第4話:暦を揺らす者
翌朝、教室に足を踏み入れると、昨日の赤い印の記憶がまだ胸に残っていた。だが、暦を確認すると、佐藤くんの名前にはもう赤い印はない。消えた……のではなく、どこかに潜んでいる気配がする。
「カノン、今日もまた不穏な噂が……」
ミユが小さく呟く。教室の空気は微妙にざわつき、誰もが何かを隠しているかのようだ。
放課後、私は氷室を追いかけ、学園の裏庭へ向かう。
「……昨日の赤い印、誰が干渉していたの?」
氷室は黙って暦を見つめ、やがて口を開く。
「学園には、暦を操作できる者が潜んでいる。正式には認可されていない“影暦師”だ」
影暦師――聞き慣れない言葉に、胸がざわつく。誰も公表していない存在。つまり、赤い印を再び現したのは、その者の仕業だ。
「影暦師の目的は?」
氷室はしばらく考え、低く答える。
「まだ分からない。ただ、暦を操ることで学園を混乱させ、力のある者を引き寄せようとしている」
混乱……私の力を試すため? 心臓が高鳴る。暦術の力は小さな奇跡を起こすだけではない。人の未来を直接書き換え、揺らす力。影暦師の存在は、私の命を危険にさらす可能性もある。
その夜、私は自室で暦を広げ、影暦師の干渉痕を探す。赤い印は微かに光り、指先に触れると、未来の断片が頭の中に映る――佐藤くんが図書室で倒れる映像。これは昨日と同じではない。微妙に時間や状況が変化している。
「……同じ未来でも、書き換えられるのか」
思わず呟く。暦術の限界を超えた存在。影暦師の力は、私の暦術と同じ種類のものだが、意図は不明。だが、確実に学園を揺さぶろうとしている。
翌日、学園の時計塔の上で、レンが待っていた。
「……カノン、昨日の暦の件だが、俺も手伝う」
「手伝うって……?」
「暦の異常は俺だけでは対処できない。お前の力を監視するのも、学園を守るためだ」
一瞬、警戒心が湧く。だが、考える。協力者が増えれば、影暦師の手掛かりも掴めるはずだ。私は小さく頷いた。
「……分かった、協力してくれるなら、頼む」
レンは軽く笑い、そして視線を暦に戻す。氷室もまた背後から静かに見守る。三人で、学園の未来を守る戦いが始まった――まだ影暦師の正体は分からないが、赤い印の存在は確実に学園を揺らしている。
夜、暦を手に取る。赤い印は微かに震え、光を帯びる。私は深く息を吸い込み、心の中で決意した。
「……明日の死を、必ず止める。誰一人として――私の手で消す」
窓の外、学園の影が揺れる。影暦師の存在は、静かに、しかし確実に学園に忍び寄っていた。