82 魔法使い達の本気
サラの誕生日パーティーのプランを考えることがメインの会議は盛りに盛り上がり過ぎて休憩を挟みつつも夜遅くまで続き、最終的に「もういい加減にして下さい!」とキレたサラの一言で終了したのだが、下手をしたら日を跨いでいたかもしれない。それほどに白熱していた。
サラは今、寝る支度を済ませてから寝室にあるテーブルでトムじいの似顔絵を書いているところだ。
「―――それにしても似ているな。トムの頬の傷まで正確に書けている」
アーサーは風呂上がりの濡れた髪をタオルで拭きながらやって来ると、サラの背後から覆い被さるようにして手元をのぞく。
「えへへ。前世では絵を描く機会が多くて…中々の腕前だと自負しています!」
サラはオタクというほどでもなかったが現実世界の異性に興味がなかった分、二次元や三次元のキャラにハマっていた時期がありその時に腕を磨いた。
器用だった美琴はポップ絵もデフォルト調のイラストもリアルな人物画も風景画も一通り描ける。
しかしこの世界にはミリペンや絵の具、カラーマーカーなど存在しないのでそこまで繊細に描くことは出来ないが、その人の特徴をうまく捉えればガラスペンや万年筆でもそれなりの物が仕上がるのだ。
そして何より被写体がいい。タイプの異なるイケメン達を存分に観察して描けるなんて、こちらがお金を払ってでもお願いしたいたいくらいだ。
「……」
「アーサー様?」
アーサーの病みのオーラを敏感に察知したサラはペンを置くと慌てて立ち上がってタオルに隠されたアーサーの顔を下から窺う。こういう時の円満解決のポイントは即行動・即解決だと経験上もう知っているからだ。
「………俺も」
「はい?」
「……俺もサラに似顔絵を描いてほしい、と言ったら迷惑だろうか……?」
一体どこに病み要素があったのかと警戒していたサラは、アーサーからの可愛いらしいお願いにホッとして笑顔を見せる。
「ああ、そういうことですか!
もちろん描かせて頂きますとも!アーサー様の絵は部屋に飾りたいのでキャンバスや額縁を用意して色も塗ってと考えていたので、少し時間がかかってしまうと思いますけど」
「っ!そうなのか」
嬉しそうに微笑むアーサーが可愛すぎてサラはニマニマしてしまうが、悲しいことにそんな余裕があったのはここまでだった。
「しかし―――俺はサラの初めてをすべて欲しいと言ったはずだが?」
「………え?」
「俺よりも先にジャックを描いただろう?……正直に言うとかなり嫉妬した」
「は、初めてって、こういうのも含まれるんですか!?あ、いえ……なんか、ごめんなさい?」
「駄目だ、落ち込んだ気分が戻りそうにない。ここは愛しい妻に慰めてもらいたいのだが……いいだろうか?」
アーサーの欲を孕んだ目に射抜かれ真っ赤になって固まってしまったサラは、返事をする前にアーサーの手でベッドへと運ばれてしまう。
そしてベッドに優しく横たえられ、アーサーがその美しい顔を寄せてきたあたりでやっと硬直が解ける。
「ああぁぁあ、あの!!!」
「大丈夫だ。最後まではしない」
「どういうこと!!??!?」
こうして、まったく気分が落ち込んでいるように見えないアーサーによって翻弄されまくったサラは、今日も今日とて気絶するようにして眠りにつくのだった。
翌朝、「手加減して下さいって言いましたよね!?」とアーサーに涙目で詰め寄るサラの声が寝室に響き渡ったことは言うまでもない。
***
王都で聖女騒動が巻き起こってから一週間、グラハドールでは何事もなかったかのような日常を―――いや、「そんな騒動知るか!」と言わんばかりに、昼夜問わず一心不乱にサラの生誕祭の準備が急ピッチで進められていた。
サラが城内を歩くアーサーの腕に抱かれながら辺りをキョロキョロと見渡すと、目が充血して何徹しているのか分からないような騎士達があちらこちらに見受けられる。
「な、なんだか皆さんの目、ちょっと殺気立ってませんか…?」
「サラの本来の誕生日からあまり日にちをずらしてパーティーを開催したくはないと、皆必死に準備をしているんだ。しかし後もう一週間ほどかかると言っていたな。すまないがもう少しだけ待ってほしい」
「いくらでも待ちますから本当に無理だけはしないで下さいね!?」
なぜたかが誕生日パーティーの準備にこれほどの時間がかかり、騎士達の目が血走っているのかというと、「城を丸ごと作り変えるつもりですか!?」と聞きたくなるほど大掛かりな改修を行っているからだった。
殺風景だった城の外周や庭園には色とりどりの花が植えられ、好き勝手に伸びていたコニファーは愛らしい動物の形に剪定されている。
いつの間にかメルヘンなガゼボも設置され、そこから見事な庭園を一望出来るようになっていた。
そして遠くから大量の水が流れる音が聞こえてくるのは、魔法で城の外壁を丸洗いしている音だ。
長年の汚れがこびりついた城の外壁はグレーにところどころ茶色や黒がまじった汚らしい色をしていたのだが、掃除が完了した場所は元の石の輝きを取り戻して白く輝き、あまりの変身ぶりから外から見たらもう別の城になってしまっている。
城の内部だって絨毯やカーテンをすべて新調したおかげで見違えるほど綺麗になったし、いつから掃除していないのか分からなかったシャンデリアもピカピカに蘇った。
そう―――高魔力者達は溢れ出る魔力を惜しみなく注いでサラの誕生日会場となる城を相応しいものにすべく日夜働いているのだった。
この時点でサラの思い描くアットホームな誕生日会とはだいぶかけ離れているというのに、アーサーが街から商人を何人も呼び寄せてはコソコソと話し込んでいることもすごく気になっている。
サラの護衛をヴァンに任せて隣の部屋で大きな荷物を持った商人と数十分話していたかと思えば、彼らはホクホクした笑顔で城を後にして行くのだ。手ぶらで……。
優しいアーサーのことだから何かプレゼントを用意してくれるとは思っていたが、なぜ毎日毎日何人もの商人を呼びつける必要があるのだろうか。すでに城の改修にいくらかけたのか分からないほどの金額が動いているというのにアーサーの財力が恐ろし過ぎる。
「ちょっと大きなバースデーケーキが食べられたらそれでいいのに…!」と思いつつも、サラは楽しみなような、それでいてちょっと怖いような気持ちでその日を待つことにした。
「ふぅ……」
今日も今日とてアーサーが商人を呼び寄せ密談(?)しているので、その間暇になったサラは見違えるような変貌を遂げた庭園まで一人やって来てはベンチに座った。
いつもは誰かしらが作業に明け暮れているのに今は休憩でもしているのか、珍しく庭園には誰もいない。
サラにしてみればいつもアーサーかヴァンが必ず側にいてくれるので久しぶりの一人きりの時間だった。
サラは何をするでもなくベンチに座ってぼんやりと空を眺めていたのだが、後ろから声を掛けられたことでお一人様タイムは早々に終了した。
「えっ、サラ様!?お一人ですか!?」
「あっ、ケリー様。こんにちは〜」
声を掛けてきたのはヴァンの同期のケリーで、悪魔がいつ現れてもおかしくないこの状況の中一人でいるサラを心配してくれたようで慌てて走り寄ってくる。
「あ、危ないですよ!お一人なんて…!もう、ヴァンは何してるんだろ…」
「ふふ、たまには一人になりたくてヴァン様を撒いてきたんです。きっと今頃探しているかも」
「えぇ!?ちょっ、それは不味いですよぉ〜!オレ、ヴァンの魔力を辿れますから案内します!!」
「え〜!?はぁい…分かりました」
もう少し一人でのんびりしたい気もしたが、ヴァンが心配しているだろうことも分かっているので、サラはヴァンの元まで案内してくれるというケリーに大人しく着いて行くことにした。
「えっと……ヴァンはこっちか。サラ様足元にお気を付け下さい」
「はい、ありがとうございます。…それにしてもヴァン様は本当にこんな場所に?」
「魔力は確かにこっちの方から反応があります。きっと城中探しても見つからなかったので門の方まで探しに来たのでしょう。……急ぎましょう、サラ様」
ヴァンの元まで連れて行くと言ってくれたケリーは、どんどんと城の中心部から離れて今はあまり使われていない東門の方へと歩いていく。
あまり整備もされていないので雑草が生い茂る道はとても歩きにくかった。
「わわっ!?」
「っ、大丈夫ですか!?」
雑草に足を取られ躓いてしまったサラを振り返ったケリーが咄嗟に支える。
「あ、ありが―――」
「…申し訳ございません!魔王様…!!」
二人の視線が一瞬交差した後、ケリーは苦しげに顔を歪ませるとサラの腕を掴んだまま魔術を発動した。
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