44 “娘”との出会い④
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子爵からサラの話を聞いたイザベラは一月丸々悩みに悩んだ末、ハルベリー領にあるサラが捨てられたという森まで一人でやって来ていた。
子爵には「悪魔とはいえまだ三歳だったサラが何をしたのか」と啖呵を切ったものの、悪魔がいたかもしれない森をいざ目の前にするとさすがのイザベラも足が竦んでしまう。
この一月イザベラは大いに悩み、そして葛藤した。
悪魔は問答無用で滅ぼさなければならない生き物であり、子爵の行動を間違っていると断ずることは出来なかった。むしろ殺さず森に捨て置いたことは慈悲とすら言えるのかもしれないとも思った。
きっとこのままサラの存在を忘れて生きることが正しいのだろう。
しかし七人の弟妹達を愛情深く育ててきたイザベラにとって、三歳で森に捨てられたという女の子の存在は憐れで可哀想でどうしても放っておけなかった。
今さら探したところですでに骨と化して痕跡すら見つからない可能性が高かったが、一人孤独に亡くなった女の子を弔うためにもせめて墓くらいは立ててあげたいと思ったのだ。
この一月の間、屋敷で働く者達の様子をそれとなく観察してみたのだが、おそらく誰もサラの存在を知らないのだろうという結論に至った。
三年前に行われた使用人達の一斉解雇はサラのことを知る人間を追い出すため。悪魔の存在が露呈すればハルベリー家はその時点で終わるのだから何をしても隠し通す必要があったのだろう。
今日ここに来たことだって十分危ない橋を渡る行為だ。そのためイザベラは誰にも行き先を告げずに森へとやって来た。一応メアリーには「一人で街に買い物に行く」と書き置きを残してはいるが、あまりのんびりは出来ない。
イザベラは森の中でも動きやすいパンツスタイルで、手には大きめのスコップと花束、そして女の子が好きそうな焼き菓子やリボンを持っている。
この森には滅多に魔物は現れないが野生動物は普通に生息しているので、護符型結界魔道具を購入して身に付けていた。
人目を忍ぶようにここまでやってきたのだがその様子が怪し過ぎて逆に人目を引いてしまい、悪魔との関わりがバレやしないかとハラハラヒヤヒヤしていたせいで体力的にはすでに疲れ果てていた。
しかし「罪のないサラを弔ってあげなければ」となんとか己を奮い立たせ、イザベラは森の中へと足を一歩踏み出した。
そして森に入って迷うこと一時間。イザベラは目の前の光景に疲労も忘れて立ち尽くす。
「あれぇ??こんなところまで入り込むなんて、お姉さん迷子ですかー?」
***
マイケル情報だったのでどこまで信用していいのか謎だったが、サラが捨てられた森には管理小屋があるという。
とりあえずそこを目指して歩いているのだが地図もなければ大体の方角すら分からなかった。
そこまで大きな森ではないのでまっすぐ進めば遭難する心配はなかったが、それでも一時間も彷徨えば足がパンパンになってしまう。
そしてイザベラが「もうお墓はここらへんでいいかな…」と妥協し始めた頃、急に拓けた場所に出たかと思えば、かつての管理小屋の前で真新しい服を来た五歳くらいの女の子が薪割りに励んでいる場面に遭遇したというわけだった。
「たまにいるんですよね〜、山菜採りに来て奥まで入り込んじゃう人が。近くの街まで案内してもいいですけど報酬は貰いますからね!そうですねぇ…、あっ、私その大きなスコップが欲しいです!!」
「お菓子も捨てがたいなぁ」とこちらまで走り寄って来ては無邪気にイザベラの持ち物を真剣に物色する女の子は、屋敷に飾られているアリサの肖像画にそっくりで血縁関係があることを窺わせる。
「あ、あの…貴女、は……」
「私はこの森の管理を任されている者の孫でサラと言います!ここはお貴族様所有の森なので勝手に入ると怒られちゃいますよっ。バレないうちに森から出て下さいね。さ、案内しましょう!」
どうやら報酬は前払い方式のようで、さりげなくイザベラからスコップを奪い取ったサラはそのまま歩き出そうとする。
「………ハッ!ちょ、ちょっと待って!!私は……、あ、貴女に会いに来たの!」
「えぇ??」
サラのことはとっくに亡くなっていると思っていたので「会いに来た」は語弊があるが、まさか「なんで生きてるの!?」なんて馬鹿正直に聞くわけにもいかないだろう。
「んんっ…。私はイザベラ・ハルベリー。…………ケリー・ハルベリー子爵の妻です。……つまり、貴女の義母ということになるわ」
イザベラは何も知らない六歳の女の子に父親が再婚した旨を伝えることを躊躇したが「この事を言わなければ話は進まない」と心を鬼にして残酷な自己紹介をする。
「ケリー・ハルベリー子爵……?ああ、お父様のことですね!」
「…っ!!」
イザベラの心境を他所に、当の本人は父親の名前に馴染みが薄いのかすぐには思い出せなかったようで、そのことがまたイザベラの胸をひどく締め付ける。
「ふーん。じゃあイザベラさんとお呼びしてもいいですか?」
「えっ…、えぇ…」
「イザベラさんは私のことを何かの拍子で知ってしまい、父を問い詰めすべてを知った上で私に会うためこの森にやって来たということで合ってます?」
「っ!…合ってるわ……」
「ですよねー。あの人が私のことを自ら誰かに話すわけがないですし。でもイザベラさんにバレちゃうなんてちょっと詰めが甘いと思いませんか?隠すなら隠すで徹底的にやってくれないとこっちの身も危ないっていうのに」
「あ……、それは、マイケルがたまたま従属の誓約書を持ってて…、あっ、マイケルっていうのは子爵家の執事でって言っても分からないわよね……」
生きたサラと会話する予定のなかったイザベラはテンパって何を喋ろうとしているのか自分でもよく分かっていない。
「マイケル?……ああ、母が生家から連れてきた執事ですね。なんでも幼い頃から実の親のようにお世話してもらっていたので結婚を期に離れることが寂しくなってハルベリーまで連れてきたとかなんとか」
「えっ!!じゃあマイケルはアリサ様の輿入れの時からハルベリー家にいるの!?」
「あははは!イザベラさんもマイケルに揶揄われましたか?
マイケルはボケ老人のフリをして人の様子を観察しては人間性を試すような真似をする嫌な癖がありますから気をつけて下さいね!」
「そ、そんな……」
イザベラがサラの存在に気がつけたのはすべてマイケルに仕組まれたことだったというのか。
確かに物置小屋の洋服やおもちゃを発見したのも誓約書の存在に気付けたのもマイケルの行動がきっかけだったが……でもなぜイザベラが嫁いで一年も経ってからヒントを与えるような真似をしたのだろうか。
そんな疑問を拙い説明でサラにポロッと零すと、とても六歳とは思えない理路整然とした答えが返ってきた。
「マイケルは母を実の娘のように可愛がっていました。そして私のことも。
きっと色々な想いがあって父を止めなかったのでしょうけれど、かと言って私のことを完全に切り捨てることも出来なかった。
だから一年かけてイザベラさんを品定めした結果、信頼出来ると認めて私を託すことにしたのでは?」
「え…」
「それよりも私に会いに来たといいつつ、大きなスコップと可愛らしい花束と子どもが好きそうなお菓子を持ってきたということは……さてはイザベラさん、私が死んだと思ってましたね?」
「うっ…」
「まあ、死んだと思われて当たり前ですよ。なんせ私がこの森に捨てられたのは三歳の時ですからね!
とりあえず私のためのお菓子であることに変わりはないのでこれらは頂いておきます」
サラはちゃっかりお供え用のお菓子やリボンも手に入れホクホク顔だ。
一方のイザベラは、普通の六歳児は自分の墓に供えられる予定だったお菓子と知りながら平気な顔で強奪したりしないのではないかと、サラの逞しさに押されてかなり困惑していた。
それに自分を管理人の孫と偽り森に子どもが一人でいる違和感を咄嗟に誤魔化したり、少ない情報でイザベラの意図を読み解いたりと、子どもとは思えぬ頭の回転の早さにも驚かされる。
「貴女は今まで……」
「あ、サラって呼んで下さい」
「え?ええ、では…。サラは今までどうやって生きてきたの?あの様子では旦那様からの支援はなかったはずよ」
誰からの手助けもなかったわりにサラは少し痩せているが健康そのもので、服装だって貴族が着るような豪華なドレスではないが清潔そうなワンピースを身に纏っている。
「まあ、娘にあんな鬼畜な誓約魔法を掛けるくらいなので支援なんて期待出来ないですよねー。
なので洋服なんかは森を抜けた先の街にある孤児院を訪ねて恵んでもらいました!親がいないって伝えたらここで暮らしなさいって言ってもらえたんですけど、さすがに一緒に暮らせばバレてしまいますからね。有り難く物資だけ貰ってこの小屋に帰ってくるんです」
「まぁ……」
従属の誓約のせいで決定的な言葉を言うことは出来ないが、一緒に暮らせば魔力がないとバレてしまうと言いたいのだろう。やはりサラに魔力がないというのは事実なのだ。
「あとは森に生えている薬草を煎じて作った薬を『薬師のおじいちゃんが作りました』って言って隣街の薬屋さんに卸して小銭を稼いだり」
「え…」
「あとは靴磨きをしたり、売り子の手伝いをしたりして報酬に食べ物を貰いながら生活してます!」
「幼児が一生懸命仕事をする様子って同情を誘うのかたまにチップが貰えるのですよ!」としたり顔で話すサラに、イザベラの思考は追いつかない。
「あ、貴女、結構な頻度で森から出てるのね!?」
「あははっ!だって森から出るなって言われてないもん。でも基本的には森にいますよ。人と接すれば接するだけリスクが高まりますから」
あっけらかんと笑うサラはちょっと逞し過ぎる気はするが、弟や妹達と何ら変わるところのないただの女の子だ。
ここに来るまでに悪魔と関わることを散々悩んだというのに、イザベラはサラの眩しいほどに輝く生命力の強さというか性格の明るさにすっかり絆されていた。
初見の子どもには絶対に泣かれてしまう顔面を持つイザベラに対し、身内以外で普通に接してくれたのはサラが初めてだったということもあるかもしれない。
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