47 チャンス到来
アーサーはサラの危機(?)に気づくとセインとの商談を途中で切り上げ王宮を飛び出してしまったらしいので、明日また王宮に行って商談の仕切り直しをすることになったようだ。
なので予定にはなかったが今日は王都にあるアーサーの屋敷に一泊して、翌朝早く出発するという。
急なお泊りにも素早く対応してくれた人型魔道具達のおかげで美味しい食事にありつけ卒無くお風呂も済ませたアーサーとサラの二人は今、グラハドールの寝室にあるものより一回り小さいベッドを前に立ち尽くしている。
いや、立ち尽くしているのはアーサーだけでサラはここでも一緒に眠る気満々だった。
「辺境伯様、そろそろ寝ましょうか!」
「そう、だな…」
そう言ってサラがアーサーの顔を見つめるも、フイッと視線を逸らされてしまう。
食事のあたりから違和感には気付いていたが、どうやらアーサーはサラと視線が合うことを避けているようだった。
「辺境伯様??」
アーサーとてサラが不思議そうな顔でこちらを見ていることには気付いているのだが、今まで普通に出来ていたことが出来ずにひたすら困惑していた。
「いや……。サラには俺の顔が認識出来ているのだなと思ったら……急にどんな顔をすればいいのか分からなくなってだな…」
「えっ?どういうことですか?」
「俺は……どうせ誰にも認識されないのだからと自分の顔に頓着したことがないんだ。習慣としてヒゲくらいは剃るが特別手入れなどはしたことがないからきっと…俺の顔は汚いだろう?
世の中人達はこんな恥ずかしいものを晒して生きているのかと思えば尊敬の念すら芽生えてくる」
「いやいや、別に顔面は恥部ではありませんからね!?」
どうやらアーサーはサラに顔を正しく認識されているという事実に、じわじわと羞恥心を抱くようになってしまったようだ。
例えば普段からバッチリメイクで盛りに盛っている人が、近所のコンビニにすっぴんで出掛けてばったり知り合いに遭遇してしまったような感覚だろうか。少し違う気もするが。
だがその心配は本当にいらない無駄な杞憂だ。
「辺境伯様。一切のお手入れもなしにシミ一つないきめ細やかな美しい肌を装備しておきながらご自分の顔を恥ずかしいもの扱いするなんて、美に執着する世の女性達からどえらい反感を買いますよ!!」
「そ、そうなのか……?すまない」
サラに迫力のある真顔で諭されたアーサーはとりあえず謝罪するが、この感情だけはどうしても拭うことが出来なかった。
「だが…。鏡に映る姿すら『これは自分の願望が見せた幻ではないのか』と…信じられなくなる時がある」
「辺境伯様…」
「鏡に映る俺は普通の顔をして立っているのに、本当は周りの人間が言うように目を背けたくなるほどの醜い容姿をしているのでは、と」
アーサーの言いたいことはサラも何となく理解出来る。いくら鏡に映る自分を見て「自分は醜くない」と主張しても、周りに「お前は醜い」と呪いのように長年言われ続けたらやがて自分の目で見た自分を信じられなくなってしまうのではないか。
「辺境伯様……。仰ることは分かるのですが一つ訂正させて下さい」
「?」
「ご自分では普通の顔に見えるとおっしゃいましたが普通どころか顔面の美しさだけで人間国宝に認定されてもおかしくないほどのご尊顔です!」
「人間、国宝……?」
「つまりランクで言えばSSS、美のヒエラルキーが存在するのならば間違いなくトップに君臨するレベルです。下位にいる下々の人間が惨めになるのでご自分の顔を普通と評価するのは本当に止めて下さい。謙遜も過ぎればただの悪質な戯言ですよ!!」
「そう、か………。俺は…………………かっこいいのか……」
アーサーは長い葛藤の末、サラ以外の人に聞かれたら鼻で笑われそうな自惚れたセリフを人生で初めて口にする。
「はいっ!!私の旦那様は世界で一番かっこいいのです!!」
サラはアーサーを安心させるように力いっぱい頷き肯定する。
「すぐには自信なんて持てないと思います。だから私が毎日『貴方はかっこいい』のだと伝えます。
高い魔力のせいで周囲によって歪められてしまった自尊心を一緒に取り戻していきましょう」
アーサーは優しく微笑みながらどこまでも自分に寄り添おうとしてくれるサラを引き寄せ、ベッドに優しく横たえるとその身体を抱き締める。
「サラ…!ずっと、ずっと、俺の側にいてほしい…。
俺以外にも苦しんでいる高魔力者はグラハドールの城にも世界中にも大勢いるというのに、奇跡の存在であるサラを最初に出会ったという理由だけで一人独占しようとしている…。罪深い俺はいつか地獄に堕ちるだろう。だがそれでも構わない、サラを誰にも渡したくないんだ…!」
「ふふ…。私だってだれ彼構わず助けたいわけではないのですよ。私が傷ついたその心を癒してあげたいと思ったのは辺境伯様だけです。
そのせいで貴方が地獄へ堕ちるというのならば私も共に参りましょう」
「っ、サラ……!!」
二人はまるで一つになろうとするかのように隙間なくきつく抱き締め合う。
アーサーにしては珍しくサラの細い身体を気遣う余裕はないようで耳にかかる熱い吐息と力強い抱擁にサラはクラクラしてボーッとしてしまうが、頭の中の冷静な自分が語り掛けてきたことでハッと我に返る。
―――今って諸々のチャンスなんじゃないの!?
そう、今はかつてないほど好条件の揃った状況といえる。
外は良い感じに薄暗く、身を清め終えた男女(しかも夫婦!)が小さなベッドの上できつく抱き合い、ムードも何となく盛り上がっている上に片方はその気になりまくっている。これはアーサーと一線を越えるまたとないチャンスだ。
アーサーの顔を正しく認識出来るのはおそらく世界でサラ一人だけであり、本来であれば競争率が高すぎて結婚どころかお近づきにすらなれない高嶺の花でありながらライバルが存在しないという夢のような環境にいるとはいえ、この状況に胡座をかいて行動を起こさなければ奥手な彼との進展は望めないのだ。
―――ここは押して押して押しまくって辺境伯様にも私のことを好きになってもらわなくては…!幸い顔を認識してもらえるという理由で執着とも取れる感情を私に抱いて下さってるみたいだし、身体から始まる恋も全然アリなのでは…!?
身体から堕とすもなにもサラに対した性の知識はなかったが、一度決断してしまえはその後は早い。
まずは問答無用でアーサーの唇を奪い、なし崩しにそういう雰囲気に持っていこうと瞬時に算段をつける。
乙女で紳士なアーサーよりもよほど欲に塗れているサラは、毎晩一緒に寝ているというのに手を出せない(?)状況に欲求不満を募らせていた。
「よし!!やってやるぞぉ!!まずはチューだ!」とやる気を漲らせたサラは、アーサーの名を呼びながら顔を上げる。
「辺境伯さ、ま―――………」
顔を上げるといい感じにキスしやすい距離にアーサーの唇があるというのに、彼は規則正しい寝息を立てながらいつの間にか眠ってしまっていた。
幸せそうに口元がほころんでいる安らかな寝顔は、まるで母親の胸に抱かれた赤子のように穏やかだった。
「………」
これほど安心しきった顔で眠るアーサーを叩き起こしてまで事に及ぼうとするほどサラは落ちぶれていない。かろうじて。
ずっと孤独に生きて来たアーサーの心に出来た無数の傷がたった一つでも癒されたことでよく眠れるというのなら、サラがこの世界に生まれた意味があったというもの。
「……おやすみなさい、良い夢を」
サラは首を伸ばしてアーサーの頬にキスを落とすと、多少悶々とした欲求を抱えながらも大人しく眠りについた。
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