24 イケメンの破壊力
「っ!?サ、サラ、一緒にというのは、さすがに……」
「大丈夫です、何もしませんから!」
「どう考えてもそれは俺のセリフだろう」
やはり紳士的なアーサーは、書類上の妻と同じベッドで眠るというシチュエーションにすぐ食いつくような男性ではないようだ。そういうところも好きだけど今はいらないから早く一緒に寝ましょう!と、サラは欲望に忠実なことを考える。
しかし意外と押しに弱そうなアーサーならばこれで落とせるだろうという必殺の奥の手があるのだ。
「辺境伯様…。知らない土地にやってきて少し、心細いのです。側にいてくれるだけで構いません、一緒に寝て下さいませんか…?」
「……っ、!」
見知らぬ土地の危険な森の中で平気な顔してサバイバル生活を満喫していた女がどの口で言うのかと自分でも思うが、優しいアーサーはちゃんと揺れ動いてくれたようだ。
「……、分かった。俺が側にいてもいいと言うのならば、………………一緒に寝よう」
「ありがとうございます!!」
しばらく葛藤していたようだがアーサーは共に寝ることを了承してくれた。サラはしおらしくいく設定を忘れて全力でお礼を伝える。
「では寝ましょう」
サラはいそいそと大きなベッドに入り込むとその中心を陣取り横になった。これで「真ん中に枕を置いて端と端で寝よう」などという悲劇は起きまい。
「っ!、ああ……」
アーサーは遠慮がちに布団を捲捲ったあと、ギシ…とベッドをわずかに軋ませながらサラの隣にそっと横たわった。
知らない内に息を止めていたのか、横になりやっと呼吸を思い出したことで、サラから漂う甘い香りを肺いっぱいに吸い込んでしまう。
これほど近くにサラが寝ているという事実にアーサーの心臓は早鐘を打ち、薄っすらと汗まで滲んできている。余裕のない姿を見られたくなくてアーサーは魔力を飛ばして部屋の灯りを消した。
「―――なんだか辺境伯様からいい匂いがします…。太陽みたいな、大自然の中にいるような、……おじいちゃんと一緒にいた頃を思い出すような………そんな、幸せの匂い………」
暗闇の中、ポツリ、ポツリと話すサラに、アーサーがなんと返事するべきか迷っていると―――スー、スーと規則的な寝息がすぐに聞こえてきた。
「………サラ?」
名前を呼べど返事はなく、身を起こし目を凝らすとスヤスヤと安心しきった顔で眠るサラが見えた。
―――無理もない。よほど疲れていたのだろう。
これほど無防備に寝顔を晒されては男として見られていないことは確実だったが、サラが安心して眠れる一因となれるなら本望だ。それに先に寝てもらった方がアーサーの緊張も多少は解れる。
実はサラが見つかるまでの間、アーサーは一睡もしていなかった。討伐任務中も熟睡など出来るはずもなく、この八日間まともに寝ていなければ自然と瞼も重くなるというもの。
初めて誰かと、それも最愛の女性と同じベッドで寝るという奇跡を噛み締める間もなく、アーサーも時を置かずして眠りに落ちた。
サラが眠る前に呟いていた、『幸せの匂い』の象徴である『おじいちゃん』とは一体誰のことなのかと考えながら―――。
「んっ………」
翌朝、サラは少しの息苦しさと圧倒的安心感に包まれながら目を覚ました。
モゾモゾと動けないほどがっちりとサラを正面からホールドしているこの逞しい腕は紛うことなきアーサーのもの。
「(やったぁぁ〜〜!!)」
アーサーの岩のように硬い胸板に頬を寄せながらサラはニマニマとほくそ笑む。これこそが王道の展開であり、夢にまで見た朝チュン(?)シーンだ。
規則的な寝息が聞こえてくることからアーサーはまだ眠っているようで、格好いい旦那様の無防備な寝顔を拝む絶好のチャンスをサラが逃すわけもなく、首を伸ばしてそっとアーサーの顔を盗み見ることにした。
イケメンは口を開けて涎を垂らしていたとしてもイケメンなのだろうなぁ、というほんの軽い気持ちで。
「っ!!?!!、!?」
アーサーの寝顔のあまりの神々しさに、サラは本当に目を潰された。カーテンの隙間から差し込む光を反射して光り輝く艶のあるお肌が眩しすぎる。
口も開いてなければ涎も垂らしていなかったが口元には薄っすらと髭が生えており、そのことになぜか尋常じゃないほど男の色気を感じた。サラの視線は自然とアーサーの少しかさついた唇へと吸い寄せられ、思わずごくんと喉を鳴らす。これでは痴女か変態だ。
寝起きにイケメンは見るものじゃないんだなと早々に白旗を上げたサラは、大人しく目を閉じ二度寝を貪ることにした。
***
「サラ…本当にすまなかった。……気分は悪くなっていないか?」
「気分は最高に良かったのですが目にはちょっとダメージを負ってしまいました」
「そうか…。寝ている間は魔力のコントロールがどうしても不安定になる。そのためより醜くく感じてしまってもおかしくはない」
「醜い…?口は閉じてたし涎も出てなかったですよ?」
噛み合っているようで噛み合っていない二人のこの会話のきっかけは、サラが二度寝をした後すぐに目覚めたアーサーが、サラの小さな身体を自分がしっかりと抱きこんでいると気付いたことだ。
醜い男に拘束されていたサラの恐怖を思えば生半可な謝罪では許されないと覚悟したが、意外にも平気な顔で目にダメージは負ったが吐き気は催していないと言ってくれた。
とにかく最低なことをしてしまったアーサーを怒ってはいないようで、ホッと安堵の息を吐く。
このような一幕があった後、少し早いがもう起きることにした二人は、アーサーの魔力にお世話になりつつサラは身支度を済ませ、その間にアーサーは手際良く朝食の準備をしていく。
サラが顔を洗い着替えを済ませてお風呂の脱衣場から出ると、テーブルにはすでにパンや温かいスープ、サラダにフルーツが並べられていた。
「わぁ!美味しそう!!辺境伯様、ありがとうございます!!」
「冷めないうちに食べよう」
「はい!」
紳士的なアーサーがわざわざ椅子を引いてくれたので、恐縮しながらも腰掛ける。なんだかお姫様にでもなった気分だ。そして世界最強のイケメンである旦那様と二人で頂く優雅な朝食はさながら映画のワンシーンのようで、パンを頬張りながらうっとりとしてしまう。
「サラ。これからについて、なのだが…」
「っ!、はい」
どうやらうっとりしている場合ではなさそうで、なにやらアーサーが深刻な顔で話を切り出して来た。
「サラに魔力がないことは誰にも知られてはいけない。ここまでは分かるな?」
「はい。悪魔だと思われて殺されてしまうからですよね」
「…っ、そうだ。だから安全の確保されたこの部屋に俺が不在の間は籠っててもらうことも考えたのだが、急な任務でいつ城を留守にしなければならくなるか分からない」
「そうですよね。この前みたいに魔物の討伐に行かなきゃいけない時もありますよね」
「魔物の討伐はこれからの時期増えていく傾向にある。色々考えた結果、サラを一人にして何かあっては対処出来なくなるため、今後は常に俺と行動を共にしてもらおうかと思っている、のだが………どうだろうか?」
こちらを注意深く窺うように伝えられたアーサーの言葉に、サラは目をパチクリとさせる。
「え、常に、というと…四六時中?昼夜問わず??おはようからおやすみまで!?」
「…そうだ。……やはり抵抗はあると思うが―――」
「よろしくお願いします!!!」
サラはテーブルに手をつき立ちあがると、九十度のきれいなおじぎを披露した。
好きな人と棚からぼた餅で結婚出来たサラには、これからやりたいことや楽しみなことがまだまだたくさんある。だからアーサー以外の人に魔力がないと知られ、悪魔だと疑われるわけにはいかない。
アーサーはそんな危険からサラを守ろうとしてくれる、いわばサラだけの王子様なわけで、王子様に四六時中守られながら生活出来るなんてとんだ胸アツだと感動する。
「―――サラが。サラが了承してくれて…嬉しい」
「っ!?」
そう言って初めて見せてくれたアーサーのホッとしたような笑顔は、少しずつイケメン耐性が出来ていたサラを嘲笑うかのような破壊力を持って目に飛び込んできた。
この後、サラが鼻を抑えて蹲ってしまったことは言うまでもない。
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