11 地獄の惨劇
アーサーは自身の魔力暴走のせいで昏倒した部下達に過剰なほどの回復魔法を注いで無理やり目覚めさせては、城中をサラの行方について詰問してまわっていた。高濃度の魔力に回復どころか瀕死状態となり、えずきながら目覚めた部下達に構うことなく鋭い声で問い掛ける。
「サラはどこだ!!隠し立てした者は容赦しない!」
「「「……っ!」」」
どこへ行ってもこの調子で、アーサーの後ろに付き従うブラッドは頭を抱える。このまま本当にサラが見つからなければグラハドールに血の雨が降るぞ…と。
食堂で叩き起こした者達は何も知らなかったようで、アーサーは足早にその場を後にする。
「次は訓練場で倒れてる連中だ」
「……」
もう話を聞いていないのは訓練施設で気を失っているであろう者達だけで、その尋問はこれまでより苛烈を極めそうだ。ブラッドは「いっそ目を覚まさないほうが幸せかもしれないな」といまだ混沌しているであろう仲間達の身を案じた。
アーサーが訓練場へと続く扉を乱暴に開けると、自力で目覚めることが出来たのか、一人の男が壁に手をつきながら歩いてやって来るのが見えた。
「ヴァン!!」
「あ……ブラッド、さん……。なんかすげー魔力がぶつかってきたかと思ったら、意識が……ひぃぃ!!?」
ブラッドの呼び掛けに青い顔で受け答えしていたヴァンは、直ぐ側に氷点下の冷気を漂わせるアーサーの気配を感じて悲鳴を上げる。
「―――ヴァン。確かお前はサラと面識があったな?サラを連れ去ったのはお前か?」
「…………ぐぇ」
「閣下!落ち着いて下さい!!ヴァン、知っていることがあるなら教えてくれ!!」
アーサーに魔力の塊を頭上から押し付けられたヴァンはべしゃりと地面にへばり付くも、ブラッドの取り成しで威圧を解除してもらえ、なんとか命拾いする。
「さっさと吐け」
「ハッ、ハッ、ハッ……!え、奥様、いなくなったんすか!?」
浅い呼吸を繰り返しながらもヴァンは必死に記憶を呼び覚ます。
確か…、今から四日前に仲間達と休憩中サラについて少し話をしていて、その時誰かが一度部屋の前から様子を確認した方がいいのでは?と言ったのをヴァンが「やめとけ」と一蹴したのだ。
もし……もしもあの時、ヴァンが制止することなく誰かが様子を見に行っていればサラはまだ部屋にいたのかもしれない。もしくは何か手掛かりを掴めていたかもしれない。
「も、申し訳ございません!!!」
ヴァンは正直に全部話すとその場に土下座した。
サラがいなくなってしまったのは、言われた侮蔑の言葉をいつまでも引きずり、意地になってサラの存在を排除しようとしたからだ。
自分より歳下の女の子が醜い男の部屋に監禁されていると知っていながら気遣うこともせず、いい気味だとほくそ笑むなんて騎士の風上にも置けない所業だったとヴァンは心から反省する。
「話を聞く限りヴァンのせいとは言えないだろう。他に何か知っていることはないか?どんな些細なことでもいい」
ブラッドは落ち込むヴァンの肩を叩き、なんとか新しい情報を吐かせようとする。このまま大した情報が得られなければまたしてもアーサーが暴走するかもしれない、とヴァンの肩を掴むブラッドの目は切羽詰まっている。
「他に………あ、そうだ!確かあの日、同期が西の門番の任に就いてて、朝から夕方にかけて銀髪の少年が何度もウロウロしていて気になったと話していました!!」
「!」
「銀髪だと!?サラと同じだ!」
ここにきてやっとサラに通じる情報が出て来たことでアーサーの目に希望が宿る。
「しかし少年か。サラ様本人ではないのか?」
「はい、遠目でしたけど髪が短く男物のシャツとズボンを身につけていたと。人の出入りを気にしていたようで何度も西門の前で見掛けたらしいです」
「閣下、サラ様の親族かなにかでしょうか?」
「分からないが、銀髪はここらへんでは珍しい。そいつに話を聞く必要がある」
それだけ言うとアーサーは身を翻し西門の方へと歩き出す。
「閣下!?どちらへ…まさか街へ行かれるおつもりですか!?」
早歩きのアーサーをブラッドが小走りで追い掛ける。
「当たり前だ。城内にいないとなればサラは街にいる。街の出入りは厳しくしているからそう簡単には出られない」
「それは、そうですが…!!どのようにして捜索なさるおつもりですか!?」
「そんなの街全体に威圧を落とし音魔法でサラを誘拐したやつはいないか住民全員に呼び掛ける。後で嘘がばれたら連帯責任で街を一つを潰すと言えば隠し立てする愚か者はいないだろう」
「……!!」
アーサーは本気だ。漏れ出る魔力の荒ぶり方で、ブラッドには嫌でもそれが分かってしまう。
そこへヴァンが駆け寄ってきた。
「閣下!!お待ち下さい!!どうか、奥方様の捜索は我々にお任せ下さい!!奥方様の失踪の責は俺達にあります!!」
「っ、閣下!私は閣下の留守を預かる身でありながらサラ様が拐われるのを見過ごしました!必ずや犯人を血祭りに上げてみせます、どうか今一度チャンスを!!」
「っ……」
二人のあまりにも必死な説得に、アーサーは一度立ち止まり思案する。
元はと言えばサラのいる部屋に近付くなとブラッドに命じたのはアーサーであり、他の騎士達にもサラについて詳しい説明をしないまま討伐に出ている。そのためサラの存在すら知らない騎士だっていたはずなのにアーサーは暴走とはいえ問答無用で魔力を放ち混沌させてしまった。
「……すまない。やっと、少し頭が冷えてきたようだ。俺が行けばどうしても冷静になれず街を壊滅させてしまうだろう。……代わりに、サラの捜索を頼む」
「っ!はい、承知致しました!!」
「すぐに他のやつらも起こして行ってきます!!」
アーサーは一礼して立ち去る二人の後ろ姿を眺めながら血が滲むほどギリッと拳を握りしめる。
「サラ……どうか無事でいてくれ」
こんなことになるのなら部屋に閉じ込めずにブラッドの目の届く範囲においておくべきだった。
つまらない独占欲のせいでサラが危険に晒されるなど、万が一その身に何かあればアーサーは自分を一生許せないだろう。
そしてこれ以上自分の判断ミスで無駄な犠牲を出すわけにはいかない。アーサーは身を翻すと魔力暴走のせいで混沌させてしまった仲間達の回復のため、城の中へと足早に入って行った。
しかし―――
辺境伯軍に所属する騎士達が総出で街中を捜索してもサラに連なる情報は得られず、銀髪の少年の目撃情報すらないまま、アーサーが城に戻って来てから丸一日が経過してしまった。
一度は冷静になれたアーサーだったが進展のない事態に再び焦燥が募り始め、「落ち着け」と宥める自分をかき消すように凶悪で自分勝手な化け物が顔を出す。
「………俺が探しに行く」
「っ!閣下、もうしばらくお待ちを!」
「これ以上待てない!!」
「―――閣下!!西門に銀髪の少年が現れました!!逃走を図ったようで門番が捕らえております!!」
「!」
報告を受けるやいなやアーサーは窓枠に足を掛け五階の自室から飛び出した。本来空を飛ぶには多量の魔力と繊細なコントロールが必要となるため、高魔力者であっても滅多に飛ばない。アーサーは地面を歩くくらいの感覚で簡単に飛べるが、それでも今は心が乱れているせいか少し飛行バランスを崩してしまっている。
風を切って空を飛んだアーサーは報告を聞いてから間を置かずして西門まで辿り着く。
「、!閣下!!銀髪の少年をこちらで捕らえております!!」
「っ、ご苦労」
アーサーが地面に降り立ちカツカツと足早に西門の方まで近づくと、手を後ろに縛られしゃがむよう強制されている少年が見えた。魔法を飛ばして俯いた顔を上げさせる。
「なっ………!サラ!!?」
重要参考人として行方を探していた銀髪の少年は、男物の服に身を包み髪を紐で縛ったサラ本人だった。
「あ、……辺境伯様…」
「サラ!!」
アーサーは一瞬でサラの手を縛るロープを魔法で切断するとその細い身体を抱きしめる。
「よかった……!本当に無事でよかった…!!」
「あ、ぁ…………」
サラは急激なイケメン過剰摂取のせいで、「辺境伯様、めちゃくちゃいい匂いがするっ…!」と思いながら気絶してしまった。
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