第1話:明日の赤い印
私は桐島カノン。16歳――今日もまた、明日誰が死ぬかを確認する日が来た。
教室の片隅に置かれた小さな机。その上には、透明な紙に書かれた“暦”が広がっている。透ける紙の上に、赤い印が一つ――それは『死』の印。昨日までは誰も気づかない小さな異変だったが、今日のそれは違う。隣の席に座る佐藤くんの名前に、赤い×印がついているのだ。
「――また、か」
小さく呟き、私は掌をかざす。暦術――私の力だ。文字をなぞると、淡く光が走り、赤い印は徐々に薄れて消えていく。
「これで、君は明日も生きられる」
しかし、安堵の間もなく、胸の奥に重いものが落ちる。消すたびに、私の記憶の一部が揺らぐ。昨日の昼食、昨日の笑い声――何かが少しずつ遠ざかるのを感じる。
その時、教室の窓の外に異様な影が走った。護衛の彼――転校生の氷室が、こちらをじっと見つめている。目が合った瞬間、無言で頷く。その視線は、警告だった。
「誰かが、私の力を見張っている――?」
私は暦を元に戻しながら、覚悟を決める。小さな奇跡を積み重ねて、人を救う。それが私の使命だ。しかし、それが学園を揺るがす大きな事件の始まりになることは、まだ知らない――。
次の瞬間、教室の時計が異様な速さで時を刻む。まるで、誰かが未来を急かしているかのように。
「さあ、始めよう――明日の『死』を、私の手で編集する。」