77 解明される謎
聖女からの手紙をここまで読むと、サラは一旦喉を潤すためグラスに注がれた水を一口飲んだ。大勢の人に見守られながらの朗読(?)はさすがに少し緊張してしまう。
「―――聖女様のお名前はヤマナカハナ様と仰るのですね……!凄いです、これは世紀の大発見ですよ!!」
「初代国王は聖女様の御名前にすら情報統制を敷いたので、我々は今まで聖女様の正確な御名前を知らなかったのです。ヤマナカハナ様……なんと不思議な響きなのでしょう……!」
ノエルとネメルが目を輝かせて華の名前を連呼しているが、発音が「タカマガハラ」みたいになっていて少しおかしい。
「山中は名字で、お名前は華さんですね」
「ハナ様…」
「ハナ様…!」
サラが訂正してようやく華の名前は正しく認識された。しかしアーサーは千年の時を経て明かされた聖女の名前よりも、サラが今の時代に生まれていない可能性があった話の方に食いつく。
「サラ、それよりもサラが本当は千年前の聖女と同じ時代を生きるはずだった、とはどういうことだ?」
「私は転生ではなく転移の予定だったということですね。手違いがあって今の時代にサラとして生まれ変わってしまいましたが、本来は華さんと同じ千年前に美琴としてこの世界に―――!?あ、アーサー様??」
アーサーは話の途中で堪えきれずにサラを自身の膝の上に乗せると背後からぎゅうぎゅうと抱き締める。
「……サラのいない人生なんてもう考えられない。手違いでもなんでもいい、サラがこの時代に生まれてきてくれた奇跡に感謝を」
「もう、アーサー様ったら…」
確かに“球体”による失態がなければサラはアーサーとこの時代に出会うことが出来なかった。サラだってアーサーのいない人生など恐ろしくて考えたくもない。
「私は貴方に出会えて今とても幸せです」
「俺もだ…」
サラのこの、一瞬でアーサーしか見えなくなる癖はもはや特技といってもいいのかもしれない。ここがどこで周りに誰がいるのかも忘れてアーサーに身を委ねる。
「……聖女様には言いにくいからアーサーに言うけれど、すぐに二人の世界を作り上げるの止めてもらってもいいかな?」
「っ!す、すみません…」
セインの呆れたような声に我に返ったサラは慌ててアーサーの膝から降りようとするのだが、すでにアーサーの逞しい腕にがっちりとホールドされており、結局足をプラプラさせるだけに終わった。
「…お前達。まず気になるのはそこなのか?私は世界が滅亡する話の方が気になるのだが…」
「「「た、確かに…!」」」
冷静なルドルフの問い掛けに、息子達は反応するところがおかしかったことにやっと気が付く。
「それに“球体”とは何を指す言葉なのだろうか?
手紙の内容からしてそれが意思を持っていることは間違いなさそうだが」
「えっと、“球体”はですね…」
サラはアーサーの疑問に答えるべく、華が残してくれた手紙をパラパラとめくって球体について説明されている箇所を探す。
「えっと…球体とは『太陰太極図のような柄をしたサッカーボールサイズの神様』……どうやらこの世界の神様のようですね」
「神、だと…?」
「なんと、聖女様は神の御使いであらせられたのか…!」
アーサーや王族達がざわついているが、サラにしてみれば「定番だな」という感想しか浮かんで来ない。
太陰太極図とは白黒の勾玉が二つ合わさったような風水にまつわるあのマークだ。
まず、サッカーボールとはサッカーという競技で使われる大人の頭くらいの大きさのボールだと教えてあげてから絵も交えて“球体”について説明していく。
「この丸い神様は華さんと私を異世界から引っ張ってきたことでほとんどの力を使い切ってしまったみたいで、華さんにこの世界の行く末を託した後長い眠りについたようです」
「しかし本来はサラと聖女ハナの二人で一つの使命を帯びていたのだろう?しかも聖女ハナはサラのサポート役だと。
千年経ってもまだ世界は滅んでいないところをみるに、聖女ハナは一人で使命をやり遂げたということか?」
「いえ、華さんは進行を遅らせただけといいますか、状況は悪いままで本当に世界は緩やかに滅びに向かっていますね」
「そう言われても世界になにか異変が起きているようには思えないのだが……」
海が割れるような天変地異が起こったわけでも、世界中に魔物が溢れ返ったわけでもない。たまにラナテスでスタンピードが発生することもあるが、それも問題なく対処出来ている。
アーサーの目には世界はいつもと変わりなく廻り続けているようにしか映らなかった。
「それは華さんのおかげですね。この世界にやって来た時、華さんは球体の神様にいくつか特別な力をもらったそうですが、その中の一つに、―――?」
ふと、王族組が静かだなと思ったサラがそちらへ目をやると、全員が紙とペンを持ち一言一句聞き逃すまいと、サラが話すことを必死の形相で書き写しているロイヤルズの姿が見えた。
「すごい……すごいぞっ!長く停滞していた歴史が動き始めた……!!」
「素晴らしい…難解すぎて『これは実は文字ではないのでは?』という議論まで巻き起こったあの謎記号の解読がこうもスラスラと進むなんて…!!」
「『聖女様文書』の解読は後世に残る偉業だ。お前達絶対に書き漏らすなよ!!」
「「「はい!!」」」
ガリガリガリガリと紙にペンを走らせる音が聞こえてくる。長年聖女に関して研究してきただけあって、サラによって解き明かされる真実は彼らにとって垂涎もののお宝なのだろう。
人生がかかった試験中の受験生のようなルドルフ達は放っておくことにして、サラはアーサーに向き直ると手紙の続きを読み始めた。
『―――ここからは私が球体に与えられたいくつかの能力について説明するわね。
一つ目は“自動翻訳機能”って言えば分かるかな?
違う言葉や文字でも自動的に日本語に変換してくれるっていう、異世界転移あるあるのお決まりのあの力ね。
二つ目は“真実の眼”と呼ばれるすべてを見通すことが出来る超便利な力なんだけど…この二つはミコトちゃんにも備わっているらしいから詳しい説明は割愛させてもらいます。
そして三つ目は“願った効果が付与された植物の種を創り出す力”―――これは私にしか扱えない力らしいわ。
“願った効果が付与された植物の種を創り出す力”って言われもよく分からないわよね?
私も最初まったく意味が分からなくて球体を引っ掴んで質問責めにしてやったものよ。
話を聞くとこれは結構凄い力で、たとえば私が「咳に効く薬が欲しい」と願うとその効能を持った植物が成る種が手のひらに現れるの。
この種を土に植えて水を与えて育てれば、やがて咳に効く薬となる葉っぱだか実だかが取れるってわけ。ね、すごくない!?
でもね、この力を使えばなんでもかんでも願いが叶うってわけじゃないのよね。
「咳に効く薬」はオッケーでも「すべての病に効く薬」はだめとか、あとはお金持ちになりたいなぁと思って「宝石の成る木」を願っても種は出て来なかったし。
あとは私達の世界の植物を再現しようとしても「のようなもの」しか作ることが出来なかった。結局物事には限界があるということなのかしら。
ミコトちゃんは自分の力をちゃんと把握している?
球体に聞いたところ、ミコトちゃんの力は“魔を吸い取る力”なんですって。
使っていくうちに与えられた力がどういうものなのか段々分かってくるらしいけれど、魔力や魔素のせいで世界が滅びようとしているのだから、それを阻止するためには絶対に必要不可欠な力よね』
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