80 緊急招集会議
「みんな、急な招集すまなかった。忙しいところこうして集まってくれて感謝する」
アーサーは参加者が集まる会議室に最後の一人としてやってくると自分の椅子にドサッと腰かけた。
「当然ですぞ。サラ様に関わることならば何を置いても駆け付けましょうとも」
「そうっすよ!サラ様が伝説の聖女様って…一体どういうことですか!?」
グラハドールの騎士団はいくつかの隊に別れているのだが、緊急会議には各隊の隊長達やブラッド、トムじい、サラの護衛としてヴァンなど数十人が参加していた。順調なリハビリを経て最近隊長職に復帰したジャックも会議の場におり、早速声をあげている。
ちなみにサラはいつものフード付きマントを被ってアーサーの膝の上だ。慣れたとはいえ中々羞恥心は消えてくれない。
「本題に入る前に王都で起こったことを軽く説明させてほしい。
まず、サラが聖女であると騒がれている件の真偽についてだが、サラはある条件を満たしたため陛下に聖女だと正式に認められた」
「「「「おおぉぉ!!」」」」
「グラハドールに伝説の聖女様が誕生するなんて…」
「暴食の女神様ではなくまさかの聖女様だった……!」
「「「サラ様、おめでとうございます!!」」」
アーサーの言葉に会議の参加者達は「わぁぁぁ!!」と盛り上がり、聖女が千年振りに現れた奇跡と、その奇跡がグラハドールに齎された幸運に歓喜した。
「そして王宮に悪魔が現れたという話も事実だ。厄介なことに悪魔はサラを狙っている。
殿下を人質に取られていたこともあり悪魔を見逃したが、その際仲間を引き連れてサラを奪いに来ると言い残して消えた」
「なんじゃと!?サラ様が狙われておるなど一大事ではございませんか!」
「サラ様を奪いに来るなんてふざけたことを……!閣下、悪魔なんざ俺達で返り討ちにしてやりましょう!!」
「そうだ!我らの聖女様をお守りするんだ!」
歓喜ムードから一転、悪魔の狙いがサラだと知った面々は魔力を迸らせて怒りを露わにしている。
「いや、悪魔は生け捕りにするんだ」
「えっ!?なぜですか!?嫁狂いの閣下ならばサラ様を狙われた時点で問答無用で殺せと仰るのかと…。
あ、生け捕りにして惨たらしく拷問にかけるおつもりなのですか?」
「残念ながら違う。どうやら悪魔が全滅すると世界は滅びるらしい。つまり困ることになるのは俺達だ」
アーサーは魔素と悪魔と人間の複雑に絡まり合った関係性と、なぜ悪魔がいなくなれば世界が滅亡するのかを手短に説明する。
魔素が人間の生態系に大きな影響を与える―――これが一番深刻な問題だった。
「え……。じゃあ俺達は悪魔がいなければいずれ―――」
「そんな…では我々がしてきたことはすべて間違いだったと?」
「いまや高魔力者の数は世界総人口のわずか十数パーセントにまで減少しているのですよ!?今から悪魔の数を増やしたところでもう手遅れなのでは!?」
アーサーから悪魔がこの世界における重要な役割を担っていたことを聞かされた会議の参加者達は驚愕の表情を浮かべながら騒いでいる。
そんな面々を手で制し一度全員黙らせてからアーサーは深刻な顔で切り出した。
「ここまでが王都起こった出来事や判明した事実だ。
サラが聖女と認められた経緯や悪魔の対応など理解してくれたことだろう。
それでは時間も惜しいから早速本題に入らせてもらう」
「えっ!?こっからが本題!??」
「今までの話以上に重要な案件が…?」
「世界が滅びる話が前置きなんて本題を聞くのが怖くなってくるな…」
「……」
サラはフードの中で顔を俯かせる。これからの話の内容を知っている身としては罵声を浴びる覚悟だ。
「閣下、本題というのは…?」
ブラッドが恐る恐る尋ねると、アーサーは「よくぞ聞いてくれた」とばかりに頷き満を持して堂々と答える。
「本日みんなに集まってもらったのは他でもない。重要議題『サラの誕生祭について』話し合うためだ」
「……」
サラは顔から火が出そうなほど真っ赤になって縮こまることしか出来ない。
世界が滅びるかもしれないという深刻な話の後に誰がこんな呑気な議題を想像するだろうか。「ふざけてんのか!」と紛糾する会議参加者の顔が想像出来て怖すぎる。
「サラ様の、誕生祭……?」
ジャックがポカンとした顔で呟く。
「そうだ。サラが慎ましいことを失念していた俺の落ち度ではあるが、サラの誕生日を当日に祝い損ねるという痛恨のミスを犯してしまった」
「なんと…!!」
「サラに許しを乞うて幸いにも挽回のチャンスを貰うことが出来た。当日に祝えなかった分、気持ちのこもったパーティーを開きたいと思う。どうか皆も協力頼む」
アーサーが座ったまま軽く頭を下げると一瞬静まり返っていた会議室が今日一番震撼した。
サラが聖女であると発表された時以上の盛り上がりで「うぉおおおぉぉぉ!!!!!!」と雄叫びが上がったかと思えば怒涛の勢いで様々なアイデアが飛び交う。
「まずは領内をパレードしてサラ様の尊さをすべての領民に布教致しましょう」
「いっそのことサラ様のお生まれになられた日をグラハドールの祭日とし、神に祈りを捧げるべきでは?」
「すぐに城の大ホールの掃除に取り掛からないと!あれくらいの広さがないと数百人規模の招待客を収容出来ないでしょう」
「待て、一体誰を呼ぶつもりだ?外部の人間を呼べば俺達がサラ様の誕生日をゆっくり祝えなくなってしまうぞ?」
「それもそうだな…。ここはアットホームを強調して俺達だけでささやかかつ豪勢なパーティーを開くのもいいかもしれない」
「その意見に賛成」
「同じく!」
「なるほど。そういう考え方もあるんだな。確かにサラは大掛かりなものより、城にいる者達全員で祝う小規模なパーティーの方が喜びそうだ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!城の全員で小規模って言いますけど、お城には二百人くらいの騎士様達が住んでいるじゃないですか!
そ、その前に皆さん正気ですか!?白熱した議論を繰り広げていますがその内容が私の誕生日プランなんて…!もっと悪魔との話し合いについての対策を練るべきでは…っ」
あまりの盛り上がりに口を挟めずにいたサラは、驚愕のパーティープランが飛び出したことで慌てて待ったをかける。
彼らが二百人規模のパーティーの何をもってして小規模だと判断しているのかまったく分からないし、そもそもサラの誕生日について話し合うために緊急で呼ばれたことをもっと怒るべきではないのだろうか。
「やっぱり…誕生日パーティーの参加者が俺達だけじゃ駄目ですか……?」
「えっ!?」
「奥様はいつも俺達のために動いて下さるじゃないですか。繕い物をしてくれたり栄誉のバランスが整った献立を考えてくれたり、筋トレのメニューを考案してくれたり。毎日お世話になっている奥様に感謝の気持ちを伝えるチャンスが欲しいんです!」
「そうそう。皆サラ様のことが大好きなんですよ。だからお願いします。俺達にサラ様の誕生日を一緒にお祝いさせて下さい」
「ジャック様…皆さん…!」
サラだって本当は、今や全員顔見知りとなったグラハドール城に住む騎士達に誕生日のお祝いをしてもらえることは正直に言えばとても嬉しい。
「……皆さん、ありがとうございます。私の誕生日というわりとどうでもいい話にここまで真剣に意見を出し合って下さり、困惑すると同時にとても嬉しくもあります。
皆さんにお祝いして頂ける以上の最高のプランはありません。ご迷惑でなければ是非お願い致します!」
サラはそう言うと被っていたフードを背中にパサリと落として笑顔で頭を下げた。
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