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54 魔王? 聖女?


「あぁ……!やはり貴女は聖女様だ…!!」 


「いえ、本当に違います」


 ついさっきも似たようなやり取りを悪魔と交わしたような気もするが、その内容は真逆というか対極というか、なぜ“魔王”と“聖女”という似ても似つかない二つの存在の可能性を同時に示唆されてしまったのか。


「サラ……先ほどノエル殿下は何と仰ったんだ?」


「え?『貴女は聖女ですか』、と。ですから違うとお答えしましたが…」


「………聖女に関する情報は王家がすべて管理している。今の言葉も王家に伝わる秘匿された言語か…!」


「え……?…あっ!」


 アーサーに言われて初めて気付いたが、ノエルが口にした言葉は少し辿々しかったが―――()()()だ。

 日本語を聞いたのは実に十六年ぶりだったが生まれ育った国の言葉はそう簡単に忘れない。

 そのため、違和感を覚える前にノエルの言葉に返事をしてしまったがここは日本など存在しない世界であり、サラが日本語を理解していることは対外的に見ておかしいのだ。



 ―――やっぱり、この国にいた聖女様は日本人だ…!



 サラは肖像画や祀られているものを見て聖女が転移者であると薄々察してはいたのだが、まさかノエルに日本語で話し掛けられると思っておらず油断した。



「聖女様が使われるお言葉は難解過ぎて我らに扱うことは叶いませんでしたが、『貴女は聖女様ですか?』―――この発音だけは絶対に忘れてはならぬと王家に生まれた人間に代々口頭で受け継がれて参りました」


「ノエル殿下!?た、立って下さい!!」


 ノエルは跪くと熱に浮かされたような眼差しでサラを一心に見つめた。


 セインもサラが『聖女の言葉』を理解したことに驚きはしたが、そもそもサラには魔王疑惑がある。

 いや、悪魔や魔物の様子からして疑惑ではなくほぼ魔王であると確信していたので、そのため「悪魔を束ねる魔王と王家が追い求め続けた聖女が同一であるはずがない」という考えのもと、先ほどサラが『聖女の言葉』を理解出来たのはたまたまであると結論づけた。



「口頭伝承によって千年引き継がれた先ほどの言葉は聖女様を探すためのもの。

 返答の内容は関係ありません。聖女様が遺した言語を理解出来たという事実だけが真実なのですから」


「いえ、それは聖女様が日本人だったからであって……私が聖女だから理解出来たわけではなくてですね……?」


「!?にほんじんとは何ですか!?もしかして貴女は聖女様が書き記した書物を読むことが出来るのですか!?

 聖女様を溺愛しその存在を他に知られる事を良しとしなかった初代国王のせいで、聖女様に関するほとんどのことはいまだ謎に包まれたままなのです!!

 我々が知るのは聖女様に魔法ではない特別な御力があったことと―――」


「ノエル!?それ以上は言うな!!王家の重要機密だぞ!?」


 どうやらノエルは王家の秘密をしがない一般人であるサラがいる場でポロッと漏らそうとしたようだ。そんな恐ろしい秘密は知りたくないので本当にやめてほしいと切実に思う。


「分かってるよ、兄さん!でもこの御方は新たな聖女様なのだから隠し立てする必要なんかないだろ!?」


「お前が聖女様の歴史を専攻していることは知っているがこれほど聖女様に傾倒していたとは……!

 そもそも、夫人が聖女様であると確定するにはまだ早い。それに夫人には魔王―――」


「夫人だって!?聖女様はすでにご結婚されているの!?だったらすぐに別れて頂かなくては!聖女様には何がなんでも王家に嫁い」


「馬鹿!!死にたいのか!?夫人はアーサーの奥方だぞ!?」


「えぇ!!?」


「―――御二方」


「「っ!」」


 アーサーの冷たい声が物理的に心身を冷やしたことで二人の兄弟はハッと我に返る。

 特にノエルはいわばアーサーの妻に手を出そうとしたわけであって、自分の発言を振り返っては「あ、死んだ……」と蒼白となっている。



「当事者である()()を抜きにして勝手に盛り上がるのはやめて頂こう。

 サラは魔王でも聖女でもありません。万が一そのどちらかだったとしても未来永劫、私の妻であることに変わりはないのだからこんなくだらない論争に意味はない」


 顔を見ていなくても気分が悪くなるような濃い魔力が漂ってくる中、それでもノエルは怯えながらも諦めることなくアーサーに食い下がる。


「辺境伯っ…!!えっと、聖女様のことは今は諦めるから、話だけでもさせてもらえないだろうか!?」


「―――今は?」


「うっ………、わ、分かった、聖女様を王家に迎え入れることはちゃんと諦める!だからお願い!!ちょっとだけ聖女様と話をさせて!!」


「…」


 ノエルやネメルとも多少親交のあるアーサーは彼らが高魔力者を差別しない善良な人柄であることを知っている。ノエルがこれほど聖女に執心だとは知らなかったが。

 よって、サラを奪おうとしないのであれば話くらいさせてやってもいいかと譲歩出来るくらいには信用もしていた。それに魔王や聖女について王家が握る情報を得ることはサラにとっても悪い話ではないはずだ。 

 しかしまずはサラの意見を尊重すべく、アーサーは自身の腕の中にいるサラに問い掛けた。


「……サラ、どうする?」


「私は……話くらいなら大丈夫です。どうせならこの機会に私は魔王でも聖女様でもないと証明してみせますよ!!」


「いや、サラはあまり張り切らない方が……」


「辺境伯様、お任せ下さい!!憂いを絶って堂々とグラハドールに帰りましょう!!」


「そ、そうだな…」



 アーサーは拳を握りやる気を見せているサラになんとなく嫌な予感がしたのだが、もちろん『フラグ』などという言葉は知らない。






***


 聖女の謎を解き明かすためにも廟堂で話すのがいいだろうと、四人は今廟堂内の隅に積まれた椅子を人数分持ってきてそれぞれ腰掛けている。儀式の時には大勢の人が訪れるからか、体育館に置いてあるパイプ椅子並の数の椅子が常設されていた。

 ちなみに、人数分の椅子と言ったが正しくはサラは椅子に腰かけたアーサーの膝の上に座らされている。

 尊き王族を前にしてなんの羞恥プレイなのかと非常に居た堪れなかったが、そんなサラの心境をよそにノエルの生き生きとした声が廟堂に響き渡る。


「では聖女様!さっそくお話を伺いたく存じます!」


「あの、私は本当に聖女様ではないので普通に話して頂きたいのですが……それにしても聖女様とは王族の方がそこまで敬うような存在なのですか?」


 話を聞きたいと言われているが、サラは気になっていることをどうしても先に確認しておきたかった。

 なんとなくのイメージで聖女とは癒しの力などを持つ特別な乙女ではあるが、王族よりも下、もしくは対等くらいの立ち位置だと思っていたのだがノエルの様子を見るに、その地位はずっと高そうに思える。

 サラが聖女であると勘違いしてからのノエルはずっと敬語を使っているし、なんなら跪きたがっている。


 魔法がこれほど発達した世界における聖女の“価値”とは一体何なのか。その部分が分かれば自分は聖女ではないと説明しやすくなる。

 サラにはこの世界に益を齎すような力など何もないのだから。



「それは勿論ですよ!聖女様が我々にお与えになられた―――」


「おい、ノエル。だから王家の機密だと言っているだろう」


 セインはすぐになんでもかんでも機密情報を漏らそうとするノエルを制止する。サラが本当に聖女であるならば魔王誕生よりよほど目出度いことではあるが、セインはサラが聖女ではないと、ある理由から確信を持っていた。


「はぁ…。機密に一部触れてしまうが、夫人が聖女様かどうか確認する簡単な方法がある。それはこれに触れることだよ」

 

 セインが懐に手を入れ取り出したのは手のひらサイズの薄い板だ。よく見ると片面が液晶パネルのようになっていて、見た目はサラがよく知るスマホそのもの。


「……通信魔道具で何を調べようというのです?」


 アーサーは嫌な予感がして、「まさか」という思いでセインの真意を問う。


「なに、簡単なことだ。夫人がこの魔道具に触れて起動することが出来れば聖女様ではないと証明出来る」


「っ!」


「これは王家しか知らない秘密だから絶対に他言は無用だが、聖女様は特別な御力が使える代わりに―――魔力を一切持っておられなかった」


「「!!?」」


 アーサーとサラはバッと顔を見合わせ、聖女のまさかの真実に冷や汗を流す。

 魔力がない―――この一点に関して言えばサラは聖女の特徴に当て嵌まってしまうが、しかし魔力を持たない存在は他にもいるはずだ。


「ででで、ですがっ、魔力がないのは悪魔も同じことでは!?なぜ聖女様を悪魔だと疑わなかったのですか?」


 動揺しまくっているサラの問い掛けに、聖女と悪魔を同一にされたからか、セインは少しムッとした様子でその違いを力説する。


「聖女様は魔法でも魔術でもない偉大な御力を使うことが出来たと言われているんだ。王家に遺された書物には植物を自由自在に生やすことが出来たとか、すべてを見透す“真実の眼”を持っていたと記されている」


「え………」


「兄さんだって機密をベラベラ喋っているじゃないか」


「夫人が聖女かどうか確認するのに必要なことだ。それに一番重要なことはさすがに言わないよ」


 セインとノエルの言い合いがサラの耳を右から左へと通り抜けていくが、最初の言葉を聞いて以降なにも考えられなくなる。



 ―――“真実の眼”



 鑑定だと思っていたあの力は実はそうではなく、すべてを見透かす瞳のおかげだったのでは。


 サラはこの時初めて「もしかしたら自分は本当に聖女なのかもしれない」と思った。

お読み頂きありがとうございます! どのような評価でも構いませんので☆☆☆☆☆からポイントを入れて下さると作者が喜びます!! よろしくお願い致します(人•͈ᴗ•͈)

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