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62 前世解説


「―――だぶるふりん……」


「ふふっ、辺境伯様が言うと非道徳的単語も甘いお菓子のように可愛く聞こえてくるから不思議ですね!

 ダブル不倫というのは夫婦の双方が不倫しているケースを指します。愛人がいるのは腐った父親だけだと思っていたら母も若い男に入れ込んでいたみたいで」


「なんだと…?」


 アーサーはサラに説明を受けながら、なにやら憤慨した表情を浮かべている。



 異世界の物や仕組みについて丁寧に教えてあげると、アーサーは子どものように興味を示したり驚いたりしてくれるので、サラはそんなアーサーの反応をみるのが段々面白くなってきていた。


 たとえばネットスーパーというのは既存のスーパーマーケットなどがインターネットで注文を受け付けて個人宅まで注文商品を即日配達する宅配サービスのことだと説明すると、まず「すーぱーまーけっと?いんたーねっと?」と首を傾げる。

 スーパーマーケットとは食料品や日用品等を販売する小売業態、ここでいう市場のことで、インターネットとは世界中の情報機器を繋ぐ巨大なネットワークのことだと図も交えて説明すると、ネットのくだりで絶対によく分かっていないだろうなという反応を見せながらも「なるほど」と頷いてくれるのだった。

 話は全然進まなかったが、こうして穏やかに前世のことを話せる相手と出会えるなんて思ってもみなかったサラにとって、前世ごと受け止めようとしてくれるアーサーはただただ愛しい。


 サラはアーサーの膝の上に座ってニコニコとその顔を見上げているが、アーサーはダブル不倫に納得がいかないようでサラに疑問を呈してくる。


「なぜ愛する者と婚姻を結んでおきながら双方が愛人を?サラの前世の両親に失礼な物言いになるかもしれないがよほどの好色家だったのか?」


「あはは!間違ってはいませんが前世ではわりとよくある話でしたよ。この世界でも愛人を作っている貴族なんて普通にいるのでは?」


「そうなのだろうか…。俺は他の貴族と接する機会がほとんどないから、愛人を作ることが一般的なのかどうかは分からないな」


 アーサーはたとえ愛人を作ることが世の貴族達にとって一般的だったとしても、自分にはとても無理だと思った。顔が醜いからという理由ではなく、心から愛する者が側にいてくれるのに他の者に触れたいと思う者の気持ちが分からないのだ。


 アーサーの誠実さはちゃんと伝わっているが、少しからかってみたくなったサラは冗談めかしてわざと怖い顔をつくって詰め寄る。


「ふふっ。辺境伯様は絶対に浮気なんてしないで下さいね?もし愛人を作ったら機嫌の悪い猫みたいにシャーッ!って爪をたてて顔中引っ掻きますから」


 こう言えばアーサーならば「浮気なんか絶対にしない」ときっぱり否定して、あわよくば「俺にはサラだけだ」とかなんとか、甘い言葉を囁いてくれるのでは?という期待があったのだが、実際のアーサーはサラの予想を斜め上に突き抜け撃沈させた。



「浮気などあり得ない。もとから俺を見て顔を歪める女に興味はなかったが、サラと出会ってからは他の女はトロールと遜色なく目に映るようになった。高魔力者ならば蔑んでも構わないという醜悪な心が反映されているからそう見えるのかもしれないな。

 サラは初めて出会った時から澄んだ水色の瞳で俺をまっすぐ見てくれた。

 あの日からサラは俺の女神であり、大事な女神の顔を曇らせるような真似をするわけがない」


「ぅえっ!!?ででで、でもっ、それは私には最初から辺境伯様が格好良く見えていたからであって…!決して女神などではっ…」


「だが、たとえサラが“真実の眼”を持っておらず、高魔力者が醜く見えていたとしてもあからさまに差別し見下すような態度は取らなかったはずだ。―――サラは人の痛みが分かる優しい子だから」


「はぅぅ…!!そんないい笑顔でそんな嬉しいお言葉を…!!た、たしかに顔の美醜で態度を変えることはありません。が…、こんな風に言えるのはやっぱり“真実の眼”があるからなので、自分の心が綺麗みたいな言い方はちょっとズルい気もするような……?」


 格好いい人を見て「格好いい」と思うことはあっても、そうじゃない人を見て「気持ち悪い」とか「近寄りたくない」とか思ったことは前世を含めて一度もない。

 しかし、だからサラの心は高魔力者を醜いと言う人達よりも綺麗なんだと言われても、それはそれで少し違う気もする。

 なぜならサラは高魔力者の人達が実際どれほど醜く見えているのか知らないからだ。もしもスプラッタ系のホラー顔に見えるならば、絶対に心の中で「ひぃぃ〜〜〜!!!?」と叫んでいる。



「サラはよく自分のことを悪く言うが、俺はそうは思わない。……サラがそう思い込んでしまう原因は前世の記憶にあるのか?」


「………そうですね。私はずっと両親の不幸を願うような暗黒の少女時代を過ごしていたので、自分のことを辺境伯様が仰って下さるように、心の綺麗な人間だと思えないのかもしれません……」


「そうか…」


「私はあの人達のことが大嫌いだった。『仲のいい家族』を演じるためだけに私のことを利用して、出演料とばかりにお金だけ置いて家じゃない別の場所へとそれぞれ帰って行くの。何度こいつらの化けの皮が剥がれればいいのにと思ったことか。

 ……まあ、週刊誌が両親のスキャンダルをすっぱ抜いてくれたおかげで、これまで妄想していた以上の地獄を二人に味あわせることが出来たんですけどね」


「だぶるふりんだな」


「はい。週刊誌の第一弾が『理想の夫婦の真実!ダブル不倫発覚で崩壊したシナリオ!!』、第二弾が『良妻賢母は偽りの仮面だった!?数人のホストと泥沼金銭トラブル』、第三弾で『事実婚状態の女性が三人も〜誠実な実業家の裏本性!!』という見出しの記事が出て、母は発狂してました」 


 あの時の母の顔は見ものだったなぁとサラの顔に満面の笑みが溢れる。


「記事が出てサラの両親はどうなったんだ?さすがに改心したのだろうか」


「ふふっ、まさか!記事が出てからはずっとマスコミに追いかけ回されて、さすがにホスト通いも出来ない母は家に閉じ籠もりました。そんな状態が数週間続いたある時―――」









「―――そうだわ………。美琴がいるじゃない」



 スキャンダルが報じられからて約二カ月―――母のマリアはずっと家に閉じ籠もってはテレビもつけずにリビングで酒を飲んでいたのだが、急に天啓が降りたかのように呟くと、フラフラとテーブルに手をつき立ち上がった。


「…、は?なに?」


 美琴だって週刊誌が出てからはマスコミにコメントを求められ追い回されるので、学校どころか外にも出れなくなってしまった。

 虚ろな目でブツブツ言いながら酒を飲む母親と同じ空間にいるのが嫌で自室で勉強していたのだが、リビングに飲み物を取りに来たタイミングでマリアに声を掛けられた。


「ね、美琴!ちょっとマスコミの取材を受けなさいよ。そこで涙の一つでも流して『ママはそんな人じゃありません!』って訴えれば世間の目だって変わるはずよ!!」


「……何言ってんの。そんなことやるわけないでしょ。ただでさえモラルのない両親のせいで迷惑してるっていうのに、これ以上くだらないことに私を巻き込まないで!!」


 美琴は「話を聞いた私が馬鹿だった」と踵を返すと水の入ったグラスを片手に部屋へと戻る。



 そのため、マリアが狂気を孕んだ目でこちらを見ていることにまったく気づかなかった。



「………ううん。涙なんかじゃまだまだインパクトが弱いわ……。美琴に自殺未遂でもしてもらってマスコミの非道を訴えなきゃ私の名誉は取り戻せない……!!」

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― 新着の感想 ―
物質的には豊かなのに本当に酷い前世だなあ… そりゃ他人も寄せ付けなくなりますわ 今世はイザベラさんと出会えて良かった
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