81 プレゼント
「サラ!?なぜフードを―――」
アーサーが慌てた様子でフードを被せようとしてくるが、サラはその手を握って押し留める。
「アーサー様、もういいのです。最初は私が四次元のイケメンに耐性がないからフードを被せてくれているのかと思っていましたが、本当の目的は私が高魔力者である皆さんの顔を認識出来ることを悟らせないため、だったのですね?」
「えっ!?高魔力者の顔を認識出来る……?」
「まさか…、じゃああの時私の顔を見ても平気だったのは魔力に影響されずに本来の顔を目にしていたから…?」
サラの言葉にジャックとブラッドがすかさず反応した後、ザワザワと騒がしかった会議室は水を打ったように静まり返ってしまう。
「サラ…、なぜそのような危険な真似を…。その秘密が広く知られてしまえばどうなるか教えただろう?」
「はい、分かっています。私の力を巡って高魔力者同士の争いになる、と。ですが私はこの城にいる人達のことを心から信頼していますので。
出会ってまだ数ヶ月ですが、仕事に対する誠実さや私を怖がらせないようにする気遣いから、皆さんがとても真面目で優しく、他人を想いやれる人達なんだなということがよく分かります」
「サラ…」
「私はアーサー様のことを心からお慕い申し上げております」
「!!?」
「だからこそこの城にいる皆さんならば、私の気持ちを無視して争うようなことは絶対にしないと信じているのです」
アーサーが不意打ちで受けたサラからの告白にピシリと固まる中、ジャックは明かされた秘密の衝撃から徐々に立ち直り「やれやれ」と苦笑する。
「……ここまで言われてしまえばサラ様の信頼を裏切るような真似は出来ないですよね。
それにお二人が想いあっていることは普段の様子から嫌というほど伝わってますし?俺はそんなお二人に割り込もうとするほど野暮な男じゃありませんよ。
なあ、そうだよなぁ皆!!」
「もちろんだ!俺は閣下に拾って頂けたからこそ、こうして生きている。閣下が幸せになってくれればそれでいいんだ」
「いやはや、サラ様がわしらの顔を認識出来るとは驚きましたな…。まったく、長生きはしてみるもんですなぁ。老いぼれの身ですが、わしも微力ながらお二人の幸せのため尽力させて頂きましょう」
「閣下いいなぁ!!自分の顔を認識してくれるお嫁さん!!」
「死ぬほど羨ましい…っ!!」
若干名、素直過ぎる心の声が漏れている者達がいたが、サラが思った通り城にいる高魔力者達に、サラの意に反する行動を取ろうという人間はいないようだった。
「皆さん、本当にありがとうございます!!」
嬉しくなったサラは一人一人の顔を見て笑顔でお礼を伝えていく。
「「「「「……………」」」」」
「あー………。閣下、やっぱりさっきの言葉なかったことにしてもいいっすか?」
「良いわけないないだろう。死にたいのか?」
「そうっすよね〜…。でもやっぱ可愛いー!!!」
サラは自分の顔を『普通』だと評価しているようだったが、フードを外して今まで隠されていた素顔を晒した時の衝撃は大きかった。
フードが外れてまず目についたのはふわふわとした甘いお菓子のような銀髪が肩に落ちる場面。そして徐々に視線を上げるとピンク色の小さな唇、ツンとたった形の良い鼻、はっきりとした二重の水色の瞳が目に入ってくる。
それぞれのパーツがバランスよく配置された、そのどこか儚げな容姿は非常に整っており愛らしい。
そしてやはり一番印象的なのは光り輝く生命力を宿した瞳で、見る者に強烈なインパクトを与えては視線を逸らすことを許さない。
かといって強く逞しく見えるのかと言えばそうではなく、全体的に小柄でほっそりとした身体つきには庇護欲を唆られ、「守ってあげなくては」と思ってしまう何かがあった。
つまりサラは人々を魅了してやまない小動物のようでとても可愛らしいのだ。
そんな愛らしい存在に目を合わせて笑顔でお礼なんか言われてしまえば先ほどの自分の発言なんかコロッと覆したくなってしまうというもの。
ジャックの冗談まじりだが割と本気の言葉に他のメンバー達も高速で頷いている。
「お前達……。さっきの俺の幸せを願う言葉は一体何だったんだ?」
「すみません、俺達真面目で誠実だから嘘がつけないんです」
「ふふふ、皆さんは冗談もお上手で面白いですねぇ」
「いや、こいつらは冗談なんかじゃない……ん?サラは何を書いているんだ?」
アーサーは仲間達の変わり身の速さに心底呆れていたが、サラが真っ白な紙に何かを書いていることに気付くと手元をのぞき込む。
「―――はいっ、出来ました!」
「これは……」
「え、これってもしかして俺!?」
サラが目の前に掲げた紙にはガラスペンで書いたとは思えないほど精巧に描かれた一人の男性の顔が。ジャックはサラから手渡された紙を穴が空きそうなほどじっくりと眺める。
「すげー………。本当にそっくりだ。サラ様から見た俺は、ちゃんとこんな顔をしているんですね…」
「はい。高魔力者の方はアーサー様と御本人だけしか自分の顔を認識出来ないことで、鏡に映る姿すら信用出来なくなってくるとお聞きしました。
だから私が皆さんの絵を書くことで、改めて自分の顔はこうなんだって思ってもらえたらいいなって」
「サラ様…ありがとうございます……。いつか故郷にいる両親にもこの絵を見せれたら、と思います」
サラが書いた自分の似顔絵を見ていると様々な想いが沸き起こってしまい、ジャックは声を詰まらせる。
逃げるように故郷を飛び出してから一度も帰っていなかったが、大人になってみて高魔力者の子どもを産んだ親の苦労などやっと見えてきた部分もある。
今すぐとはいかないが、いつかこの絵を持って国に帰って「これがあんた達が産んだガキの顔だ」と両親に見せてやりたいと素直に思うことが出来た。
すると周りにいた騎士達もわらわらとジャックの元に集まって一緒にジャックの似顔絵を鑑賞し出す。
「はぁ〜、これがジャックの顔かぁ!長い付き合いだけど初めて知ったわ。てか、ジャックってめちゃくちゃ……格好いいよな!?」
「たぶん格好いい。おそらく格好いい、はず…。いや…これはただの身内贔屓なのか?」
「うーん……格好いいってなんだろうな、もうよくわからねぇ」
一枚の紙を囲んで「ジャックは格好いいかどうか」について真剣に話し合う男達があまりにも不憫過ぎてサラは声を大にして宣言する。
「皆さんは醜いと言われ続けて美醜感覚が狂ってしまっているようですが、ジャック様は紛れもなく格好いいですよ!ご自身の感性に自信を持って下さい!」
「おぉ〜、この顔はやっぱり格好いいのか」
「ジャック、良かったな。俺達もお前の顔が知れて嬉しいよ」
「そっか…。俺の顔は『格好いい』んですね…。へへっ、なんか不思議っすね」
ジャックのどこか照れくさそうな嬉しそうな様子を見た騎士達は、そんなジャックのことが次第に羨ましくなりサラの周りに集まり出す。
「サラ様!俺の顔も描いてもらえませんか!?」
「俺もお願いします!!」
「あ、全然お暇な時でいいので…!!」
「はい、もちろん皆さん全員の似顔絵を描いてプレゼントしますよ。これは私の誕生日を祝って下さる皆さんへのお礼の気持ちなので」
「そうだったのか…」
ここでアーサーはやっとサラが秘密を明かした理由を知った。絵心と時間もないアーサーにはとても出来なかったが、絵ならば魔力に影響されず誰もが高魔力者の本当の顔を認識することが出来る。
だからどうしたと思われるかもしれないが、今まで仲間の顔を声や体形から想像することしか出来なかったのが、絵を通してイメージ出来るようになればより絆も深まるだろう。
「サラ、ありがとう」
「いえいえ、私も誕生日パーティーとっても楽しみにしていますね」
そう言って子どものように無邪気に笑うサラを見た面々は心の中で「誰よりもすごいプレゼントを渡そう」と決意する。
こうしてサラの誕生日はグラハドール領内で毎年えげつない経済効果を生むことになるのだが、この時のサラはそんなことも知らずに「大きなバースデーケーキ食べれたりするのかなぁ」と喜んでいた。
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