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私は何もおかしくないですよ!?〜虐げられた令嬢は世界で一番醜い辺境伯に恋をする〜  作者: ひなゆき


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94 誕生日パーティー


 約束の一週間後、長い長い準備期間を経て今日はついにサラの誕生日パーティーが開催される日だ。


 アーサーからこの日のためにドレスの着付けが出来る人型魔道具を寝る間も惜しんで開発したと聞かされた時はちょっと呆れてしまった。しかしその人型魔道具のおかげで、本日のサラの装いは主役にふさわしいものになっているのだからやはりお礼を言うべきだろうか。


「サラ……とても美しい。しかし美し過ぎるがあまり俺以外の人間にその魅力的な姿を見せるのは危険だな…。…パーティーはいっそのこと中止にしてしまおうか」


「もうっ、アーサー様ったら大げさですし、そもそもこんなタイミングでパーティーを中止に出来るわけないじゃないですか。

 でも……アーサー様に褒めて頂けて嬉しいです。それにこのドレスも…。いつも素敵なドレスを贈って下さりありがとうございます!」


 サラが今日身に纏っている衣装は瞳に合わせた水色のプリンセスラインのドレスで、裾にいくほど色が濃くなるグラデーション仕様となっている。

 アーサーが選んでくれるドレスにしては今回珍しく大人っぽい雰囲気で、「成人になったからこのドレスを選んでくれたのかな」と思うと背筋が伸びる思いだ。

 ちなみにこの世界の成人年齢は男性は十五歳で女性は十七歳である。


「…サラももう十七歳だからな」


 ちょうどそんなことを考えていた時、アーサーが強烈な色気を含んだ流し目で意味深な言葉を放ちながら髪の毛をくるくると弄んでくるものだから、サラの顔はたちまちリンゴのように真っ赤になってしまう。



 ―――じゅ、十七歳になったから何なの!?え、大人びたドレスをプレゼントしたのって………も、もしかしてそういうこと!!?



「……ぷっ」 


「え!?」


 サラが頭から湯気を出しながらグルグル目を回していると、堪えきれないという様子でアーサーが吹き出した。


「……アーサー様!」


「ははは!すまない、サラは考えていることが全部顔に出てしまうから面白くてな」


「もうっ!笑い事ではありませんよ!!私はついに覚悟を決める時が来たのかと真剣に―――」


 サラの抗議の言葉は身を屈めて触れるだけの口づけを落とすアーサーに遮られた。

 すぐに唇は離れていったが、一瞬の出来事にポカンとしてしまったサラにアーサーは妖しく微笑む。


「―――覚悟を決めてくれたのならとても嬉しい」


「〜〜〜っ、〜〜!!!」


 サラは成すすべなく撃沈した。あまりにも旦那様の顔が良すぎる。


「ちょっと……これ以上は鼻血か出そうなので……その過剰なまでの色気は引っ込めて下さい……」


「あはは!今日は愛しい我が妻の誕生日パーティーだ、願いはすべて叶えよう。―――俺のお姫様、お手をどうぞ」


「!」


 サラはまだ少し笑いの余韻が残るアーサーを軽く睨みつつ、それでも最後には笑顔になって差し出された手を取り二人は部屋を出る。


 少し高めのヒールの靴を履いているサラを気遣ってゆっくりとエスコートしてくれるアーサーに身を任せ、パーティー会場に向かうまでの道すがら昨日からさらにバージョンアップされた城内をキョロキョロと見渡す。


「わぁ……!」


 廊下の至るところに「この男所帯の城のどこにこれだけの花瓶があったの!?」と聞きたくなるほどの花が飾られている。

 昨日にはなかったのでサラが寝静まってから急いで皆で準備してくれたのかと思えば自然と笑みが溢れてしまう。

 そして全部の窓には「ハッピーバースデーサラ様!」や「おめでとうございます!」や「良い年になりますように」など、様々なメッセージが書かれたガーランドがいくつも取り付けられており、全部に目を通したくて自然と遅くなるサラの足取りにアーサーは何も言わずに合わせてくれた。

 ここまでは異世界とはいえサラの感覚でも一般的な誕生日の飾り付けと言って差し支えなかったかもしれないが、しかしここから先はなにやら雲行きが怪しい。


「………。あれは何ですか?」


 サラの前方にある扉から人間サイズの巨大テディベアが半身を覗かせながらゆっくりと手を降っているのが見える。夜中に見たら絶対に叫ぶ自信があるちょっとしたホラーな光景だ。


「あれはサラと同じ身長体重に作らせたテディベアだ。あちこちにリサーチしたところ、誕生日にこういったぬいぐるみをプレゼントすることが多いと聞いたんだ」


「そう、なんですね…」


 どう考えても新生児が産まれた時のプレゼントだろうとは思ったが、サラは余計な指摘をしてアーサーの気持ちを無下にしたりはしない。だけどこれだけは言わせてほしい。


「…なぜあの巨大テディベアは動いているのですか?」


「回路を組み込んで魔道具にしてみたんだ。簡単な会話なら出来るから愛玩ペット感覚で側に置いてくれればと思ってな。

 一日に一回のブラッシングと散歩と魔力補填は欠かせないがたまに肉球を触らせてくれるぞ」


『サラチャン、アソボー』


「このクマ、出来ることが少ない割に結構手間はかかりますね!?」


 生産性のないクマは後で回路を抜き取ろうと決意してサラはアーサーと共に先へと進む。

 するとまた全方になにやら謎の物体がぶら下がっているのが見えてきた。


「あれって……魔物のレッドボア、ですよね?」


「ああ、モデルはレッドボアだ。これも街でのリサーチによって得た情報だが、これはピニャータと言ってあの中にお菓子を入れて―――」


「叩くんですよね?」


「斬るんだ」


「斬る!?」


 華がこの風習を広めたことは想像がつくのだが、どうやら千年の間に色々と様式が変わってしまったようだ。

 本来のピニャータは紙製のくす玉の中にお菓子などを詰め込み、天井から吊るしたそれを目隠しした子ども達が棒で叩き割って遊ぶ物のはず。

 デザインに決まりはないがたいていは馬や星の形が一般的だというのに、このピニャータはリアルなレッドボアの形を模していて不気味すぎる。

 しかも棒で叩かずに剣で斬らないといけないなんて一体何の罰ゲームなのか。


「えっと……なぜこれを?」


「歩いている途中でお腹が空くかもしれないと思い、城内にいくつか設置しておいたんだ。お菓子が食べたくなったら言ってくれ、すぐに首を落とそう」


「いえ、まだ大丈夫です」


 天井に吊るされたレッドボアの首が斬られてボタボタとお菓子が落ちてくる光景を見るのは絶対に今ではない。せっかく用意してもらったので一つくらいは斬るつもりだがパーティーの帰りにしようと決意して再び先に進む。


 その後も誰が描いてくれたのか本人よりも三割増で美しく描かれたサラの似顔絵が額に入れて飾られていたり、エメラルドグリーンの美しい羽を持つ小鳥達が鳥籠の中でバースデーソングをピーピーと奏でてくれたり、廊下の一部を暗くしてまるでプラネタリウムのような演出があったりと、廊下を歩いているだけなのに様々なエリアがあって移動中もサラを楽しませてくれた。


「ふふふ!皆さんこんなに色んなことを考えて下さったのですね。準備、大変だっただろうなぁ…」


 サラは花吹雪が舞い散る幻想的な回廊を歩きながら、これだけの演出を考え実行するまでにどれだけの時間がかかったのだろうと普通に疑問に思った。

 普段の業務は当たり前にあるし最近ではタイムループの研究でひどく多忙だったはずだ。


「みんな何事にも一生懸命で人を自然と笑顔にしてくれるサラのことが好きなんだ。

 サラが来てからこの城は本当に明るくなった。

 高魔力者は孤独を抱えている者が多く、そのため表面上では友好的に接していても心の中では一線を引いて他人を寄せ付けないところがある。

 だが、サラはそんな境界を容易く飛び越えあいつらの懐に入り込んでくれた。

 長年見てきた俺だから分かるが、今あいつらが見せている笑顔は心からのものだと断言出来る」


「私は何も考えてないだけなのでそんな風に言って頂けると照れちゃいますけど……私にとってこの城にいる皆さんはもう家族同然の存在です。その皆さんが心から笑えているというのなら私も嬉しい」


 サラとアーサーは顔を見合わせて花びらが舞う中微笑み合う。

 

 パーティーの会場となる大ホールの扉はいつの間にかもう目前だった。 

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