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婚約破棄されて良かった話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/10/12

 子供の頃から王家に嫁ぐために教育を受けていた。

 学問、社交、それだけではない。


『アルテシア・・・

 巫女は

 泣いてはいけません。今を悲しんでいるからです。

 笑ってはいけません。巫女になる前の生活を思い出しているからです。

 ただ、王の子を産み王国の安寧を祈るのです」


『はい、王太后殿下・・・』



 ひたすら女神像の前で祈った。

 私は6歳の頃から祈っていた。



 しかし。



 ・・・・・・・・




 今正に婚約破棄をされた。


「アルテシア、婚約は破棄だ!代わってミミリーを巫女にする」

「・・・・左様でございますか・・・」


「ミミリーなら、立派な巫女になれるさ。って、また無表情か・・ミミリーは表情豊かな子だよ」







 王宮で婚約破棄をされた。

 この王国では代々巫女は王妃がなる。


 しかし、現王妃殿下は巫女に不適格だった。

 それでも陛下は反対を押し切り結婚をした。



 長い事、王太后陛下が巫女をされていた。

 もう、御年70を超える。



 私は王宮の奥にある王太后殿下の部屋に挨拶に向かった。



「王太后殿下にご挨拶を申し上げます」

「アルテシア、話は聞いております。ご苦労様でした」


「ご存じでしたか・・」


「孫のゲオルトが大きな独り言で言っていました」

「左様ですか。今までお世話になりました」


「・・・今までのお勤めです。金貨300枚の手形を渡します。早めに換金すること・・・これでどこかに遊学するもよし。持参金にして嫁ぐもよし。ゴホ、ゴホ!」



「王太后殿下・・・」

「まだ、持ちますわ。ミミリーとやらを教育するまでは死ねません」

「はい」


「ところで・・・この修行は秘密ですよ」

「もちろんでございます」



 表情を絶対に出さない。

 改めて鏡を見る。


 ニィと口角をあげるが、笑えない。

 そう、殿下達はこの修行方法を知らない。



 私は形だけの養子先に行くこともせずに王国を出た。

 元々は孤児だった。


 あの修行は何だったのか分からない。



 それから他国で冒険者ギルドの受付をしている。



「ハンスさん。このクエストは如何でしょうか?」

「おう、ところで、雨が降ってきたな。アメはあるかい?」

「アメ?」


「そうさ。言うだろう?雨が降ったら雨だけにアメをなめろってさ」

「・・・・・・」

「す、すまない。見つめるなよ!」



 まだ、笑えない。


 だが、冒険者ギルドで報告が来た。


「スメラギ王国、巫女を処刑・・・したそうだ。国が荒れている。傭兵クエストが多量に来るから覚悟しておけ。忙しくなるぞ」



「処刑?ギルマス、祖国です。詳細を・・・」


「ああ、数十年に一度の干ばつでな。あの国は飢饉が起きると巫女を処刑するのだ。

 そのための巫女だ」


「どちらの巫女ですか?」

「ああ、王太后がなくなって若い方だ」


 ・・・ミミリーかしら。


「・・・生贄・・」




「そうだ。生贄自体に意味はない。それで干ばつがおさまっても偶然かも知れない。しかし、生贄することで民の鬱憤を晴らすことが出来る」


「でも、また、干ばつが続いたら・・」

「そしたら、巫女を処刑したから国が滅びた仕方ない。ってな理由付けになる。あの国はブスがなるものと決まっている」


「ブス・・・」

「ああ、ブスって毒薬を飲むと表情がなくなる。だから殺しやすくなるのかもな」


 ・・・私は生贄だったということ?・・・



「おい・・・」


 その時、ギルマスが私を指さした。


「アルテシア、笑っている。笑えたのか?」



 やっと笑えたらしい。この感覚は分からない。

 少しも楽しくないのに笑えた。


 殿下達のことどうでも良いと思っていたけども、そうではないらしい。


最後までお読み頂き有難うございました。

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