76 聖女からの手紙
「我々はこの本について九百年研究して参りましたが法則性がまったく掴めず、いまだに解読しきれないというのが現状でして…」
聖女が日本人だったとしてその本の内容がすべて日本語で書かれているのならば、解読が難航しているというセインの言葉には納得出来る。
日本語は文字の種類からしてひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットの4種類が存在しており、言語習得難易度ランキングにおいて最高レベルに位置付けられていると聞いたことがあるくらいなので、なんの手掛かりもなしにセイン達が日本語を読み解くことはほぼ不可能だろう。
「分かりました。私は聖女様がわざわざ木の祠に隠してまで残したその本の解読をすればよろしいのですね?」
「はい、よろしくお願い致します。この本には王宮に仕える高魔力者達に強い保護の魔法を掛け続けてもらっているので、千年経ったとはいえ脆く崩れ去ることはありませんが、一応この手袋をつけて中身をご覧下さい」
渡された手袋をつけ、サラは聖女が残したとされる一冊の本を慎重に手に取る。
本というよりかは羊皮紙に穴を開けて紐で綴じただけの紙の束だったが、千年前に書かれたことを考えれば状態はとても良好だった。
サラはなにも書かれていない表紙をゆっくりとめくる。すると最初のページに書かれた衝撃的な一行が目に飛び込んできた。
「…っ!?」
「聖女様?如何でしょう、解読は可能でしょうか?」
ノエルはずっとこの本の解読に携わってきた人間として長年の謎が解けるのかと好奇心が抑えられず、前のめりになってサラに問い掛ける。
「僕の見立てではその一ページ目の文章は人物の名前ではないかと考えています。後ろのページにも何度かこの文字は出てきていますので」
「………ノエル殿下の仰る通り、この文字は人物の名前です」
「っ、やっぱり!!」
「おぉっ…!」
「ついに…ついに我々王家の役目が果たされる時がやってきた……!!」
「なんと書かれているのですか?聖女様のお名前が記されているのですか!?」
ルドルフ達が本の内容がついに解読されると歓喜に湧く中、サラは難しい顔で一ページ目を凝視している。
「サラ、大丈夫か?何が書かれているんだ?」
サラの様子がおかしいことにいち早く気付いたアーサーが手袋越しにその手を握る。さすがに陛下の御前でアーサーの膝の上に座ることは憚られたので(アーサーはまったく気にしていないが)、今は隣同士の席に座っていた。
「このページに描かれている文章は『カンザキミコトちゃんへ』。
………どうやらこれは千年前の聖女様が私に宛てた手紙のようですね」
アーサーは「神崎美琴」と聞いて驚愕の表情を浮かべるが、しかしもちろんセイン達には「神崎美琴」が誰なのかは分かっていない。
「『カンザキミコト』とは誰なのですか?なぜこれがサラ様に宛てた手紙になるのです?」
「神崎美琴は私の前世の名前だからです」
「えっ!?」
正しく意味を理解したセイン達は、なぜ千年前に生きた聖女がサラの前世の名前を知っているのかと、アーサーと同じような顔をして驚いている。
サラも一瞬前世の知り合いが転移したのかと思ったが、知り合いならば美琴の名前を漢字で書くはずだと思いなおす。
「たぶん……千年前の聖女様は白い空間でこの世界の神様と会話してから転移したパターンなのかなぁ…」
「え?」
「いえ、なんでもありません。とにかく続きを読んでみます」
サラは千年前の聖女は異世界転生ものでよく見る、神様に使命や便利な力なんかを直接与えられてから転生・転移したいわゆる王道(?)パターンだなと、ここで言っても誰にも伝わらない予想をたてつつ美琴宛ての手紙を読み進めた。
聖女からの手紙はそれなりの分厚さがあったが、細いペンなどなかった時代に書かれたからか一文字一文字がわりと大きく、そのためページ数を消費していたようで、サラはそれほど時間を掛けずにすべて読み終えることが出来た。
しかしその内容は思いがけないことばかりで、何から手を付ければいいのか、そしてとうてい受け入れられないであろうこの事実をどのようにして皆に伝えるべきかサラは頭を悩ませてしまう。
「……聖女様?我々にもその手紙の内容をお教え頂けますか?」
「あっ、はい。もちろんです。……ですが、この内容はきっと皆様には許容し難いものであり、簡単には信じることは出来ないと思います。
ですが私がこれから話す内容は誓って真実です。そのことをご承知頂いた上でお聞き下さい」
サラの意味深な前置きに集まった面々の顔には緊張が走ったが、そもそも聖女であるサラの言葉を疑う者などはなから誰もいない。
代表してセインが頷くのを確認してからサラは手紙の冒頭部分を読み始めた。
『カンザキミコトちゃんへ
ミコトちゃん、はじめまして。
この手紙が貴女の元に届くと信じていますが、それがいつになることやらさっぱり分かりません。
私が生きているうちに出会えたらそれが一番いいのだけれど…あの球体の口ぶりだとその可能性は低そうなので、彼の目を盗んでこういう形で真実を後世に残そうと思います。
ミコトちゃんは一体どこに飛ばされちゃったのかな…?本当は私と同じ時代を生きるはずだったと知ればきっと驚くよね。
こんなことを言われてもまったく意味が分からないと思うので、順を追って説明していきます。
まず初めに、私の名前は「山中 華」といいます。
私はミコトちゃんと同じ時代に生きていた日本人で、東京の大学に通う一年生でした。
気が狂いそうな受験生活から解放されて夢のキャンパスライフを満喫していたというのに、ある日居眠り運転のトラックに撥ねらちゃって…気がついたらどこもかしこも真っ白な空間にいたってわけ。
この真っ白な空間には喋る球体がいてね、「貴女には人々を救うため聖女として異世界に行ってもらいたい」なんて言うのよ。
ミコトちゃんは漫画とかアニメとか好きだった?
私は異世界ものとか好きで携帯小説でよく読んでたんだ。…だから一瞬で察したの。「ああ、私は死んじゃったんだな」って。
もちろん生きていた世界に未練タラタラだったし家族や友達にもう二度と会えないなんて信じたくなかった。
でもトラックがぶつかってきた時の衝撃とか痛みとか生々しく覚えててさ……さすがにあれが全部夢だったとは思えなくて。それで仕方なく現実を受け入れたんだ。
まぁこんなわけで、私が「とりあえず球体の話でも聞きましょうか」と思えるくらいに落ち着くまでそれほど時間はかからなかったのだけど、何故か球体の方が汗?をダラダラ垂らしてパニくってるのよ。
あまりにも様子がおかしかったから問い詰めてみたら、「本当は異世界から二人引っ張ってきた」と言うのだけど―――白い空間には私以外誰もいなかった。
なんでも、球体の失態でミコトちゃんの魂を途中で見失ってしまったらしいのよ。
球体いわく地球からこの世界に間違いなく連れて来ているけど、ミコトちゃんの魂がどこの時間軸に落ちたかは分からないって…。それにこの白い空間でないと地球にいた時の身体を再生出来ないなんて巫山戯たことを言うのよ!?
この話を聞かされた時「何やってんだ!」と球体を怒鳴りつけて捏ねくり回してやったわ。偉い存在らしいけどそんなこと関係ない。
だって私達は二人で一つの使命を遂行しなければならない、言わば対の存在なのだから。いいえ、むしろ私はミコトちゃんのサポート役ってところかしら。
……と言っても急に違う世界に連れて来られて大勢の人達の命が掛かった使命を与えられても困るわよね?
気持ちは分かるわ!私だって最初そう思ったもの。
元の世界で一度死んでしまったものをまた違う世界で生き直せることには感謝しているけれど、それはそれ、これはこれ、でしょう?
だけど話を聞くうちにこの世界が置かれているギリギリの状況に猶予はなさそうだと分かったし、それに私達にしか出来ないことだと言われたら断われないというか……。
まあ、一度は失ったこの命で大勢の人を救うことが出来るならって考え直して今に至るってわけ。
だから…ミコトちゃんもお願い!
私だけではこの世界が緩やかに滅び向かう摂理を断ち切ることは出来ないの。
私が種を蒔いて水を与え植物を芽吹かせ時間を稼ぐわ。その間にミコトちゃんの力でどうか彼らを救ってあげて―――』
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