27 鑑定
サラは献上品と言えば陶磁器や鉄器、絵画や人形などの工芸品、美術品などを真っ先にイメージしてしまい、単なる塩麹漬けの魔物肉を陛下に献上というのは少し大袈裟な気がしてならないが、アーサーがそういうのならばそういうものなのだろうと思い直す。
「これから忙しくなりそうだな。サラ、しおこうじの生産を頼めるか?」
「もちろんです!といっても魔法で作業してもらえば簡単なので私が出来ることなんてほとんどありませんが…」
「いや、大事なのはサラの知識だ。誰も果実の種の中身がしおこうじになるなんて知らない。よーぐるとの樹液もたまねぎの木の実もそうだ。―――サラはどこでこんな知識を得た?」
アーサーはこれまでサラの過去について踏み込むことを躊躇っていた。サラのことを知りたいと言ったあの日の夜、サラがひどく魘されていたからだ。
辛かった日々を夢に見ているのか、謝罪の言葉を口にしたかと思えば「おじいちゃん」と呟き涙を流したりする。
今も同じベッドで眠っているがほぼ毎晩魘されており、過ぎ去った過去を掘り返して心の傷を抉るべきではないという配慮からサラのこれまでについてアーサーから尋ねることはしなかった。
だが、これらの知識は看過出来なかった。誰も知らないはずの知識をサラは一体どこで手に入れたのだろうか。もし、サラが悪魔であることと深い知識に関係があるのならば、陛下に塩麹漬け魔物肉を献上するにしても情報統制などの配慮が必要になってくる。
「? どこで得たと言いますか…見れば分かりますよね?」
「…………どういうことだ?」
「え?ですから『ステータスオープン!』とかありますよね?だって魔法がある世界なのですから。私は魔力がないので自分のステータスは見れませんが『鑑定』だけは使えるんです!」
「…………………『鑑定』、とは?」
「?? 鑑定は鑑定ですよ。気になる物を見つけたら『鑑定!』と心の中で唱えればその物の名前や効能なんかを知ることが出来るっていう…………え、もしかしてありませんか?」
「ない」
「っ!?」
サラの顔は驚いた表情のまま固まってしまった。
そしてアーサーほど魔法に精通している人間でも「鑑定」という能力は初めて聞くもので、どのように判断していいものか分からないでいた。
「………、『ステータスオープン』とはなんだ?」
「いえ、なんでもありません…。ちょっと恥ずかしいので忘れて下さい」
「?」
これ以上話を深掘りするとアーサーに厨二病の邪気眼系だと思われてしまう。漫画やテレビの影響を受けて「なんとなくそういうのもあるのかなぁ」と思っていただけであって、自分は決して「私には隠された力が…!?なんて思うタイプではないのです!」とサラは心の中で必死に言い訳をする。
「………では鑑定について詳しく教えてほしいのだが、その力で人間を鑑定することは出来るのか?」
「はい。出来ますよ。その人の名前、性別、年齢、身長、体重、精神状態などがパッと分かります。ですがプライバシーの侵害にあたると思っているので滅多なことでは人を鑑定しないようにしています」
「……。じゃあ一度俺のことを鑑定してみてくれ」
魔法には「鑑定」という分類はなく、サラが言うような力はただの人間には使えない。
―――やはり魔術か。
残された文献には悪魔が魔術を使うと空気中の魔素が消費されるので一瞬風が起こると記されていたので、サラが「鑑定」を行うことで何か分かるかもしれないという検証の意味合いを込めて、アーサーは自身の鑑定をサラに頼む。
「えっ!!いいのですか!?分かりました、では早速!!」
御本人の許可を得て好きな男性のあれこれを調べられるこんなチャンスを逃すわけもなく、サラはすぐさまアーサーを鑑定した。
【アーサー・グラハドール 男 二十八歳
身長百九十五㌢ 体重九十七㌔ 体脂肪率八%
既婚者 童貞 動悸がやや激しいが健康
魔力放出量:不能 よって魔素生産量も測定不可
毒・精神干渉:異常なし 弱点:嫁】
「こ、これは……!?」
「どうした?もう鑑定したのか?」
目を凝らし魔術使用の有無を確認していたが、アーサーには空気中の魔素の揺らぎがまったく分からなかった。
「魔術ではないのか?」と考え込むアーサーはサラが目を泳がせ顔を真っ赤にさせていることに気が付かない。
―――ど、どうしよう…!!
とんでもない情報を手に入れてしまった。アーサーには詳しく伝えていないが、鑑定で分かることは多岐に渡る。そのおかげでアーサーが童貞であることを知ってしまったサラは動悸息切れが収まらない。
これほど好条件の揃ったイケメンにこれまで浮ついた話の十や二十ないわけがないと思い、過去の女性達に嫉妬を向けるような無駄な真似はしなかったが、やはり少しはモヤモヤしていた。それなのに一度も女性とそういう関係になったことがないという事実に驚きを隠せない。
ちなみにサラが人を鑑定した場合、必ずしもその人物の異性交渉の有無が分かるわけではなく、「鑑定」がサラの知りたそうなことを察知してオートで知らせるという優れた機能のおかげでアーサーの女性関係を丸裸に出来ただけだ。つまりサラは過去の女性達に嫉妬しないと言いつつめちゃくちゃ気にしていた。
「サラ?顔が赤いが大丈夫か?」
「はひっ!だ、大丈夫です!!!」
「それでなにか分かったか?」
「えぇっと……弱点は嫁らしいです」
「確かに俺の弱点はサラだ。サラに何かあれば生きていけないからな。それにしてもそんなことまで分かるのか…」
「ひぇ〜〜〜…」
真顔でなんという破壊力のあるセリフを吐くのか。
もちろん鑑定でアーサーが童貞だと知ってしまったことを伝えるつもりはないが、サラは愛しい旦那様を必ず幸せにしてみせるとあらためて決意を固めた。
「―――サラ。鑑定は魔法にない力だ。どこから魔力がないと疑われるか分からない。だから鑑定の力のことは誰にも言ってはいけない」
「…っ!分かりました」
サラは三歳の頃からお世話になっていたこの力がまさか一般的ではなかったとは思っておらず、改めてこの世界の常識を知る必要があると痛感した。
魔力のないサラでも使えるのだから誰でも標準装備していると思い込んでいたのだ。
一方のアーサーは魔素の揺らぎこそ分からなかったが、摩訶不思議な術を操るサラを悪魔だと信じて疑わない。魔術を使う=悪魔であり、そのため人前で鑑定の力を使ってはいけないと念押しする。
「あっ…。じゃあ、他の人はジャック様の足のことも分からないのか…」
「? ジャックがどうした?」
「あの、私、治癒魔法で足の怪我が治らないことを不思議に思ってジャック様の足を鑑定したことがあるんです」
サラは心臓さえ動いていれば四肢がもげていても治癒出来ると豪語するアーサーが、ジャックの足の怪我を治せないことをずっと不可解に思っていた。
現にサラが誓約で受けた内臓の損傷を一瞬で癒してくれている。だから何か理由があって段階を踏んで治療しているのかと思っていたが、鑑定の力を誰も使えないというのなら話は別だ。
「ジャック様の足にはトレントの棘が残っています。その棘を取り除かなければ以前と同じように歩くことは出来ないのではないでしょうか」
「トレントの棘だと?」
アーサーは一年前、ジャックが怪我した時の状況を思い起こす。
その時アーサーは討伐に同行しておらず後から報告を聞いたのだが、確かジャックが無茶な特攻をして辛くも大型の魔物を討伐したが、疲弊して凭れた木がトレントという魔物でそいつが振り回した枝で足をスッパリ斬られたというなんともマヌケな理由で怪我を負ったはずだ。
ジャックの怪我はその場で治癒魔法に適性のある者がすぐに癒したようだが、まさかずっとトレントの棘が体内に残っていたとは。
「魔物の一部が残っていることで足の違和感以外にも不調を感じていたのかもしれません。ジャック様の状態が【魔力制御:不能】という鑑定結果が出ています」
「魔力制御不能…」
以前ジャックがサラの言葉に怒って我を忘れ、魔力を全開に放出したことがあった。それほど気に触ったのかと思っていたが、あれは魔力をきちんと制御出来なかったからなのかとアーサーは思い至る。
「棘が残っている限り以前と同じように動くことは出来ないと思います。なので辺境伯様からジャック様にそれとなく伝えて頂き、棘を取り除いてあげて下さい」
「棘を取り除く、か…。難しいな」
「えっ?なぜです?」
「魔法もそこまで万能ではないんだ。足のどこにあるか分からない棘だけを取り除くことは出来ない」
アーサーは難しい顔で考え混んでいるが、それほど難しいことを言ったつもりのないサラは首を傾げる。
「? 足を切ればいいのでは?」
「!? サラ、そのようなことを言ってはいけない。悪魔だとバレてしまうぞ」
「いえ、悪魔ではなくただの人間なのですが…。というか手術なんかは……あー、治癒魔法があれば外科手術の必要性はないのか」
「げかしゅじゅつとはなんだ?」
初めて聞く単語にアーサーは困惑した表情を浮かべた。
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