため特別法案を創設する。

 「双子分割居住法」それは日本を東西二つに分割し、双子が生まれたら、即座に東西別地域に引き離して別々に育てる。双子として産まれた者は外国に行く事は出来ても、決して隣の地区に行く事は許されない。

 隣の地区に進入した場合、「越境」という犯罪となり、厳しく処罰される。

 法律が制定されてすでに20数年。「双子分割居住法」は多くの日本国民にとって、当たり前の法律と化していた。


 これは兄弟姉妹として生まれながら、一生会う事を許されない双子達の物語である。



ーーーーーーーーーーーーーー



 高架の上の線路は、多くの人を詰め込んだ電車を受け止め、風のように走り抜けていくのを見守っていた。帰宅ラッシュが始まったばかりの車内はそれなりに混雑している。

 くたびれたサラリーマンが荷物を抱え込んで座席で眠り込み、大きなスポーツバックを抱えた学生の集団がわいわいとたむろし、流行のファッションに身を包んだ若者のヘッドフォンからハードロックな音楽が漏れ聞こえる。

 出入り口付近には制服の大人びた少女と、詰め襟がまだ似合わぬくらい小柄で幼い顔立ちの少年が仲よく話をしていた。


 それは日常の光景であり、誰も特別とは思わない電車の中。最初に始まったのはシューという何かが漏れるような異音だった。

 買い物帰りの主婦がその音に眉をしかめて見上げると、座席の上の網棚にある紙袋からその音は漏れていた。

 しばらくするとその紙袋がパンッという破裂音がして煙が漏れ始める。その時点でその車両にいた誰もがその異様な光景に気づいた。それと同時に車内にパニックが巻き起こる。

 ちょうどゆっくりと次の駅のホームへと到着するところで、誰かが押した非常ベルが鳴り響く。非常ベルを受けて駅に着く前に電車が止まった。


「おい! 早く開けろ! ここから出してくれ!」

「誰だよ、ベルなんか鳴らしやがって。出られねえじゃないか」


 この異物の正体が何かはわからない。だが身の危険を感じた乗客達はパニック状態になり、ドアに向かって八つ当たりのように蹴り始める者までいた。


『ただいまお客様より非常ベルによる異常のお知らせががありました関係で、電車を止めて安全確認を行っております。今しばらくお待ち下さい』


 駅員からのアナウンスも客をなだめる効果はなかった。誰もが恐怖に怯えながらその異物を遠巻きに見ている。すると少しだけ電車が動きようやくホームに到着した。しばらくしてドアが開くと、皆が先を争うように外へと飛び出した。

 その人混みに揉まれ、扉付近にいた一人の少女が、突き飛ばされ転倒し、後ろから来る人々に蹴られて転がった。


「痛い!」


 少女の悲鳴はパニックになった人々を、さらに混乱させたに過ぎない。少女は無残に踏みつけられ苦しみながら、床に転がっていた。


「姉さん」


 姉の悲鳴に隣にいた幼い詰め襟の少年は、必至に姉に手を伸ばす。しかしそれは無駄な努力で人の波に流されて引き離されるだけだった。人の波が収まった後、やっとの思いで少年が姉の元にたどり着く。苦しげな呼吸を繰り返す姉は必至に呟いた。


「……大丈夫?」

「僕は大丈夫だよ。それより姉さんが、誰か! 誰か助けて下さい」


 しかし駅員が駆けつけるまでの間に、少年以外彼女を介抱しようとする者はいなかった。遠巻きに眺めるだけの汚い大人達を少年は睨み付ける。


「担架を用意しろ」


 駅員達が少女の救助をしながら、同時に車内の安全確認を行っている。問題のあった車内に入った駅員は、網棚の上の異物に顔をしかめる。


「なんだこれは?」


 煙も消え、破壊された紙袋からひらひらと垂れ下がる『双子分割居住法反対』の文字が躍っている。まるで人々のパニックを嘲笑うように。

 少年も見た。姉を傷つけたものの正体を。その光景は幼い少年の心に深く刻みつけられた。

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