46 そうだったんですか!?
「―――と、まぁこんなわけで義母であるイザベラさんには大変お世話になっているのです」
アーサーに「マナーや文字はどのようにして学んだのか」と問われたサラは、場所を外から屋敷の中に移し、ハルベリーでの森生活やイザベラとの関係についてすべて話した。
ちなみにアーサーが馬車の扉をぶん投げて壊してしまった屋敷の壁は人型魔道具達がせっせと修復作業に勤しんでくれている。不気味な見た目すらちょっと可愛く思えてくる働き者達だ。
この場にはヴァンも同席しているため、内容はかなりぼやかして話している。従属の誓約を掛けられた本当の理由や三歳で森に捨てられた経緯については「サラが原因で最愛の妻が亡くなったことで父親の怒りを買ってしまったから」で押し通した。
しかしサラに魔力がないことを知っているアーサーは大まかな事情を理解し、子爵に対して抱いてしまった複雑な感情に顔を歪める。
子爵がサラにした仕打ちはいずれ命を持って償わせることに変わりはないが、最愛の妻が悪魔の子を産んでしまったとしたら、果たして自分も同じ行動を起こさないと言えるだろうかと考えてしまったのだ。
子爵の妻に起きた悲劇をサラに置き換えただけで冷静でいられなくなるほどの怒りが湧き上がるのだから、アーサーがもし子爵の立場だったら悪魔の子どもを殺していてもおかしくはない。
「イザベラさんは今でも半年に一回は会いに来てくれていて、次に会うのは三ヶ月後の予定ですが早めに連絡を入れておきたいのです」
「そうだな。ハルベリーの森にサラがいなければ義母上も心配されることだろう。グラハドールに戻ったらすぐに手紙を出そう」
「ありがとうございます!ただ…私と交流があったことを父に知られてイザベラさんの立場が悪くなっても困りますのでこっそり伝えてもらいたいのですが…」
「分かった。特定の人物の元に手紙を届ける魔法がある。安心してくれ」
「わぁ、魔法って本当に便利ですね〜!」
サラは終始笑顔で過去を語り、今も無邪気に転送魔法についてアーサーに尋ねているが、憤りを隠せないヴァンは握り締めた拳を震わせ立ち上がる。
「なぜっ!…っ、なぜ、そんな平気な顔をして理不尽な仕打ちを受け入れられるのですか…!?三歳の子どもが母親を殺したなんてあり得ない!例え関わっていたとしてもそんなのはしょせん様々ある要因の内の一つに過ぎないでしょう…!」
「そうですねぇ、確かにお前のせいだと責められても私にはどうすることも出来ない話でしたねぇ」
魔力を持たずして生まれたせいで母親が病んで死んでしまったと責められても、それは決して子どもであるサラのせいではないだろう。
「それならなぜ笑っていられるんだ…!俺なんかよりよっぽど酷い目に合っていながらどうして…!!」
「えっと、ヴァン様がこれまでに感じた苦しさや辛さはヴァン様だけのものであり、誰かと比べる必要はないと思います」
「っ、…」
「私…高魔力者の方が周りから醜くく見えていることを知らなかったとはいえ、簡単に親との縁を切ればいいなんて言ってしまいすみませんでした。どのような関係であったとしてもヴァン様が母親との繋がりを残したいと思う気持ちは今なら分かります」
高魔力者とはサラが思ってる以上に孤独に生きる存在であり、例え毒親であったとしても繋がっていたいと願う気持ちを勝手に否定してはいけなかったとサラは反省する。
「それを言うなら俺の方が奥様の境遇を知らずに勝手なことを言って八つ当たりして…。
それに奥様に言われたことは正しいんだ。金づる呼ばわりされても繋がりを持ち続ける価値はあの女にはない。奥様にとってのイザベラさんのように、俺にも大切な存在や仲間達がいるんだって…やっと踏ん切りがつきました」
「ヴァン様…」
少し湿っぽい空気が流れたがヴァンの表情はどこか晴れ晴れとしていたので、サラは両手をパンと合わせて殊更明るい声を出す。
「じゃあお互い『ごめんなさい』で仲直りしましょうか!」
「仲直り、ですか…?
ふっ、奥様と話してるとあれこれ悩むのが馬鹿らしくなってくるな…」
「それは褒め言葉なんですよね!?」
顔を合わせながら和やかに話す歳の近いサラとヴァンを横目で見ながら「結局こうなってしまうんだな…」とアーサーは溜め息を零す。
サラに好意を抱かない相手としてヴァンを護衛に選んだというのに、誰かと目を合わせながら話す機会などほとんどないに等しいヴァンは慣れない行為にとまどいながらも嬉しそうにはにかんだ笑顔を見せているではないか。
これは新たな「サラ信奉者」を…というかむしろ強力なライバルを生んでしまったのではないだろうかと、アーサーは恐々とする。
高魔力者の顔を認識出来るのならばサラにもヴァンの中性的で整った顔立ちが正しく見えているというわけで、つまり無理やり婚姻を結んだだけのアーサーではいつかサラの気持ちを繋ぎ止めることの出来ない未来が訪れるかもしれなかった。サラが他の男を好きになってしまうという、この世の地獄のような未来が―――。
先ほど「ずっと側にいる」という約束をくれたのは優しいサラのことだから、おそらく同情や婚姻を結んだ者として義務感からなのだろう。
だからもし、そんな地獄の未来がやって来たならば悪魔も裸足で逃げ出すほどの残虐さで相手の男の存在を抹消するだろうなと、サラに溺れきっている自覚のあるアーサーは自分のもしもの行動を正しく理解する。
「―――グラハドールの城にいる者全員が俺の敵となりうる可能性もあるな」
自分しかすべての高魔力者の顔を認識することが出来ないため、魔力と顔の造詣に関係性があるのか明らかにすることは難しいが、城に勤める高魔力者達はもれなく全員中々に整った顔立ちをしている。
特に魔力量の多いブラッドやジャックは美形を見慣れているアーサーから見ても、優秀な血を代々受け継いで今の美しさを維持している高位貴族達に勝るとも劣らない容姿をしていると感じるほどだ。
「え?グラハドールのお城がどうかしましたか?」
「いや…」
アーサーからポツリと零れた独り言はサラの耳にしっかり届いていたようで何のことかと問われるが、城にいる仲間がもし本気でサラに懸想した場合グラハドールから永久追放するつもりだと考えていたとはさすがに言えず言葉を濁す。
「ん…?ちょっと待って下さい。もしかして奥様ってグラハドール城にいるのが全員高魔力者だってことも知らないのでは?」
「!?」
「え!そうだったんですか!?あー……だからヴァン様は『化け物達の巣窟』なんて言ったんですね!」
「……これは話を色々と擦り合わせていく必要があるな」
「そうですね……」
この世界の常識ともいえる「グラハドール城には世界中から高魔力者が集う」という事実を知らなかったサラに、アーサーとヴァンは揃って脱力した。
この後サラは、高魔力者同士であっても互いの顔は醜く見えること、アーサーは魔力が桁違いなためすべての高魔力者の顔を認識出来ること、高魔力者の目を見てしまったら意識を失うほどの衝撃を受けることなどを二人から教えてもらった。
これまでうっすら疑問に思っていたことが一つ一つ解けていく心地がして目から鱗というか、かっこよくポーズを決めて「謎はすべて解けた!」と宣言したくなったほどだ。
「なるほどなるほど!これで今まで不思議に思っていたことが概ね解決しましたよ!!」
「むしろなんで今まで気づかなかったんだ…」
疲れたように話すヴァンの尤もな言い分は、ご機嫌な気分に水を差されたくなかったので都合良く聞かなかったことにした。
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