48 まったく隠し切れてない気持ち
翌日の朝早く王宮へと向かい、またしても敏腕侍女達にドレスアップしてもらったサラは、セインとアーサーの間で小難しい会話が交わされる商談に置き物よろしく参加させてもらっていた。
なぜこうなったかというと「ヴァン様と屋敷でお留守してますよ」と一応言ってみたのだがアーサーに秒で却下されてしまったからだ。
もはやサラは魔法大戦争を引き起こす可能性のある危険なトリガーであり、誰よりも強いアーサーの側にいて守られていることがこの世界の平和に繋がると言っても過言ではない。
護衛を任されていたヴァンも「奥様の護衛は俺には荷が重すぎます」と即答したため今回アーサーに同行する運びとなった。
ちなみに本日身に纏っている薄いピンク色のオフショルダードレスもアーサーからの贈り物だ。王都に行くと決まってから王家御用達の店にサラのためのドレスを何着か注文してくれていたようで、朝の早い時間にも関わらず直接王宮に届けてもらった。
時間がなく既製品を手直ししただけのドレスにアーサーは不満そうな顔をしていたが、王家御用達の看板を掲げる王都一の老舗店に一週間前という直近にドレスの注文を入れて何着も用意させてしまうアーサーの財力と権力にサラは心底ビビっている。
「あれ?今日は夫人も一緒なの?女の子にはつまらないんじゃないかなぁ〜。
そういえば昨日は大丈夫だったの?話の途中で急に血相を変えたかと思えば『商談は日を改めさせて下さい!』だけ言って消え去るもんだから驚いたよー」
なんでもないことのように言われたセインの言葉にサラはサーッと青褪める。
よくよく考えてみれば、軽い気持ちで抜いてしまったナイフが王太子殿下と辺境伯閣下の重要な会談を中断させてしまったことになるのだ。
「昨日は私のせいで大事な話し合いを中断させてしまい申し訳ございませんでした…!!」
サラは勢いよく立ちあがると腰を九十度に折り曲げ謝罪する。貴族女性としては元気過ぎてアウトな謝罪かもしれないが、やはり咄嗟の時に出てくるのはこういう仕草だ。
「別にサラのせいではないだろう?」
「ですが……」
隣に座っていたアーサーはサラの手をそっと握ると慰めの言葉を口にし、サラもまた甘えるようにもう片方の手を彼の大きな手に添えて握り返す。
急に出来上がった二人だけの世界にセインが訝しげな視線を送りながら尤もな疑問を口にする。
「ねぇ……。なんかちょっといい雰囲気過ぎない?」
「「っ!!」」
「こんな言い方もどうかと思うけどよくアーサーと手を握り合えるよね?夫人はアーサーが恐ろしくないの?
………そういえば最初の顔合わせでもアーサーの顔を見たというのに生き残っていたし―――」
「ももも勿論皆様と同じように恐ろしく思っておりますとも!!!ですが…辺境伯様はそれ以上にお優しいのです。彼の内面の美しさに気づけたおかげで以前よりは恐怖心が半減したといいますか…」
サラが高魔力者の顔を認識しているとバレるような行動は取らないようにしようと、今朝アーサーと話し合ったばかりだというのに早速セインに怪しまれてしまった。
アーサーの手をパッと離したサラはセインの疑惑を払拭すべく、吃りながらも慣れない嘘をついて力説する。「恐ろしい」と口にしたこと以外は本心なので説得力はあったと信じたい。
「へぇ〜。夫人は見た目よりも中身を尊重出来る心の美しい人なんだね。
口先だけの綺麗事を並べる女性は星の数ほど見てきたけれど夫人のような女性は初めてだよ。アーサーは本当に得難い人を妻に出来たってわけか」
「い、いえ……、そんな……」
欲望に塗れてまくって薄汚れた心を持つ自覚のあるサラは、あまりにも見当外れなセインの言葉に歯切れ悪く返事を返す。
アーサーの人柄にも惹かれているがサラの好みどストライクな顔だってもちろん大好きであり、セインの言う美しい心とは程遠い。
サラの返事を謙遜と受け取ったセインは一人満足そうに頷くとさっそく本題に入ることにした。
「さて、夫人も同席するというのならつまらない話はさっさと終わらせてしまおうか!
昨日の話の続きだけど魔物のしおこうじ漬け肉は王家主体で売り出すということでいいかな?」
「はい」
サラはもちろん二人の話し合いに口を出すような真似はしないが、グラハドールの特産にすると言っていた魔物肉のしおこうじ漬けを王家主体で販売すると聞いて驚き、アーサーの方をちらりと窺い見てしまう。
するとサラの視線に気付いたアーサーが丁寧に補足してくれた。
「これから魔物肉のしおこうじ漬けの需要はどんどん高まるだろう。生産はグラハドールでしか出来ないとして、我々にはアルセリアの防衛を担うという重要な任務があるため販売にまで手が回らないというのが正直な現状だ」
「確かに…今の騎士様達はお肉屋さんに鞍替えしたのかと勘違いするほど、昼夜交代制で塩麹肉を仕込んでいってますものね…」
領内からの注文を捌くだけでもジャック達が鬼気迫った様子で塩麹の管理をして魔物肉を捌きまくっているのだから、それが王国全体となれば販売にまで手が回らないというのも頷ける。
「販売を王家に委託することで余分な労力や手間の削減が出来るし、その幅広いツテを頼れば販売ルートを拡大することも可能だ。そして王家には『魔物肉のしおこうじ漬け』の名前を使用することの対価としてグラハドールにロイヤルティを支払ってもらう」
「なるほど。『魔物肉の塩麹漬け』の権利はグラハドールにあるということですね」
「そうだ。サラは賢いな」
「えっ、そんな…えへへ」
「ちょっと、所構わず二人の世界を作り上げるのはやめてくれる?」
セインが呆れたように指摘してきたことでサラはまたしても我に返る。気を抜くとすぐにアーサーのことしか見えなくなってしまうのはサラの悪い癖だ。
「アーサーは騎士としてだけじゃなく領主としても本当に優秀だよねぇ。こっちはさぁ、ちょーっとおこぼれに預かろうとしただけなのにがっつり働かせるだけじゃなくライセンス料までしっかり徴収するんだから。しかも王家相手に!」
「当然でしょう。絶対に儲かると踏んで横から甘い汁だけを吸おうと目論む相手に遠慮なんてするわけがない。
これからは良きパートナーとして、売上や利益の最大化を目指して高位貴族達への根回しや他国へのアプローチ方法のリサーチなどしっかりと励んで下さいね」
「はいはい、分かってるよ。本当に君は容赦がないなぁ」
セインは頭を掻きながらボヤいているが、アーサーの知らなかった一面にサラはまたしても目をハートにしてポーッとしてしまう。
失礼ながら筋肉を極限まで育て上げている人はそれ以外の部分が疎かになっているイメージがあったが(偏見)、やり手実業家のような手腕を発揮するアーサーにひたすら脱帽するばかりだ。
肉体を鍛えるトレーニングの時間を確実に確保しながらも、領主としての勉強も怠らない完璧な旦那様が素敵過ぎてしんどい。
サラが一人でキュンキュンして苦しくなっている間に事業に関わる人間の選定や利益の分配率、魔物肉を販売するにあたり想定されるイレギュラーの対応策などについての話し合いがサクサクと進む。
「―――さて、これで大まかなことは決められたかな。
昨日夫人は結局王都観光出来ていないんでしょう?まだ時間は早いしせっかくなんだから二人でどこかに行って来たら?」
「!!」
突如訪れた夢の王都観光のチャンスにサラは目を輝かせた。
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