86 魔素中毒の治療法
誤字報告ありがとうございます…!!ものすごく助かっております!!( ;∀;)
人間に魔力がなくては生きていけないように、悪魔もまた魔素がなければ生きてはいけない。
魔素中毒とは悪魔が魔素を体内に取り込み過ぎた状態を指し、魔素中毒に陥ると引き起こされる現象が凶暴化だ。
凶暴化すると体内の魔素を一気に放出したい衝動が抑えきれなくなり破壊行動を繰り返す。この頃になると人格は荒々しいものに変貌し、完全に自我を失ってしまう。
一度魔素中毒になると魔素を魔術に変換して体外へと放出するしか治療法はないのだが、この時に加減する余裕などないし性格も残虐なものへと変化しているので、使用する魔術は周りに与える影響など一切考えない大規模で殺傷能力の高いものになる。
実は悪魔はうまく人間の世界に紛れ込んでおり、本拠地は聖域だが人間や動物に化けて情報収集をしたり街でお金を稼いだりしているのだが、そんな悪魔が人間が多くいる場所で魔素中毒を起こせば何百人にも及ぶ被害を出してしまうことになる。
暴走を起こした悪魔は殺されて最悪仲間の居場所まで突き止められてしまうかもしれない。
そのため、魔素中毒に陥った悪魔は聖域にて治療することが決められている。
今までは奇跡の木に実った果実を食べれば体内の魔素を中和することが出来ていたのだが、グラハドールに純度の高い魔力の塊のような人間が生まれてからというもの、奇跡の木は急激に力を失い枯れ落ちてしまった。
高濃度の魔素は自然界に少なからず影響を与えることは知っていたが、なぜ奇跡の木だけ枯れ落ちてしまったのかという点に関してはいまだ解明されていない。しかしタイミング的に原因はそれしか考えられないと悪魔達は結論付けた。
そして悪魔達は少しでも奇跡の木の力にあやかろうと実がつかなくなった時点でまだ残っていた葉をすり潰して液状にし、その液体を使って魔王のモチーフである蔦の入れ墨を身体に彫ったり、魔素に怯えながら枯れた奇跡の木の幹を齧ったり、周辺の土だって食べた。
なるべく魔素を吸わないように人間が多くいる場所には近づかないように聖域にこもったりもした。
すべて気休めだがやらないよりはマシだ。それほどに悪魔達は追い詰められていた。
しかしこんな方法いつまでも続けられない。奇跡の木はもう蘇らないのだから別の手立てを考えなければ悪魔達を待ち受けるのは魔素中毒からの暴走、そして―――『死』だ。
だからヤマトは仲間を代表して魔王の手掛かりを求めて王宮に潜入した。
悪魔達は魔王の役目を正しく理解していたので最後に消息を絶ったこの場所にならば、魔素を中和するためのヒントが何か残されているのではと考えたのだ。
だが半年間にも及ぶ潜入でヤマトの体内の魔素濃度は上がってしまい、聖域に帰り着く頃には自我を失う一歩手前まで症状が悪化していた。
こうなってしまった悪魔は鎖で縛り付け、放出しようとする魔素を仲間達が無理矢理本人の体内に押し留めるしかない。
そうやって数人がかりで時間をかけ少しずつヤマトの魔素を魔術に変換して消費していくのだ。
ヤマトにしてみれば苦しい魔素中毒の状態が長く続くこの治療はとても辛く、鎖に繋がれながも引き千切ろうと暴れ、獣のような咆哮をあげ続ける。
こんな状態になってからもう一週間以上経過しており、ヤマトも仲間達も限界を迎えつつあった。
それが―――たった一人の人間の少女によって一瞬にして救われた。
少女が言うようにヤマトの体内で暴れ狂っていた魔素の値も正常に戻っており、魔素中毒が癒えたことでヤマトは穏やかな顔で気絶するように眠りこけている。
「まさか……なぜ…」
「本当に魔素が薄くなっている………!?」
「だから言ったでしょう!?魔王様をお連れしたって!」
アゲハは呆然としている仲間達に頬を膨らませて抗議している。こうしてみると悪魔とてどこにでもいる女の子となんら変わりはないように見えた。
「ほ、本当に魔王様が………」
細目のキツネ顔の男はいまだ信じられない様子で独り言のように呟くが、ハッと我に返るとサラの元まで駆け寄りその足元に跪いた。
「魔王様!!貴女様のご帰還を心よりお待ち申し上げておりました!!どうか魔王様の特別な御力で我らをお救い下さい!」
どうやらこの男が悪魔達のリーダーのようで、他の者達も次々とサラの元にやってきては頭を垂れていく。
サラはアーサーの腕に抱かれたままでは彼らをものすごく見下ろしてしまうと、慌てて下ろしてもらいしゃがみ込んで視線を合わせる。
「私達は人間と悪魔と種族は違いますが、お互いが手を取り合わなければこれから先生きて行くことは出来ないのですから、皆さんを“救う”なんて烏滸がましいことは言いません。
どうか私達人間のため、世界のために皆さんの力を貸して下さい。そして私達もまた、あなた達のために力を尽くします」
「…っ、はっ。魔王様の御心のままに」
「「「「「魔王様の御心のままに」」」」」
サラの言葉を受け細目の男を筆頭に、悪魔達は頭を下げて恭順の意を示した。
***
ヤマトの状態はもう落ち着いたというので先に家へと運んでもらった後、サラとアーサーはレイメイと名乗った細目の男の先導で一番大きなツリーハウスへと案内された。
この時、レイメイの魔術で三メートルほどの高さにある部屋の入り口へと運んでもらう。高魔力者が魔法を使って空を飛ぶと魔素が過剰に放出されてしまうと言うのでアーサーは大人しく魔術を受け入れたが、初めて掛けられる魔術に最初は警戒しまくっていた。
魔法と魔術の違いがよく分からないサラにしてみればプカプカと空中に浮く感覚は、自らがシャボン玉にでもなった気がしてとても楽しかったが。
そしてツリーハウスの扉を潜ると想像もしていなかった光景が広がっており、サラは感嘆の声をあげる。
「わぁ…!日本だ……、現代日本の設備がここにはあるっ……!!」
大きめとはいえ木の上にあるツリーハウスは見た感じ十畳ほどの広さしかなさそうだったが、ドアを開ければそこにはリビングやキッチンや寝室、トイレにお風呂などの設備が充実している高級マンションのような広々としたワンルームが現れたのだ。
「なんだ……この外観からは想像もつかない部屋の広さは…。空間拡張?魔法では鞄の容量を増やすことくらいしかまだ出来ないというのに、やはり魔術は侮れない……」
アーサーがブツブツ呟いて考え込んでいるのをよそに、サラは目を輝かせてツリーハウスの中をうろちょろする。
テレビこそ置いてないがリビングに置かれた巨大なコの字型のソファにエアコンが備え付けられて快適な室内、仕切りの向こうに見えるキングサイズのベッドに広めのウォークインクローゼット。
おまけにスタイリッシュなデザインのアイランドキッチンまで設置されている。ここは紛うことなき“日本”だ。
「懐かしい………」
もちろんアーサーの部屋や王宮で使わせてもらった部屋だって華の知識が元となった最新の魔道具が揃った快適な部屋だったが、常々微妙な違和感は感じていた。
しかしこの部屋は違う。「ここは異世界じゃなくて日本だよ」と言われてもすんなり納得出来る仕上がりになっているのだ。
まさか異世界で郷愁を感じることがあろうとは…とテンションの上がったサラは、ソファの前に置かれたガラスの天板がおしゃれなミニテーブルの上にあるリモコンを手に取り適当なボタンを押してみる。
「きゃっ!?」
「っ!サラ!どうした?大丈夫か!?勝手にウロウロしては駄目じゃないか!」
空間魔法の応用で果たしてこのように部屋を拡張することは可能なのかと思考に没頭していたアーサーは、サラが自分の側を離れていたことに気付かず悲鳴を聞いて瞬時に駆け寄る。
アーサーの言い方が完全に子どもを叱る親のそれで、いつものサラだったら「子ども扱いしないで下さい!」と怒っているところだが、そんなことよりも衝撃的な出来事があったサラは気付いていない。
「い、今、リモコンがピッて……。魔道具が……、動いた!?」
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