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41 “娘”との出会い①

強面長女・イザベラさんのお話はなんと⑤まであります(・∀・)


※訂正しましたが、次女を長女と書いてしまい、下の妹達ももれなくズレていました…。長女が二人という記載ミスで読みにくくさせてしまい申し訳ございません!


 イザベラは貧しい男爵家の長女として生まれた。


「お隣の子爵領は栄えているのになんでうちは貧乏なの?」が幼い頃の口癖で、無邪気に両親の心を抉っていたらしい。


 家にお金はなかったけれど両親の愛情だけはたっぷりと与えられたイザベラはスクスクと育つ。

 愛情のおかげかどうかは定かではないが、イザベラは五歳にしてすでに初対面の野菜屋のおばちゃんから「八歳くらいかな?」と聞かれるほど縦に長くグングン成長した。

 この頃はまだ高身長に悩む乙女心など皆無だったので「背が高いと自分で上にある物が取れるから便利だわ」くらいにしか思っておらず、自分の身長にあれほど悩まされる日が来るとは夢にも思っていない。

 そしてこの頃から夫婦仲の良かった両親は、イザベラが生まれてから数年後に起こった不作の対応がやっと落ち着いたことで怒涛の出産ラッシュに入る。


 イザベラが六歳の時に弟が、さらにその二年後に弟、それから年子で弟が二人生まれ、家族皆で「また女の子も欲しいわねー」なんて話していた二年後待望の妹が、その一年後に妹がもう一人、さすがにもうないだろうと思っていた三年後に末っ子のお姫様が誕生してくれた。

 長女のイザベラと末の妹との間は十六も歳が離れており、六歳の頃から両親を手伝いながら子育てに奔走してきたイザベラにとって、末の妹はもはや自分が産んだ子どもと錯覚するほど育児に携わっている。


 率直に言わせてもらえば計画性のない両親のせいで大家族の家計は火の車であり、上の弟四人もやんちゃな時期が過ぎればちょっとした小遣い稼ぎに毎日街へと繰り出さなければ暮らしていけないほど苦しい懐事情だったが、それでも子ども達全員平等に与えられた惜しみない愛情のおかげで両親を責めるようなことを言う者は誰もおらず、貧しいながらも笑いの絶えない幸せな家庭だったと今でも思える。


 両親の名誉のために言わせてもらうと、弟妹達の面倒を見なさいと強制されたことは一度もない。

 しかしイザベラのお姉さん気質がそうさせてしまうというか……ガキ大将の長男が悪さをすれば学校やご近所さんに頭を下げに回り、じっと出来ない次男が溢れる好奇心のまま行動して案の定怪我をすればおんぶで病院まで走って連れて行き、引っ込み思案の三男が「友達と喧嘩をした」ともじもじしていれば手を引いて一緒にお友達の家まで行って「ごめんなさい」と仲直りする場面に立ち会ったりもした。

 頭の良いの四男は比較的手の掛からない子どもだったがシスコンを拗らせてイザベラにべったりだったので、やっぱり一番手が掛かったかもしれない。

 おませな次女が「私もお友達が持っているようなお人形さんがほしい!」と泣けば徹夜でクオリティの高い人形を作りあげたり、これまた頭の良い三女が「勉強がしたいけど本が買えないの」としょんぼりすれば図書館に通い詰め本の内容を清書して手作りの教科書を作成したりした。

 四女はよく熱を出す身体の弱い子だったのでイザベラは心配と看病のためしょっちゅう睡眠不足に陥ったものだ。


 このように数々の困難を家族が一致団結して乗り越えてきたわけだが、しかし愛情だけで人のお腹は膨れないし、家族仲の良さに感動した借金の取り立て屋が支払い期日を延ばしてくれたりもしない。子どもが八人もいれば何をするにもとにかく金が掛かる。

 イザベラは特待制度を利用して学園を卒業したが弟妹達はそうはいかず、僅かな収入も学費の支払いで消えていった。

 十六で学園を卒業したイザベラも裕福な商家の子どもの家庭教師をしたり内職をしたりして家計を支えたが、イザベラが二十五の歳になる頃には膨れ上がった借金で首が回らなくなっていた。


 そして大家族である弊害なのか、長女として、三人目の親として、弟妹達を立派に育て上げたイザベラが嫁ぎ遅れてしまっている。

 こんなことを年頃を過ぎても続けていては自分にかける時間などあるわけもなく、まあ、これだけが理由ではないのだが、家族のことを優先するあまり色恋にまったく興味を持てなかったことがイザベラがこの歳になっても結婚していない原因の一つであることは間違いない。



「イザベラ…すまない。子どものお前にこんな苦労をさせてしまうなんて…」


「本来ならばとっくの昔に嫁いでいたはずなのよっ…!それなのに持参金が用意出来なかったばかりにその機会を逃してしまった…本当にごめんなさいっ…」


「ちょっとやめてやめて。私が結婚出来なかったのは私の外見のせいよ。鋭い目つきで頭一個分高い場所から見下ろしてくる女なんて例え持参金があったとしても貰い手なんかいやしなかったわ。

 それにこれは私が好きでやってる苦労なの。あの子達のいない人生なんて考えられないのだからこれで良かったのよ」


 子ども達が寝静まった夜、イザベラは両親に別れの挨拶を済ませているところだった。


 落ち着くまで弟妹達には本当のことは伝えないでほしいと念押ししているので、明日の朝にイザベラがいなくても長期の仕事で家を留守にしているだけと信じるはずだ。

 特にシスコンの四男に本当のことを知られたら父親の臓器を売ってでもお金を工面しようとするから絶対に本当のことは言えない。


 イザベラ二十五歳。貴族女性としては完全に嫁ぎ遅れた変わり者で、そこらへんの男より高い身長のせいでついたあだ名は「巨人」や「女男」(そこはせめて「男女」じゃないだろうか)、鍛えてもいないのにがっしりとしたこの身体で着るドレスは仮装か女装にしか見えず、すれ違った人に二度見されることもしばしば。


 そんなイザベラもついに明日、お嫁に行く―――多額のお金と引き換えに。



「っ、やっぱり今からでも断れないかしら!?」


「っ!そうだな、そうしよう!!」


「何言ってるのよ。子爵様相手に契約まで交わしておきながらこちらの一存で反故に出来るわけないでしょう」


 両親相手に話すというよりかは、弟妹達に言い聞かせるような話し方になってしまうのはいつものことだ。


 ―――裕福な子爵様との契約結婚


 これはイザベラに直接持ち込まれた話で、家族の誰にも相談せず大事なことを決断してしまったことは申し訳なかったと思うが、決して悪い話ではなかった。

 

 妻に先立たれた子爵の後妻となり後継ぎとなる男児をもうけること。


 これが実際に会って話した子爵と交わした契約だ。

 後継ぎを産めばあとは好きにして構わないと言うし、イザベラが望めば離婚にも応じてくれるという。

 報酬は弟妹達が最終学年まで学園に通うことが出来るだけの学費と、贅沢さえしなければ貯蓄出来そうなほどの生活費、妹三人の持参金を合わせたとんでもない額のお金だ。


 イザベラ自身は結婚などほぼ百パーセント諦めていたし、身長や強面のせいで近所の男の子達に揶揄われてからは好きな人がいた試しもない。

 しかし適齢期を過ぎても未婚の貴族女性はその家族すら訝しげな目で見られてしまう風潮にあるので、弟妹達のためにも一回くらいは結婚しなければと、あまりにも遅過ぎるがちょうど焦り始めていたところだったのだ。  

 そのため、よく知らない歳上の男性の子を産むという話を持ち掛けられたにも拘わらず、渡りに船というか、「お金が貰えて一度でも結婚したという事実が手に入るならこれほど自分にとって都合の良い話はないのでは?」とかなり前のめりになってしまった。

 何よりイザベラは恐い見た目をしているが子どもが大好きで、自分の子どもを産めるかもしれないチャンスに実は密かに高揚していた。この際お相手の愛など無くても構わないから子どもだけ欲しいとすら思う。

 

 しかしこの歳になっても新婚時と変わらぬ熱々ぶりを見せつけている両親にしてみれば、愛の伴わぬ結婚などとうてい納得出来るものではないらしく、明日嫁ぐというのに前日の夜になっても娘の説得に必死だった。


「ハルベリー子爵様の領地に住むことになるから最低でも数年は会えくなるわ。あの子達のことをよろしくね」


「もちろんだとも。イザベラの代わりにきちんと育ててみせるよ」


「ミーナとレオンが心配ね…。ミーナはイザベラを母親だと思っているし、レオンは明日の朝貴女がいなければ発狂するんじゃないかしら?」


「ミーナはお母様にも懐いているから大丈夫よ。レオンは…私にもどうすればいいのか分からないわ。とにかく頼むわね」


 誰が親か分からない会話が繰り広げられてる。ちなみにミーナは末の妹であり、レオンはシスコンの四男だ。


 頼りない両親に一抹の不安は残るが可愛い弟妹達の顔を見てしまえば決心が鈍ってしまいそうだったので、イザベラは夜が明けたばかりの早朝、長年暮らした家からひっそりと旅立つことにした。

お読み頂きありがとうございます! どのような評価でも構いませんので☆☆☆☆☆からポイントを入れて下さると作者が喜びます!! よろしくお願い致します(人•͈ᴗ•͈)

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長女が2人いる??
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