99 残酷な現実
懐かしい思い出の家をプレゼントされ号泣したために崩れてしまった化粧を簡単に直してからサラとアーサーはパーティー会場へと戻った。
主役がわりと長い時間席を外してしまったとやや急ぎ足で会場に入ると、一部に人だかりが出来ておりなにやらザワザワと騒がしい。
「―――お前達、どうした?」
「あっ、閣下!!大変なんです!!」
「何が大変なんだ?」
アーサーと共に騒ぎの中心へ向かうと魔核を手にして困惑顔のジャックがいた。
「閣下……、俺もこのタイムループ装置を使ってみたくて魔核に込められたサラ様の力を消費したんです。
俺の周囲に漂う魔素を吸収したところで大した意味はないと思ったんですけど…」
「ジャックが魔核の力を使ったあと、急激に彼の周囲に漂う魔素が減ったのです!そして今……私にはジャックの顔がはっきりと認識出来ています」
「なに…?」
アーサーは訝しげな顔をすると手を顎に当てて考え込む。
レイメイの言うことは少しおかしい。高魔力者の顔を醜く見せる原因が身体から漏れ出る魔素にあるとして、サラの力でその魔素を吸収したとしても魔力は溢れ続けるので効果があっても極一時的のはずだ。
「今もジャックの顔を認識出来ると?」
「はい。かれこれ十五分ほど前からずっと」
「俺達もジャックの顔が分かるんですよ!!サラ様が描いて下さった似顔絵とそっくりだ…」
高魔力者同士でも本来ならば互いの顔を見ることは叶わない。それが同僚の騎士達はジャックの顔を認識することが出来ているらしい。道理であれほど騒がしくなるはずだ。
「これは、一体……」
「えっ、まさか…」
「サラは何か思い当たる節があるのか!?」
全員があり得ない現象に歓喜するどころか得体のしれない恐怖を感じる中、サラはもしかしてと目を見開く。
「あ…、えっと、魔素にばかり注目していましたが私の力である“魔を吸い取る力”、というのは魔力にも対応しているのではないでしょうか……?」
「「「「「「「……………」」」」」」」
「えっと、つまり、高魔力者の皆さんの過剰なほどの魔力を吸い取って周囲に魔素を放出しないようにしている、とか………?」
「「「「「「「えぇぇ!!!?」」」」」」」
「ひゃぁっ」
騎士達の驚愕の声で会場中が震撼した。あまりの轟音にサラはおもわず耳を押さえる。
「え………じゃあ、サラ様の力が込められたこの魔核があれば、俺達は普通に生きられる…?」
誰かがポツリと呟いた言葉がやけに会場に響いた。
その声には抑えきれない希望が、しかし期待し過ぎてもし違った時に訪れる落胆を怖れる感情が複雑に入り混じっている。
サラ自身も確証が持てずに彼らを糠喜びさせてしまったのではとオロオロしてしまい、これ以上言葉を紡げずにいた。
「―――検証しよう」
誰も動けない中、ホールにアーサーの確固たる声が響く。
「俺は元からジャックの顔を認識出来ていたから本当にサラの力に効果があるのかはあいにくと分からない。だから他の者達も魔核を使って確かめてみてくれ」
「「「「「「「っ、はい!」」」」」」」
アーサーの声には生まれながらに人を従わせる力がある。指示を与えられたことで惑っていた者達はやっと動き出すことが出来た。
「アーサー様っ…」
「大丈夫だ。どんな結果になろうともサラのせいではない。とりあえず検証の結果を待とう」
「はい…」
アーサーは不安そうに縋り付くサラを抱き寄せ優しく声を掛けてくれたが、サラはある可能性に思い至ってしまいそれどころではなかった。
***
それから一週間ほどかけてサラの力で高魔力者の体内の魔力も吸収出来るのか検証が繰り返された。
サラが直接吸収した時と魔核に込められた力で吸収した場合の比較や、魔力を吸収されると魔法は使えなくなってしまうかどうかの実験、そして実際に街に出て一般の人々の目に魔力を吸収した高魔力者がどう映るのか試した。
結果―――サラが直接吸収しても魔核に込めた力で吸収しても効果や持続時間に差異はなく、大体一日ほどで元の魔力量まで回復することが分かった。
逆算して考えるとサラの力が込められた小サイズの魔核一個分で体内魔力の半分ほどが吸収されると考えられるのだが、つまり朝魔力を吸収する習慣をつければ醜いと差別されることなく丸一日普通の人間と同じように過ごせるようになるのだ。
そして一番重要な実験である、「魔力を半分まで減らした高魔力者は低魔力者の目にどう映るのか」という検証については、実際にジャックが街に出て人々の反応を見ることになった。
皆の期待を背負いつつも「ちょっと行ってくるわ!」と軽い気持ちで出掛けたジャックは三十分もしないうちに青褪めた顔で城に戻ってきた。
「やはり低魔力者に効果はなかったか」と落胆しジャックに早く帰ってきた理由を聞くと、物凄い勢いで幅広い年齢層の女性達に追い掛け回されたらしい。
これは町中にいきなりトップアイドルが現れた時の騒ぎを想像してもらえれば分かりやすいだろう。
「名前を教えて下さい!」だの「ご一緒に食事でもいかがですか!?」と声を掛けてくる女性が後を絶たずジャックは今までとの待遇の差に喜ぶより怖くなったらしい。
以上の検証結果に加え、たとえ体内の魔力量が半分になろうとも使える魔法にほとんど制限はないとくれば高魔力者達が魔力を吸収しない理由はなかった。
「―――ふっ、あいつらここ最近はずっと浮かれているな。まあ、無理もない、検証もすべて済んで城にいる人間全員分の魔核が用意出来たんだ。明日から自分本来の顔を誰にでも認識してもらえるようになるのだから浮かれるのも仕方ない、か」
「……」
「サラもあれだけの数の魔核に力を込めるのは大変だっただろう?疲れていないか?」
「いえ……。私は、全然……」
「サラ?元気がないな?」
アーサーは非番の騎士達が焚き火を囲んで酒宴を繰り広げている様子を、五階にある自室の窓から苦笑しつつ見下ろしていたが、サラの声に元気がないことに気がつくとソファに座って俯いているサラの隣にそっと腰かける。
「……………アーサー様、っ、ごめんなさい……」
しばらくの沈黙の後、サラの口から絞り出されたのは謝罪の言葉だった。しかしアーサーには謝られる心当たりはない。
「? なぜサラが謝るんだ?」
「だって……っ、アーサー様には、……この魔核の力の効果は、っ、ありません、よね……?」
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