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33 不機嫌な護衛


「サラです。本日はよろしくお願い致します!」


「…ヴァンと申します。こちらこそよろしくお願い致します」


「挨拶は済んだな、行くぞ」


 アーサーはサラを腕に抱き上げると飛行車が置いてある場所まで足早に向かった。その後ろを固い表情のヴァンが付き従う。



 今日はアーサーとサラとヴァンの三人で王都に向かう日だ。飛行車だと王都まで半日で着くので夜に出発して明日の午前中に到着する予定を組んでいる。


「また飛行…車に乗れるんですね!空を飛んでいる実感は一切ありませんがなんだかワクワクしますっ」


「これが飛行車…」


 サラは二度目の体験だが、初めて飛行車に乗ることになったヴァンの顔は心なしか嬉しそうだ。


 挨拶する時にフードの隙間から覗き見たヴァンの表情がずっと固かったので「どうしたのかな?」と気になっていたのだが、飛行車を見て控えめに興奮している様子は年相応の男の子らしさがあって親しみが持てる。


「この大きな金属の塊がすごいスピードで空を飛ぶって考えたら不思議ですよね!」


「…っ、……そうですね」


 サラが話しかけるとヴァンは短く返答した後、すぐに表情を消してフイッと顔を背けてしまう。

 サラはそこまで鈍い人間ではないと自負しているので、ヴァンに嫌われているということはすぐに気付いた。歳も近そうだったので仲良く、とまではいかなくても普通に会話ぐらい出来ればと思ったのだが難しそうだ。

「見た目はアイドルグループのセンター顔なのに塩対応だなぁ〜」と残念に思いつつ、しかしそんな気持ちも飛行車に乗せてもらい、空飛ぶ様子を窓から眺めていればどうでも良くなってくる。

 サラは初めて乗せてもらった時と同じように、窓から見える物凄いスピードで移り変わる景色にすぐに夢中になった。

 ヴァンもサラとは反対側の窓から景色をぼんやりと眺めており、二人の真ん中に座ったアーサーは「この様子なら大丈夫そうだな」と満足そうに頷く。


 アーサーがなぜ年若く経験も少ないヴァンをサラの護衛に任命したのかと言うと、ずばりサラに良い感情を抱いていないからだ。

 本来であれば足の治ったジャックあたりが実力的にも適任だったが、彼は今やサラに心酔している者達の筆頭であり、「低魔力者に生きる価値はない」とまで言い切っていたかつてのジャックはもう影も形もない。

 サラに心底惚れ込んでいる人間を二人きりになる可能性の高い護衛につけるわけもなく、アーサーはあらゆる視点から厳選に厳選を重ねた結果、ヴァンを選んだという経緯があった。

 護衛任務の経験こそ少ないが魔法センスは抜群で剣の腕もそこそこ、それに嫌いな人間だからと言って手を抜くことのない真面目さも持ち合わせている。アーサーは「素晴らしい人選だ」と自画自賛した。


 サラが初めてグラハドールに降り立った時、「目が潰れる」と言われたことを未だに根に持っていることはヴァンの様子を見ていれば分かった。

 この様子ならヴァンがサラにひっつく“変な虫”になる心配はないだろうから安心して護衛を任せられる。


 いつの間にかウトウトしだしたサラの肩をそっと抱き寄せ自身に凭れかけさせると、アーサーも腕を組んで目を閉じた。






「ふわぁ……。あれ…?もう着きました?」


「まだだ。もうすぐ着く」


「あ…、辺境伯様、ありがとうございます。しっかり凭れちゃってましたね」


「構わない。サラが側にいてくれると俺もよく眠れる」


「辺境伯様…っ!朝から攻撃力が高いです…!」


「…?すまない」


 サラは起きるとすぐにアーサーと近距離でいちゃいちゃしだした。

 信じ難いことだがヴァンの目から見て二人の様子は「いちゃいちゃ」としか表現出来ない。



 ―――どういうことだ…?


 サラは高魔力者を醜いと蔑み差別する側の人間なのに、フード越しとはいえアーサーに顔を寄せては笑顔で会話を交わしている。どちらかと言えばサラの方がぐいぐい積極的に押しているように見えるのは気の所為だろうか。


 ヴァンは首を振って「そんなはずはない」と、浮かび上がった疑問を追いやる。

 やはりサラは恐ろしい女だ。己の願いを叶えるためならば世界一醜い男にもその気があるように見せ掛け平気で微笑むことが出来るのだから。


 ヴァンは軽蔑の込められた冷めた視線をサラに向けていたが、アーサーを手玉に取ろうと必死になっている姿を見るのが不愉快ですぐに目を逸らした。









***


 サラは今、王宮にて人生二度目のちゃんとしたドレスを身に纏っている。




 飛行車は昼前には王都にあるアーサーのタウンハウスへ無事到着し、そして一息つく間もなく馬車に乗り換えて王宮へと向かった。

 この時初めて知ったのだがタウンハウスに置いてある馬車には御者がいなかった。

 なんでも、本来御者が馬車を操る際に使う手綱が魔道具となっており、行き先を告げれば勝手に馬を操り目的地まで連れて行ってくれるらしい。旦那様の魔道具作りのポテンシャルが高すぎる。

 しかし王都中の地図を魔道具にインプットさせるのに果てしない時間が掛かり苦労したことや、馬の首に人感センサーを取り付けることで障害物を避けたり止まったり出来るようにしたまではいいが、センサーの感度調整にこれまた果てしない時間が掛かったことなどを馬車の中で教えてもらい、サラは思った。

「そこまでしなくても普通に人間の御者を雇えばよかったのでは?」と。

 しかし苦労に苦労を重ねた開発秘話を語るアーサーを前にそんな無粋なことは言えず、「それは大変でしたねぇ」と相槌を打つに留めておいた。そしてヴァンにはずっと奥歯に物が挟まったような顔をされていたような気がする。


 そして王宮に着くとあらかじめアーサーが話を通してくれていたのか、サラはどこかの部屋の一室に案内され待ち構えていた侍女達によってあれよあれよと磨かれていったというわけだ。

 ちなみに、アーサーもヴァンも立ち入れない場所には大きな結界を張ることでサラの安全を外側から確保するという徹底ぶりで、アーサーの本気度にヴァンは身震いしていた。



 それにしてもさすが王宮に勤める超エリートなだけあって、侍女達の手際はとても素晴らしい。

 サラの体型をパッと見ただけでどこからともなく下着にドレスに手袋、アクセサリーまで持ってきて美しく着飾ってくれたのだ。

 胸元の繊細なレースがアクセントになっているパフスリーブのイエロードレスは、ほっそりとして一見儚げに見えるサラによく似合っている。

 髪の毛はハーフアップに纏めて薄く化粧を施してもらえば「平時より三割増で可愛くなってる!」と自画自賛してしまうほどに愛らしい姿となった。


 鏡を前にクルクル回ってみたりカーテシーの練習をしているサラを見た王宮の侍女達はコソコソと話し出す。


「なんておいたわしいのかしら…。ドレス一つであんなに歓喜されて…」


「化け物達の巣窟の名は伊達ではなかったということね。醜い男達が蔓延る環境では質素なワンピースしか着せてもらえないのよ」


「サラ様は言うなれば全貴族女性の命を救う代わりにその身を捧げて下さった生贄。王宮にいらして下さった時は全身全霊でお世話致しましょう」


「「はい」」


「ふんふんふーん♪」


 サラは「ドレス姿の私を見たら辺境伯様も少しはドキドキして下さるかしら?」と妄想しながら自分の世界に浸っていたので、後ろで交わされている侍女達の会話などまったく耳に入っていなかった。



 コンコン―――


「あっ、辺境伯様が迎えに来て下さったのかも!」


「「ひっ!」」


「サラ様、私共はこれにて失礼致します!!」


 ドアをノックする音にサラが振り返れば、用意を手作ってくれていた侍女達が別のドアからそそくさと退室する残像だけが見えた。


「え……?どうしたんだろ?あ、はーい!どうぞお入り下さーい!」


 サラの返事を受けたアーサーとヴァンが部屋に入って来た。

 サラは忍者のような素早い動きで辺境伯であるアーサーに挨拶もせず消え去るという、不敬とも取れる行動を取った侍女達を不思議に思いながらも、アーサーの次の言葉で天にも昇るような心地となり、抱いた疑問など吹っ飛んでしまった。


「―――サラ、なんて美しいんだ。春を告げる妖精…いや、豊かな実りを与える豊穣の女神だろうか?

 愛らしさの中に手を伸ばすことを躊躇ってしまうような神秘さもあり……いや、俺の語彙力ではサラの魅力を余すことなく伝えることは出来そうにないな。言葉足らずですまない」


「っ、じゅ、十分ですぅ……!!」


 イケメンの旦那様による、深みのある美声で放たれた甘い賛辞の言葉達にサラは腰が砕けそうになった。


「それに……俺が贈ったドレスを身に纏うサラの姿を見ることが出来てとても嬉しい」


「えっ!!このドレスは辺境伯様が贈って下さったのですか!?」

 

 サラは感激のあまりおもわずアーサーの顔を見あげそうになったが、慌てて下を向いて誤魔化す。

 実は王都に行くにあたり、アーサーから言い含められていることがある。




『フードで顔を隠せない時もあるはずだ。その時は俺の顔を見て話さないようにしてほしい』


『え?なぜですか?』


『普通の人間はそんなこと出来ないからだ。サラが他の人間とは違うとバレてしまう』


『そうなんですね?分かりました!』


『……?』




 部屋にはヴァンしかいないからと言ってもここはすでに王都であり、サラはしっかりと言いつけを守りアーサーの顔を見ないようにしながらお礼を伝える。


「辺境伯様、素敵なドレスをありがとうございます。私もとても嬉しいです!!」


「ああ」



「よく出来ました」とばかりに、そっと優しく頭を撫でてくれるアーサーの手のあまりの心地良さに、サラは俯きながら目を細めて微笑んだ。


お読み頂きありがとうございます! どのような評価でも構いませんので☆☆☆☆☆からポイントを入れて下さると作者が喜びます!! よろしくお願い致します(人•͈ᴗ•͈)

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