表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

2、断罪

学園から公爵令嬢が消えて一月が経ちました

少女の学園生活に変化はありません 女生徒は誰も少女に話しかけず、男子生徒も王子ら一部を除いて近づくことすらありません 数少ない平民の生徒ですらそうでした

少女たちはいつも通り放課後の生徒会室に集まって対策を考えます


「殿下、やはり処分が甘かったのでしょう 悪役令嬢に罪を認めさせ命令を撤回させなければ現状は変わりません」

「まだ公爵令息も学園に戻らないのだ、しばし待て」

「ですが殿下、このままでは彼女があまりにも」

「私なら大丈夫です 令嬢もご自分と向き合う時間が必要なはずです 待ちましょう」

「君は優しいな それに比べてあの悪役令嬢は」

「一度など馬術の訓練で私の馬を追い越したことがあった 馬に細工をしたのか 障害に細工をしたのか」

「私も筆記試験でやられたことがある ばかばかしくてすぐに気づいたよ」


同級生を悪役令嬢と呼び、自身が敗北した出来事を不正と言う彼らに、生徒たちの態度を変えることはできませんでした


「そういえばあの調査は何だったのだろうか」

「先週の書類調査か 生徒会にも説明がなかったし、結果の連絡もないな」

「だいたい設問がおかしかった どうせあの悪役令嬢が殿下の浮気を捏造してごねているのだろう」


学園で実施された無記名調査について話していると学園長から使いが来ました 至急全員で会議室へ来るようにとの伝言です 


「もしかしてあの調査の報告だろうか」

「あんな調査無意味でしょう」


王子と少女を筆頭に連れ立って移動します

会議室に入ると学園長だけでなく理事長などの経営陣、幹部教師、王子の祖父である王弟、ほかの生徒会役員の保護者、公爵令息が揃っていました 少女の兄もいます 皆一様に無表情で、まるで睨みつけられているように感じました

おにいちゃんと口に出してしまった少女が慌てて口元を押さえます


「おじいさま、なぜこちらに」

「学園長から公式に呼び出されていながら第一声がそれか」

「申し訳ございません 学園長、お呼びによりまいりました」


思わず王子が祖父に声をかけると険しい声で注意されました 王子が美しい姿勢で礼を執り、隣に立つ少女や後ろの少年たちも一斉に頭を下げます


「随分と遅かったですね 生徒会室からここまでそれほど遠いでしょうか」

「いえ少し支度に時間がかかりました 皆さまをお待たせして申し訳ございません」

「学園長、時間が惜しい 始めよう」


会議の表題は生徒会の越権行為と一部学生の不純異性交遊についてでした

そんなことはしていないと口々に反論する生徒会と担当教師を黙らせ、先週の書類調査結果が報告されます 学園側からの説明は少女たちには理解できないものでした


「そんな殿下と私が恋人だなんて恐れ多いです 私たちはそんな関係ではありません これは殿下に対する侮辱です まさか公爵令嬢がそうおっしゃったのですか?」

「公爵令嬢をのぞく全校生徒181名、教職員55名を対象に筆記調査を行いました あなた方も回答したはずです その中であなたと王子殿下の関係についてどう見えるか同級生、学友、恋人の三択で答えてもらったところ、8割近い185名が恋人を選びました」

「そんなはずありません」

「嘘です」

「おかしいでしょう、そんな調査 殿下と我々にやましいことなどありません 公明正大な皆さまにはおわかりのはずです」

「なぜ我々が虚偽報告をする必要があるのですか 無記名ですが筆跡でわかる場合もあるのであなた方には回答用紙は見せられません ですがこの場にいる皆さまにはご確認いただきました すべて違う筆跡による回答で信用に値するとの評価をいただいております」


調査を担当した事務官は表情一つ変えずに述べ、一部の保護者が首肯しました 反応を見せない保護者も否定はしません 王弟もです


「おじいさま、違います」

「何が違う お前は、婚約者の令嬢が特定の異性と毎日放課後を共にしていたら友情だと思うのか」

「違います 生徒会役員として共に活動していただけで二人きりだったことなどありません」


王弟の目配せを受け学園長が口を開きました


「この二週間、君達の動向を監視させていました 放課後は毎日生徒会室に集まり、証拠もなく公爵令嬢の罪を時に生徒会室の外に聞こえる声で語っていたと報告を受けています 確かに複数人が出入りしていますが、時によっては殿下とそこの女生徒だけが残ることもあり、二人きりで学園寮に移動することもあったとのことです」

「それは! 学園内とはいえ女性を夜一人で帰すことなどできないからで」

「お前が守ると? そもそもお前は守られる立場だろうが! 傍系であれ王族であるお前の身に何かあれば学園長以下全員が責任を問われるのだぞ 学園内であろうと夜道を騎士でもない女性だけを連れてふらつくなど何を考えているのか 側近は何をしていた 王族であり生徒会長でありながらこんなことも理解できていなかったとは」


年齢を感じさせないかくしゃくとした王弟の声がわずかに震えていました


「おじいさま」

「婚約者から、女生徒一人だけと行動すべきではないと忠告されただろう何度も 学園の生徒職員が令嬢の苦言をたびたび聞いておる お前の立場を慮って人目を忍んで言ってくれたのだろうにお前達がいつも声を荒げるせいで内容が筒抜けとなっていたとな」

「彼女は未婚の男女が近づくなと」

「嫉妬だと思い込んだのか 婚約者をないがしろにする男に異性としての魅力があるわけがないだろう それは嫉妬ではなく公爵家との婚約をないがしろにしたお前の侮辱への怒りだ それでも臣下として忠告してくれていたものを」

「そんな」


「王弟殿下、成績改竄という中傷についても処分せねばなりません」

「ああ、すまない学園長 進めてくれ」

「彼女の成績について、学園外識者による第三者委員会で徹底調査を行いましたが、試験結果に魔法などによる改竄、買収恐喝などによる試験問題漏洩などは認められませんでした 魔法、学術、舞踏、馬術、礼儀作法に至るまで、そこにいる一名を除くすべての教師に確認を取りましたところ、成績にばらつきはあるものの、授業中の口頭での質問、予告のない不作為試験などでの成績から令嬢が高い実力を有している事は明らかです 

厳正な調査の結果、学園での令嬢の成績に改竄はありません」

「馬鹿な あの魔法を使える者が別の魔法を使えないはずもない 教師ならおわかりのはずです 証言者は令嬢と公爵家に買収されているのです」

「今回、君たちが不正とした魔法についてだが、現在この国で使用できる者は三名のみ そのうちの一名は宮廷魔術師、一名は引退し療養中の魔術師、一名は王姉殿下でいらっしゃるが、三名とも令嬢に協力はしていない、それまで会ったこともなかったと証言をいただいております また令嬢がその魔法を安定して発動できることは王姉殿下がご確認くださいました」

「そんなはずがない」

「恐れ多くも王姉殿下が虚偽証言をなさったとおっしゃるのですか ご存じないようですが、殿下は学園始まって以来の天才と呼ばれた才媛でいらっしゃった ここにいる保護者の中には学園での殿下をご覧になっていた者もいます 辺境伯殿いかがですか」

「今は修道院長となっていらっしゃる王姉殿下と同じ時代に学園に通えたことは我が人生に燦然と輝く青春の煌めきでした 殿下のお墨付きがあるのです 令嬢の実力を疑う余地はありません」

「修道院長とはまさか」

「お前が婚約者を送り込んだ修道院の院長だ まさか国王陛下と祖父である私の姉上を把握しておらなんだとは」


苦虫をかみつぶしたような表情の王弟は、皺だらけの顔をさらに皺くちゃにして俯きました


「私が悪かった 病弱な息子に気を取られ、お前のことをきちんと見ていなかった 令嬢にも公爵家にも姉上にも申し訳ない」

「では婚約者への懲戒処分は」

「停学にはなっておりません 理事会教職員会を経ずたかが一教師の独断で生徒を停学になどするはずがないでしょう 前公爵から休学届が出たので受理したまでです ですがそれも新公爵閣下から間違いだったと報告がありましたので撤回されました 現在は学園都合での欠席としております」

「学園長、妹の名誉に関することですので発言をお許しください」

「失礼しました公爵 どうぞ」


公爵と呼ばれ立ち上がったのは、生徒会役員であり王子の婚約者の兄だった公爵令息でした 急すぎる代替わりには王家の意向が働いているのでしょう


「先般父に代わり襲爵しましたが、正式発表前ですのでご挨拶は改めて場を設けることをおゆるしください

私の妹は魔法も学業も武術ですらすべて私を上回る天才です ただ父により後継者の私や婚約者の殿下より秀でた部分を見せてはならないと厳命されていたのです 抜き打ちのほうが成績がよかったのは、不意打ちに動転し実力を隠しきれなかったせいでしょう あなた方に成績改竄と責め立てられた時、妹が言葉に詰まっていたのは、成績を下に操作した自覚があり、なおかつそれを口にすることが許されなかったからです 妹の咎ではありません 私がふがいないばかりに父の横暴を止められず、妹を助けることもできませんでした」


公爵家の恥だけでなく王子への不敬にもなるため今まで黙してきた事実でした 襲爵後初の仕事が家の恥を晒すこととなっても妹の名誉のためにと毅然と証言する新公爵に王弟や学園長が痛ましそうな目を向けました


少女の耳にも声は届いていましたが、右から左に抜けていくようでした まるで以前王子に連れられて見た劇のように現実感がありません 少女だけでなく呼び出された生徒全員が呆然としており、何とか会話ができているのは王子と教師のみでした

保護者席に目をやると、多くの貴族の片隅で座っている少女の兄は俯いて震えていました ふと子供の頃、兄から言われた言葉が頭をよぎります 賢い少女は意味が分からないながらも兄の言葉を覚えていたのです


「お前あまり調子に乗るなよ 魔法は危険なものでもあるんだ 今は天才扱いされてるからいいけど、一度でも失敗したらみんな逃げていくぞ その時になって謝ったってやらかしたことは消えてなくならないんだから」


失敗、失敗、失敗 失敗ってなに 私魔法は失敗してないわ みんな何を言ってるの 意味がわからない そんなはずない だって今まで一度だって間違えたことなんかないもの 喧嘩になったらいつもみんな謝ってくれたもの でもお兄ちゃんは私が泣いても謝らなかった



「公爵令嬢への長期間の誹謗中傷、停学処分捏造は重大な権利侵害でありその悪質性を鑑みて、この場にいる生徒全員を無期限停学処分とする また教師一名は無期限停職処分とする

明日中に学園寮を出ること 別途処分が下るまで学園への出入りは禁止 寮室の私物は希望があれば学園保管とするが、復学した場合は新たな寮室を与えることとなる」


学園長の声が響き、少女たちは保護者と共に寮に戻されました

2024/02/23 改稿 話の筋は変わっていません

2024/02/24 誤字訂正 

口元を抑えます→口元を押さえます

礼を取り→礼を執り

誤字報告ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ