75 謁見?
「改めましてご挨拶させて頂きます、聖女様。僕はネメル・アルセリアと申します!この度は囚われていたノエルを助けて頂きありがとうございました!
情けないことに双子である僕ですらノエルの入れ替わりに気づけなかったというのに…、本当に聖女様の持つ御力は素晴らしいです……!!」
サラを聖女と呼び慕う信奉者がまた一人現れた。
ネメルもノエルと同じくらいの熱量で聖女に傾倒しているようで、目を輝かせてはサラにグイグイと話しかけてくる。
「ネメル殿下、それ以上サラに近づかないで下さい。彼女は聖女である前に私の妻なのですから」
「うっ…。本当になんでよりによって聖女様のお相手が辺境伯なんだ……。王族の権力が一切通用しないっておかしくないだろうか…?」
アーサーがサラを庇うようにして前に出たことで、ネメルは視線を逸らしてぶつぶつ呟きながらも大人しく引っ込む。懸命な判断だ。
「聖女様の体調や御気分に問題がないようであれば陛下に会って頂きたいのですが、いかがでしょうか?」
セインがサラを気遣うように控えめに提案してくるが、一般市民であるサラにここで「ノー」と言う選択肢はない。
「もちろん大丈夫です!万が一にも国王陛下をお待たせするわけには参りませんので、すぐにでも!」
「いえ、陛下はすでに待たせてございます」
「…………え?」
「我々の方が聖女様をお待たせするわけには参りませんので、陛下には一時間ほど前から謁見の場で待機してもらっております。
聖女様がいつ部屋に来られてもいいようにずっと跪いておくと申しておりました」
「いやいやいや………、え!!!?」
またしても馬鹿なことを言い出したセインの顔をサラはおもわず二度見してしまった。どうか聞き間違いであってくれと思ったが、とても冗談を言っているような顔には見えない。
「い、一体何を仰っているのですか!?普通、謁見とは陛下が来られるのを臣下が伏して待つものですよね!?これでは逆ですよ!?」
「サラ、落ち着いてくれ。聖女とはこの国の頂点に立つ存在。よって陛下の対応はなんらおかしいことではない。
本当は玉座の間で謁見させてほしいと昨日殿下に言われていたのだが、サラが気を使うと思い断ったくらいなんだ」
「玉座の、間……?」
玉座の間とは、名前からしてあれだろうか。
シャンデリアが光り輝く広いホールの一番奥、赤い絨毯が敷かれた階段を登った先には王様の椅子がデーンと置かれているような、あのいかにもな感じの部屋では?……と、ここまで想像したところで「そんな部屋で国王陛下と謁見なんて絶対に無理!」とサラは首をブンブン振る。そしてこの流れからして玉座に座るのは国王ではなくサラのはずだ。本当に嫌過ぎる。
「ご安心下さい。玉座の間は堅苦しいということで、今回は王族のプライベートエリアにご案内致します。内密な話もございますのでちょうどよろしいかと」
「わ、分かりました…」
玉座の間よりは多少マシとはいえ王族のプライベートエリアだって十分凄いはずなので、サラはあまり安心出来ないままセインの案内に導かれて謁見場所へと移動することになった。
***
「―――聖女様。再びアルセリアの地にご降臨下さったこと伏して御礼申し上げます。千年という気の遠くなるような時間が流れ、我々はもう二度と聖女様にはお会いすることは叶わないのかと絶望に打ちひしがれた時代もございましたが……今代で聖女様にお仕えできるというこのような奇跡が起こるなど、わたくしはもういつ死んでもかまいません」
「ひ、ひぃ〜〜〜!?」
サラは地に額をつけるほど頭を下げた国王陛下を前にし、挨拶も忘れてアーサーに取りすがった。
セインが案内してくれたのは先ほどケリーと面会した部屋よりも扉が小さく、普通の部屋かなと思わせておいてのまったく普通ではない部屋だった。
まず、扉を二人の男が守っているのだが仮面をつけていることから高魔力者であると予想出来る。王宮で抱えている貴重な高魔力者を二人も配置していることからこの部屋の重要さが伺えるというもの。
そしてセインが扉を開けて通された部屋の中は、全体的にロココ調の淡い優しい色合いや、曲線的で優雅な家具などが置かれたベルサイユ宮殿を思わせる内装で、品のある落ち着いた空間ながらもやはり豪華で華やかだ。
壁には肖像画がいくつも掛けられており、モデルはおそらく歴代の国王達なのだろうが、圧倒的に聖女の肖像画が多い。
キョロキョロと広い室内を見回しているうちに、サラはシルバー塗装が施された上品な輝きを放つダイニングテーブルの横で頭を下げて跪く男性を発見してしまう。
「!?」
もちろんこの男性がアルセリア国王、ルドルフ・アルセリアなわけで、熱烈な挨拶を受けたサラは恐縮のあまりアーサーに縋り付いたというわけだった。
国王陛下とも面識のあるアーサーの「サラが怯えています。過剰に聖女として扱うのはお止め下さい」というひと声でなんとか無事、全員席に着くことが出来た。
この場にいるのは国王であるルドルフと王太子であるセイン、第二王子のノエル、第三王子のネメルに、サラとアーサーの六人だけだ。
「あの、先ほどは気が動転してしまいご挨拶出来ずに申し訳ございませんでした。サラ・グラハドールと申します。アルセリア王国の太陽であらせられる国王陛下にお目通り叶いまして光栄にございます」
さっきの失態をきれいさっぱりなかったことにするべく、サラは立ち上がるとそろそろ完璧になってきたカーテシーで国王に向かい挨拶の言葉を述べる。
「聖女様、お止め下さい!この国の太陽は貴方様です。すぐには慣れないかもしれませんが我々王族にへりくだる必要はこざいません!」
しかしガタンッと音を立てて椅子から立ち上がったルドルフにすぐに止められてしまった。
ルドルフは美形三兄弟の父親なだけあってかなりのイケおじだ。どうやら息子達よりも聖女に傾倒しているようで、今にも土下座しそうな勢いでサラを崇拝している。
「で、ですが…」
「我々は聖女様の知識を必要としています。我々が貴方様に尽くすのはそのための対価であるとお考え下さい」
「対価…。そう仰いますが、私にはこのような待遇を受けるほどの知識をお渡し出来る確証がないのです」
サラには王族達が自らを臣下だと言うほどに、彼らの望む“答え”を自分が知っているとはとうてい思えなかった。
前世は十七で亡くなっているし、転生あるある(?)の神様と出会った記憶もないので自分に与えられた使命なんかあっても知らない。それでも聖女と呼ばれることは本当に正しいのだろうか。
「我々が貴女様に求めることはただ一つ。千年前の聖女様が残した謎を解明して頂きたいのです」
「聖女様が残した謎……?」
「ここからは私がご説明させて頂きます」
ルドルフの言葉にサラが首を傾げていると、セインが立ち上がりテーブルに置いてあった一冊の本をサラの目の前に置いた。
「聖女様はどこからともなく現れてアルセリアを建国した初代国王の妻となりましたが、この御方はとにかく謎が多いのです。
まず、我々今の王族が知っていることといえば聖女様は異世界から来られたということと、その異世界の知識を惜しみなく与えて下さったということ。
異世界の知識はとても画期的で素晴らしいものばかりでしたが、しかし当時の我が国の技術ではとうてい再現することなど出来ず、すべて紙に書き残して今日まで研究し続けて参りました。
近年やっと異世界の知識に我々の能力が追いついてきたことで魔道具が凄まじく発展致しましたが、これらはすべて千年前の聖女様が残された知識のおかげなのです」
この世界の魔道具が前世の世界で使用していた物にそっくりなのは千年前の聖女がこの国の人達に知識を与えたから―――ここまではサラが予想した通りだ。
しかし廟堂内の祭壇に飾られていた聖女が愛用していたとされるこたつ。あれだけは千年前に完璧に再現させていたあたり、こたつに対する聖女の執念を感じる。
「初代国王は聖女様をかなり溺愛しておりました。自分以外誰にも会わせず部屋に閉じ込めてしまうくらいに。
そのため、初代国王を介してしか聖女様のお言葉を聞くことが叶わず、今も聖女様が残された書物の解読に難航しているというわけなのです」
まさかの監禁だったとは。しかしこたつ好きの聖女様ならば監禁生活を満喫していた可能性もあるなとサラは推理する。
「数ある書物の中でこの本だけは一等特別なのです。これは聖女様の死後百年ほど経ってから王宮にある大樹の洞の中から発見されたもので、おそらく聖女様が初代国王の目を盗んで隠した物だろう、と。
初代国王は聖女様に関するすべての物・事柄を誰かと共有することを非常に嫌がりました。子どものような言い方をすれば聖女様を『独り占め』したがったのです。
ですから聖女様は初代国王の手にこの本が渡れば後世に引き継がれない可能性を考慮され、このような方法を取られたのでしょう」
「洞の中に…」
「はい。聖女様は『いつになるか分からないけれど、後の世に必ず聖女が現れる。彼女を絶対に探してほしい』と言って、我々に『貴女は聖女様ですか?』という不思議な響きの言葉を残されました。我々王族はこの言葉を理解する者が聖女様だからと親から聞かされて育つのですよ。
しかし困ったことに新たな聖女様を探し出すことができたとして、その後の指示を得ていなかった。
つまり今回サラ様が聖女様だと判明致しましたが、千年前の聖女様が何のために貴女様を探していたのかが分からないのです」
「……」
「ですが我々は千年前の聖女様の死後百年経ってから見つかったこの特別な本に、聖女様がサラ様を探していた理由が残されているはずだと考えています」
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