第2話:赤い印の行方
朝の光が差し込む聖暦学園の教室。昨日、私が消したはずの赤い“死”印――佐藤くんの名前――は、もうそこにはなかった。心のどこかで安心しつつも、違和感が拭えない。
「カノン、昨日の件だけど……」
親友の料理オタク・中原ミユが、教科書を片手に小声で近づいてきた。
「どうしたの?」
「……また、赤い印が出たって噂、聞いた?」
噂――まだ公式には誰も知らないはずの話だ。私は眉をひそめ、心臓が少し速くなるのを感じる。
放課後、私は透明な暦を取り出した。慎重に確認すると、昨日消したはずの佐藤くんの名前に、赤い印は再び浮かんでいた。
「……どうして?」
消したはずの死が、再び現れる。暦術のルール上、これは異常だ。誰かが私の“編集”に干渉している、そう直感した。
その瞬間、窓の外で影が動いた。氷室――転校生の護衛だ。彼の目は真剣で、何かを伝えようとしている。
「放置すると危険だ」
無言でそう告げられた気がした。
夜、学園の裏庭。赤い印の正体を調べるために、一人で暦を持ち歩く。すると、印は自動的に微かに光を帯び、震えだした。触れた瞬間、頭の中に映像が流れ込む――佐藤くんが階段から落ちる未来。
「……これ、本当に明日の出来事?」
思わず呟いた。暦は未来を正確に写す。しかし、私は消す力を持つ。
迷った末、私は手をかざす。赤い光が指先から暦に伝わり、印は徐々に薄れる。
「これで……大丈夫……」
しかし、背後で聞こえた足音に、体が凍る。振り返ると、学園のエリート、天城レンが立っていた。彼の目は疑念に満ちている。
「……カノン、お前、本当に何をしている?」
その問いに答える間もなく、暦が激しく揺れだす。赤い印が再び光り、文字が乱れる。誰かが、私の力に干渉している――間違いない。
「……これは、ただの事故じゃない」
私は深く息を吸い込み、覚悟を決めた。
“死”を消すだけでは済まない。学園の未来を守るため、そして、自分自身の秘密を守るため、真相を探る覚悟を。
その夜、私は自室で暦を広げ、眠れぬまま独り言をつぶやいた。
「……明日の赤い印を、消すのは私。でも……誰かが、私の手を握っている――?」
外の風がカーテンを揺らす。赤い印は、学園に静かに忍び寄る影の存在を告げていた。