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THE CHANGE OF SEASONS ――死の花婿――  作者: 御厨つかさ(TSUKASA・T)


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THE CHANGE OF SEASONS  1



僕は君に出会った。



痛みを憶えている。

記憶しているのは全て消せたらいいと思うものばかりだ。

どうしてこうなったのか、何故?

それを問い掛けても、過去の自分の愚かさしか返ってはこないが。愚かであっただけのことだと、過去からの、あらゆる記憶が訴えている。

それを許容できるだろうか?


…出来なくても。

事実は変わらない。過去に変化は起きはしない。

それだけの事だ。

僕自身の、辛さや後悔など。

それが何の役に立つだろうか?

―――彼等にとって。

そう、かれらにとって。













気分が優れないのはいつものことだ。

単純に昨夜の飲み過ぎが尾を引いている。

頭を掻き回しながら、だが歩き出したのは早朝の散歩も効果があるかもと思ったからか。何しろ広い敷地なのだから、歩き甲斐だけは確かにある。霧に閉ざされた敷地に半ば目が閉じた状態の情けない格好で歩きながら、マックスはジーンズとTシャツの上にだらしなく羽織ったローブのみの格好に軽い後悔を憶えながら歩いていた。

額を押さえて首を振る。だらしないのは此処幾日も剃っていない無精髭も同様だが、しつこい頭痛と寒さに、やはり引き返すかと思いながら、歩き出したときの惰性のまま足を運ぶ。

日が射せば青々と緑を広げる芝生も、背後の石造りのクラッシックな御屋敷も、この際肌寒い状態の援けには一つもならない。

寝ぼけた頭で、なら何故歩いてるんだろうな?と思いながら。

いい加減引き返すか、と寝惚けた視線を其処へ向けたときだった。

 そのタイミングが何故起きたのか。

いまでも、それだけは謎に包まれている。

「―――――…。」

無言で、頭痛を抑えるように額に当てていた手をそのままに、

瞳を見開いてそれを見ていた。

 屋敷から広がる芝生の途切れる辺り。

他から屋敷を遮る森が始まるその樹木が深い緑をみせるその場所に。

 黒瞳を見開き、マックスは息を呑んでいた。

 …これは、――――…。

息を忘れるほどに見つめて、動けずに唯その光を見ていた。

 光、そう。

 朝に射し込める光とはまた違う、銀の光だ。

 銀光は月光のように揺れて柔らかく射し込めて、激しくは無いが圧倒的な光を樹の根元にみせていた。

「…―――?」

思わず、その光が収縮するように消えていくのに、動くことを思い出して走る。銀光の射すその現象が一体何によるのか、そのときは唯何も考えず、危険を一つも思わずに走り出していた。

 銀の輝きが収縮して消える寸前に辿り着く。

「…―――これは?」

そして、息を呑んでいた。

声が無い。言葉が浮かんで来なかった。

いつも、むしろ多弁で口から生まれてきたようなという形容詞をつけられるのが一般的な評価だったが。

驚きに声が無いという経験を、生まれて初めてマックスは味わっていた。

 声も無く息を呑みその姿を見る。

 それしかできない。

二日酔いが極まっていかれたか、と思ったくらいだ。

「君は、…―――」

まさか、と声が漏れていた。

その声が届いたろうか?

「…――」

弱い声がその喉から聞えて、僅かに身動くのに慌てて近付いて膝をその傍に折っていた。

先の銀光を思わせるものは何処にも何も無い。

だが、いまはそれよりも。

「…君は、まさか、…本物のヴォード博士か?」

「誰、…はやく、逃げない、と…」

樹の根元に倒れ込んでいた相手に、信じられなくて思わず呟くようにいったマックスに。僅かに首を振るようにして、まだ目を閉じたまま額へと手を相手があげる。

「…っ、誰か?いる?」

「私がいる。―――…私は、マックス、マクシミリアン・リード、

…きみは、」

茫然と呼び掛ける。

淡く閉じていた瞳がひらく。

痛みを堪えるように額を押さえながら、その瞳が。

「君は、アレクサンドル・ヴォード博士なのか?まさか、…」

驚愕を押さえきれない声に、惹かれるようにしてその瞳がひらいた。濃茶の瞳が、ぼんやりとまだ総てを捕らえきれていないように、マックスを見つめ返す。

 美しく深く濃い茶の瞳に、マックスが息を呑む。

古びたジャケットにシャツ、くたびれたスラックス。注意してみれば埃に塗れ、擦れたような痕や、傷が残る衣服と靴に。ぼんやりとその瞳をマックスに向けながら、癖のある髪から手を下ろし、身を起こそうとして。

「お、おい!」

「…あ、」

目を見開いて驚いたように、支え切れなかった身体を受け止めた腕にそちらを見あげる。咄嗟に倒れた相手を受け止めたマックスが、その黒瞳で間近に見るのに驚いて声も無く見返していると。瞬いて見つめて、相手と自分の姿を見直し、背景に見える景色を見てさらに驚いたように僅かにくちがひらく。

「…どうした?その、大丈夫か?…その、博士?」

「きみは、僕がどうしてドクターだと知って、…」

云い掛けて途中で気付いたようにくちを噤む。

「どうした?その、…。こうした場合、何と云うか、…つまりだな?つまり、その、…。話の接ぎ穂が無いというのは実に此の事だとは思うが、」

言葉につまり、急に視線を逸らして言い出したマックスを濃茶の瞳が見つめる。

「…――――」

無言の相手に急いで付け足して。

「いや、だからな?君に博士と話し掛けたのは、私の記憶力に何か間違いが生じているのでなければ、君がその、私の記憶しているヴォード博士とそっくりだからで、まあ、まだ君にそれに関してはまったく肯定も否定も意見を聞いていないが、だからつまり、」

困って早口で捲くし立てているマックスに驚いたように見つめて。

「ええと、…僕を知ってる?」

「記憶違いか他人の空似という奴でなければ、その、…直接会った事はないが、理論物理学者で五年前に行方不明になった――――肯定するのか?」

振り向いた黒瞳に、苦笑して溜息を吐く。

「僕は、ヴォード。きみのいう通り、―――…、」

「おい?」

慌てて気を失った身体を掴み直して、腕から落ちるのを防ぐ。

「…どうすればいいんだ、」

掴んだ手に付いた埃をふと眉を寄せてみる。

そして、背後の屋敷を振り向いて。

「こういうときは、無駄に敷地が広いのは悲劇だな?」

溜息を吐いて遠い屋敷を見つめてみて。

何とか担ごうとしてよろめく。

「…くそ、二日酔いで運ぶには最悪の荷物だ…」

気を失った人体が重いなんて、こんなところで実感はしなくても、と。ぶつぶつといいながら、マックスは何とか抱えたヴォードを屋敷に運ぼうと奮闘を始めていた。




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