嘘つき
嘘つき
「いつか、一緒になろう」
そう言うあなたは、嘘つきだ。
世の中の成功者と言われる富裕層の内、そもそも親が富裕層だった人たちは、全体の約35%。
一方、低所得者から這い上がった人たちは、1割にも満たない。
「ふふっ……」
今年の統計率を見て、笑いが漏れた。
お金があるところにしか、お金は増えていかない。
中流の働きアリは、ずっと駒のままでいろということだと言わんばかりだ。
実際に、昔の教育では投資などの思想は全くなかった。起業するなんて、考える人は滅多にいなかった。
みんなと同じように就職して、みんなと同じように家庭を持ち、みんなと同じように納税して定年を迎える。
それが幸せな一生だと、そうするべきなんだと、教えられた記憶がある。
――本当に、それで幸せになれるの?
そうだと信じていた父は、真面目に働いていたのに、会社の汚職の罪を被せられ、命を絶った。
冤罪だった。
父と遊びに行っていたはずの日に、事件を起こしたと言われた。
そんなはずはないのに、誰も私の言葉を信じてくれなかった。
――みんな、嘘つきだ。
母と2人で慎ましく暮らしていたけど、石を投げつけられたり突き飛ばされたり、毎日が苦しかった。
それでも、母がいてくれたから笑っていられた。
でも、母は私の知らないところで暴行を受けていたみたいで、
ある日、学校から帰ると、首を吊った母がいた。
生命保険で、なんとか私だけでも生きていけるようにと考えたようだけど、
親戚たちに搾取されて、私には何も残らなかった。
――誰を信じたらいいの。
この時に、私の心は、壊れてしまった。
感情を顔に出せなくなった。
でも、演技をすることで“普通”になれた。
児童保護施設で18歳まで勉強し、退所後は夜の世界に身を置いた。
メイクを覚え、話術を身に着け、金持ちのオヤジたちの相手をした。
こいつ等から搾取するのだと決めたから、辛いとは思わなかった。
――だって、お金は裏切らないから。
私はブランド物を買ってもらって、お金を貯めて一般企業に就職をした。
いつまでも夜の世界で食べていけないから。
就職先の先輩から交際を申し込まれ、幸せを感じていた。
初めてのお金持ちじゃない普通の人だった。
たぶん、平和な時間を過ごして、気が抜けていたのだろう。
――彼には結婚間近の婚約者がいた。
婚約者から連絡があり、「泥棒猫」と言われ、水を掛けられた。
熱いコーヒーじゃなくてよかったと思った。
落ち着いた態度で水を拭っていたら、平手打ちもされてしまった。
目の前の彼女は、泣いていた。
――私は、ため息をついた。
私も、泣きたいわ。
騙されたのだから。
チャイムが鳴り、いつものように彼がやってきた。
笑顔で、私の作ったご飯を食べている。
「いつか、一緒になろう」
何も知らないこの人はそう言う。
「ええ。……できたら、いいわね」
私も、笑顔で嘘をつく。
私は、誰も信じない。
裏切った男を、
――私は許さない。




