表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は何もおかしくないですよ!?〜虐げられた令嬢は世界で一番醜い辺境伯に恋をする〜  作者: ひなゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/100

69 ―――今生の始まり


 美琴は全身の痛みで覚醒した。


「うっ!?はぁ、はぁ、はぁっ」



 最初は歩道橋から落ちた痛みのせいで目覚めたのかと思ったが、なにかがおかしい。


 まず、泣いた記憶もないのに頬がビショビショに濡れている。


 美琴は「なぜ―――?」と思って涙を拭おうとしたその手が小さいことに気づいた瞬間、自分が置かれている状況を唐突に理解した。



 ―――そうだ、今の私の名前はサラ・ハルベリー。魔力がないせいで父親に悪魔だと疑われ、そしてよく分からない魔法をかけられたんだ……。



「……急に黙り込みやがって…なんだ、気持ち悪い!

 くそっ、悪魔は従属の誓約くらいでは苦しまないのか!?お前には死ぬことよりも苦しい地獄を見せてやりたいのに…!!」


「………」 


「なんだこのやばいおじさんは」と思ったところでこれが今生の父親だったと気がついた。

 美琴はつくづく親には恵まれない人生だなぁと他人事のように思いながら、冷めた目で鬼畜なことを喚いている父親をチラ見する。


 美琴としての意識が浮上したのはおそらく誓約を掛けられた衝撃がきっかけだと思われるが、不思議なことにこれまでのサラとしての記憶もちゃんとある。

 もとから一人の人間として存在していたが誓約を掛けられたショックで美琴の精神が表に出たのか、それともサラが死んでしまったから美琴が憑依してしまったのかはもう知りようがない。


 しかしこうしてサラとして目覚めた以上、美琴に出来ることは今度こそ生を全うすることのみ。

 幸い、サラは三歳とはいえ賢い子どもだったようで、母親が最近亡くなってしまったことや、そして母親の死を自分のせいだと父親に責められていることをなんとなく理解していた。


 美琴は前世で母親を助けるふりをしてあわよくば死を望んだことを、今はとても後悔している。


 ウィリアムは何があっても一人で生きていけるようにと様々な知識を惜しみなく与えてくれたというのに、美琴はその想いを踏みにじってしまったのだ。


 与えられた知識はウィリアムからの深い愛。


 たとえ生きる世界や見た目が変わったとしても、美琴が美琴である限りこの愛は永遠に失われることはない。



 ―――今度こそ、おじいちゃんに恥じない生き方をしよう。



 サラは今世の父親がなんか喚いているのを他所に一人決意を固めた。



「くそ…っ、なぜ苦しまない?従属の誓約を掛けられた者は胸に鋭い痛みが生じるんじゃなかったのか!?」


「……誓約を売っていた闇の売人にはそのように聞きましたし、先ほどまでは確かに苦しんでいましたが急に冷静になったというか……。今もこちらを油断なく観察しているように見えませんか?」


「はっ、まさか。悪魔とはいえまだ三歳だ。気が触れたんだろう」


「まあ、確かに…。そうとも捉えられますが…」


 実際二人のやり取りを油断なく観察していたサラは慌てて苦しんでいるフリをして誤魔化す。


 父親と話している男は執事のマイケルだ。マイケルは母のアリサが実家から連れてきた、実の父のように慕っていた男であり、マイケルもアリサを孫のように溺愛していた。アリサが亡くなった時のマイケルの憔悴ぶりは見ていられないほどだった。


 それにしてもマイケルはサラやアリサの前では好々爺という印象を崩さなかったが、今はそんな面影など一切なく冷たい表情をしている。

 サラを悪魔だと思っているからこその態度なのかもしれないが、この印象だとこっちのマイケルの方が素の状態のように思える。



 ―――なるほどね…。マイケルがこの誓約を手に入れてきたのか。サラのことも可愛がっていたというのに手のひらを返すようにしてこんな犯罪行為に手を染めたのは、きっとアリサを殺したサラへの復讐。



 美琴の意識から言わせてもらえば「みんな馬鹿なんじゃないの?」という気持ちしかない。

 魔力のない子どもが生まれたからといって病んで儚くなってしまった母親も、すべてその子どものせいにして思考を止めた父親も、復讐に目がくらみまともな判断も下せない朦朧執事も、みんなみんな馬鹿だ。


 魔力がなければすなわち悪魔なのか。本当に他の例外はないのだろうか。

 少なくとも両親が必死に何かを調べていたという姿をサラは見ていない。きっと両親はサラに魔力がないと判断した時点ですべてを諦めたのだ。



 ―――まぁ、もうどうでもいいけど。それより二人は私のことを殺すつもりなのかな。この身体でどこまで戦えるかは分からないけれど、これで目を突けば隙が生まれて逃げられるかな?



 サラが閉じ込められているここはどうやら物置小屋のようで、周りには様々な物が乱雑に置かれている。

 その中で床に転がっていた万年筆を苦しんでいるふりをしてサッと取って懐に隠す。

 苦しんでいるふりというか、確かに何かが胸に刺さったような痛みは感じているのだが、もっと痛い経験をしてきた美琴にしてみれば全然我慢出来るレベルだった。

 なんなら、ウィリアムによる地獄のトレーニングで限界まで心臓が激しく鼓動を刻んだ時の方が痛かったような気がする。


 けれど美琴の意識が現れるまでのサラは違う。こんな場所に閉じ込められた挙げ句、大好きな父親と執事に誓約を掛けられた恐怖と痛さで涙を零していた。 



 ―――私が絶対に守るわ。必ず貴女(サラ)を幸せにしてみせる。



 美琴は自分の中に眠っているのか、それとも死んでしまったのか分からない「サラ」に向かって心の中で誓いを立てる。


 そうこうしている間に父とマイケルの間でサラの処遇が決まったようだった。



「―――では、この後は手筈通りにコレを森へと捨てて参ります」


「マイケル、頼む……。悪魔とはいえ顔だけはアリサとよく似たこいつを直接手にかけることなど俺には出来ない…。森の奥へと捨てればまだ何も出来ぬ幼児だ、三日と保たずに勝手に死んでくれるだろう」


「お任せ下さい」


 そう言うとマイケルは床に蹲っているサラを掴み、手にしていた麻の大きな袋に乱暴に詰めた。

 一切抵抗をしないサラの様子に、マイケルはやはり誓約でダメージを負っているのだと判断する。


「では行って参ります」



 どうやらマイケルがサラを森まで運ぶようだ。


 貴族とはいえ犯罪を犯せばそれなりの処罰は下される。当事者的には悪魔を葬ろうとしているだけなのだが、対外的には自分の子どもを森へと捨てる犯罪者に見えてしまうため、信頼のおける者にしかこのようなことは頼めない。


 なんにせよ、事態はサラにとって都合よくまわっている。森に捨てると聞いた時はひそかにテンションが上がったくらいだ。

 途中で気が変わったマイケルに殺されそうになったとしても、鍛えてもいない六十代の男一人くらいならば生死を問わなければいくらでも制圧出来る。

 

 今後についてある程度の道筋をたてたサラは、マイケルが御者を務める馬車に乗せられ森へと運ばれるうちにいつの間にか眠りについていた。









 地面に袋ごとドサッと落とされたことでサラはようやく目覚めた。


 どうやらサラを痛めつけてやろうと乱暴に投げたわけではなく、森の奥までサラを抱えながらやって来たことで満身創痍となったマイケルが麻袋を取り落としてしまったようだと、彼の荒い息づかいから判断する。

 起こしてくれれば自分で歩いたのにと思いながら袋の中でモゾモゾしていると急に袋の口が開けられ、サラの無事を確認してホッとした様子のマイケルと目が合った。すぐに無表情に戻っていたが。



「はぁ、はぁ……、……出なさい。ここがお前の死に場所です」


 促されるまま袋から這い出したサラの目の前には小さな古ぼけた小屋が。


「えっ……まさか………」


「…っ、こんなボロ屋でも雨風くらいは凌げるでしょう。ここで死ぬまで大人しく―――」


「えー!こんな立派な家に住んでもいいの!?最高じゃない!!」


「っ!?」  


 サラに言わせてみればしっかりした造りの小屋生活はサバイバルとは呼ばない。簡易テントで嵐をやり過ごすことや吹雪の中寝袋で一夜を明かすことを思えば、こんなのただのお引っ越しではないか。


「余裕が出来たら内装にもこだわりたいなぁ」と思いながら目を輝かせて小屋へと走り寄るサラは、すっかりマイケルのことなど忘れている。


「サラ、様……?」


「あ、マイケルまだいたの?もう帰れば?さようなら」


 サラはにっこり笑って小屋の扉を閉めようとする。


「ま…、待てっ!!やはり悪魔の本性を現したな…!

 サラ様ならば私に決してそんなことは言わない!!サラお嬢様をどうしたんだ!!」


「は?なに言ってんの?子どもの身体に負担のかかる誓約なんか施して“サラ”を殺したのはあんたらでしょーが」


「…っ!!」


 マイケルは片手で口元を覆うと青褪めた顔でヨロヨロと後ずさる。


 アリサが亡くなった悲しみを怒りに変えてサラにぶつけたのは紛れもない事実。「悪魔だから何をしても構わない」という免罪符を手に入れてからは扱いがぞんざいになった。

 そして悪魔の血を引いているくせにアリサにどんどん似てくるサラを見ているのが辛くなってきて、従属の誓約を掛けて森に捨てようと子爵に提案したのもマイケルだった。

 


「私、が………サラお嬢様を、殺した……………?」


「……ふふふ、冗談だよ。私はサラ。その証拠にマイケルとの思い出だってちゃんと覚えてるよ。

 『重たくなってきましたねぇ』って言いながらもせがめば抱っこしてくれたことも、苦手なお野菜をお母様に内緒でこっそり食べてくれたことも」


「…っ」


「私が熱を出した時につきっきりで看病してくれたことも、『サラお嬢様は私の宝物です』って言って頭を撫でてくれたこともちゃんと全部覚えてる」


「うっ……、」


「でもこれからの私にはこんな記憶もういらない。感傷に浸っている暇なんかないのだから。

 お父様と貴方には悪いけど、私は絶対に生きてみせる」



 マイケルは膝をついて涙を流しているがサラにはそれがどういう想いが込められた涙なのか興味がない。


 たとえそれが『後悔』の涙だったとしても、もうなにもかも手遅れなのだから。




 今度こそサラは小屋の扉をバタンと閉めた。


お読み頂きありがとうございます! どのような評価でも構いませんので☆☆☆☆☆からポイントを入れて下さると作者が喜びます!! よろしくお願い致します(人•͈ᴗ•͈)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
わーこれは、辺境伯の復讐がコワイわーw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ