91 魔核
「アーサー様!!私が求めていた何かとは『魔核』ですよ!!」
サラは先ほどからずっとモヤモヤしていた謎が解けたことでパアァァァと目を輝かせる。
確か初めて解体場を訪れた時もアーサーと騎士が魔核について話していたが、サラはその時炎虎のお肉に夢中でつい聞き流してしまっていたのだ。
「魔核とはいわば魔物の心臓部だ。そんなものをどうするつもりだ?」
「魔核なんてファンタジーのド定番ではないですか!もし、私の想像通りならば魔核が魔素問題を解決してくれるかもしれません。
アーサー様、私を魔核の処理場へと連れて行って下さいませんか!?」
「それは構わないが…」
アーサーと騎士達はあんな場所に何の用事があるのだろうと首を傾げた。
そしてアーサーに連れて来てもらったのは解体場から少し離れた場所にある広大な空き地で、ここには小学校にあるような二十五メートルプールサイズの穴がドン!ドン!ドン!ドン!ドン!と横に五つ並んで掘られている。
そしてその大きな穴のいずれにも透明な石が山のように積まれていた。
これらの石はさくらんぼやクルミのように小さいものから拳やメロンのように大きいものとどれもサイズはバラバラだったが、しかしすべての石は共通して透明で太陽の光を反射してキラキラと輝くその様はまるで宝石のよう。
「これが魔核…。お願い、定番設定来て……!!」
サラは祈るように手を組みながら魔核に真実の眼を発動させる。
「………」
「サラ、どうした?何かわかったのか?」
おそらく真実の眼で魔核の情報を得た後動かなくなってしまったサラを心配したアーサーは、すぐにサラを抱え上げその顔を覗き込む。するとサラはガバッと勢いよく顔を上げて興奮したように話し出した。
「アーサー様!!やはり魔核ですよ!魔核が世界を救うかもしれません!!」
「魔核が……?」
魔核とは魔物の体内に必ず存在する心臓部で、討伐せずともラナテスの森に入ればたまに地面に転がっていたりする珍しくもなんともない物だ。
ただの石と言えばただの石なのだが魔物の体内に埋まっていたこと、いまだ魔核について詳しく解明されていないことを踏まえ、何かしらの作用が働いて思わぬ事態が引き起こされる可能性を考慮して、領主がすぐに対応出来るよう魔核処理場は城内に設置すると昔から決められている。
しかし「処理場」といっても大きな穴を掘ってそこへどんどん魔核を落としていくだけ。
魔核は土に還るわけではないので処理場を徐々に圧迫していき、次はどこに建設するかと頭を悩ませていたのだが―――そんな厄介物である魔核をサラは目を輝かせて熱心に見つめている。
アーサーにはサラが魔核をどうするつもりなのかさっばり分からなかったが、それでも愛しい妻の願いに応えるため魔核をいくつか袋に入れて持ち帰ることにした。
***
「ふっふっふっ……」
「えっ、奥様どうされたのですか?」
思っていたよりも短い散歩を終えて帰ってきたアーサーとサラを部屋で出迎えたヴァンは、堪えきれないとばかりに笑みを零すサラを訝しそうな目で見やる。
ヴァンに不審者を警戒する目で見られていることには気づいていたが、世紀の大発見をしてしまったサラはそれどころではない。
「アーサー様、魔核を一つ下さい!」
「ああ」
サラはソファに座るなりアーサーが持つ魔核をねだり、渡されたそれをぎゅっと握り締めて目を閉じる。
「………」
「………?」
「………、出来た!」
「何が出来たんだ?」
傍から見たサラはしばらく目を閉じて魔核を握り締めていただけであり、アーサーには一体何をやっていたのかも何が完成したのかも分からない。
「ふふふ!この魔核には私の『魔を吸収する力』が込められています!」
「この魔核に……?」
アーサーはサラから受け取った魔核を光に透かすようにして眺めるも特段変化は見られずに困惑する。
「真実の眼で調べて分かったのですが、魔核には魔法や魔術などの“力”を溜めて好きな時に放出できるという性質があったのです!」
真実の眼で判明した事実を二人に話すサラの顔はドヤ顔だ。続けて真実の眼が教えてくれた魔核の鑑定結果も伝える。
【魔核/魔法・魔術・魔力・魔素やそれに類似する力を蓄えたり供給したりする特性を持つ物質 無害】
「魔核が無害だったとは…。実に良い情報を教えてくれた。ありがとう、サラ」
「無害ということは廃棄にそれほど気を使わなくよくなりますね」
「いえ、私が注目してほしい部分はそこではなくてですね…」
アーサーとヴァンは魔核が無害であることに反応してコメントしているが、サラが一緒に喜びを分かち合ってほしいのは前半部分だ。
「私の力だから分かりにくいのかな…。
アーサー様、この魔核に閉じ込める感覚で風魔法を使用してもらえませんか?あ、軽めのやつで!いつも私のお風呂上がりに髪の毛を乾かしてくれる時に使ってくれる魔法の力加減でお願いします!」
「分かった」
アーサーは先ほどサラがやっていたように小粒の魔核を握り締めると風魔法を発動させる。すると驚くことに、発動させた風魔法はすべて魔核に吸収されてしまった。
「!?」
「出来ましたか?じゃあ次はそれをヴァン様が魔道具を動かす感覚で魔力を流してみて下さい」
「えっ、わ、分かりました」
ヴァンはアーサーから魔核を受け取ると、言われるがまま極少量の魔力を流す。
すると魔核から優しいそよ風のような温風が吹いてきた。ちなみにこれがアーサーがサラの髪の毛を乾かす時の温度だ。
「「!?」」
「成功しましたね!これでお分かり頂けましたか?
魔核に魔法や魔術を込めれば本人でなくともわずかな魔力でそれを使用することができるのです!」
「これは………」
「すごい……」
アーサーとヴァンがやっと魔核の持つ能力の凄さに気付いたようで呆然と呟いている。
「こうやって魔核に私の“魔を吸収する力”を込めれば、悪魔の皆さんは魔素中毒に怯えることなく好きな場所で生きていけるようになると思いませんか!?」
「悪魔に関して言えば……そうだな。人間と悪魔の共存における理想の形にかなり近づけると思う。
しかしこの魔核の使い方は悪用されると厄介だ」
「そうですね。高魔力者の強力な魔法が魔道具を動かす感覚で気軽に誰でも扱えるようになってしまえば、一つの例として確実に犯罪は増えるかと」
「え………」
サラは悪魔の未来だけを考え魔核の可能性に期待したが、違う視点から見れば魔核はこれまでの人間の常識を大きく覆す危険な存在となる。
そのことにまったく思い至らなかったサラは愕然とし、そして余計なことをしてしまったかもしれないと激しく落ち込んだ。
「―――サラ。魔法の技術は日々進歩し魔道具の性能も一昔前とは比べ物にならないほど上がっている。
悪魔と協力して魔術の力を応用することが出来ればより一層飛躍するかもしれないな。
このように変化や発展は悪いことではないし、まして廃棄するだけだった魔核に価値を見出せたことはグラハドールに益を齎す素晴らしい発見だ」
「アーサー様…」
「新しい技術が生まれればそれを悪用しようとする輩は必ず現れる。
しかしその時にどう対応するか事前にしっかりと話し合って制度作りをしていれば、変化を過度に恐れる必要はなくなるんだ。
悪魔のためにも魔核の可能性について一緒に考えよう」
「…!はいっ…」
アーサーはいつも自分の心を掬い上げるように守ってくれる、本当に強くて優しい人だとサラは心から思う。
一度は「犯罪に使われるくらいならば…」と魔核の活用を諦めそうになった気持ちが、アーサーの言葉を受けてどんどん前向きに動き出す。
何があってもこの人とならば乗り越えていける―――心からそう思える人に巡り会えたことは、サラの人生における最大の奇跡だ。
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