第二十二章「人権がないという事は獣と同じという事である。つまり奴らは、権威に服従せず、絶対に復讐すると誓った知恵ある猛獣を敵に回したという事だ」
そこからの戦いは壮絶だった。
なりふり構わぬゴッドブレス兵は、避難している民間人を人質に取るような戦い方も遠慮なく選択した。
巨大化した手で瓦礫や石を握り込み、投げつけたのである。
それは散弾となって人々を襲った。
悪魔と超能力者と人権尊重派の連合軍は、民間人を守る為に盾とならざるを得なかった。
「ぬううううううううううああああああああああああああ!」
関西学生自治連合の忍者少年は、自慢の防弾学生服で石の散弾を受けた。
しかし威力に押されて吹き飛ばされる。
「ちい。なんて化け物だ!」
体勢を崩した彼を散弾の第二射が襲う。
「!?」
万事休すかと思われたその時である。
「飛び手裏剣! 斬撃流星乱舞!」
仮面忍者隊のVWAが大量の手裏剣や苦無を投げつけて、石や瓦礫を落し、割り、かすめて威力を殺して窮地を救った。
「うろたえるな! よく見れば巨大なだけの人間だ。数が増えた訳でもない。対人戦闘の技術はそのまま有効。あれだけデカければ隠れて狙撃される事もあるまい。よく見て対処すれば、君なら十分に戦えるはずだ!」
そんな彼を「ゴッドブレスを飲んでいない」警官が物陰から拳銃で撃った。
だがそれを受けたのは、間に入って来たスーツ姿の青年だった。
「「!?」」
二人は驚愕した。
VWAは青年の服を掴み、忍者少年と共に物陰に退避した。
青年は言う。
「……それを見越して、普通の警官も残しているようですね」
「すまない。油断した」
「ご心配なく。こう見えて私『不死身』なので」
そういう超能力なのである。
原理は全く分からないが、たとえ脳幹を破壊されても細胞を再生して蘇生する彼の仕事は私立探偵だ。ほんの少しだけ未来の光景を見る事の出来る予言者の一族である少年をパートナーとし、どこかの漫画みたいな頻度で事件を解決して回っている。
それが故に不審に思われて公安からマークされていたのだが、基本的には善良な市民として仕事に邁進していた。
だが超能力特措法により人権剥奪が容易になった事で、いよいよ拘束されるかという窮地を、悪魔王が協力する護憲団体に保護されたのである。
物陰から警官が発砲する事を察知できたのもパートナーの少年の功績である。
青年は笑って言った。
「いやー、ははは。参りますよねえ。私としてはちょっとした災害派遣のボランティアのつもりだったんですが、こんな事になっちゃって」
そう言いつつ懐からリボルバー銃を抜いた。彼は正真正銘、銃刀法違反の犯罪者だったのだ。
「私も本気を出さなくちゃならなくなっちゃいましたよ」
「ふ。心強い」
「共に頑張りましょう」
不思議なものである。これまで縁もゆかりも無かった男三人だが、この僅かなやりとりを経て、まるで何年も戦場を共にしたような連帯感のようなものがあった。
そんなやりとりを横目で見つつ、霧崎雪花は呆れていた。
「なんで男ってあんな漫画みたいなやりとりが好きなのでしょうか」
それは別段、男に限った話ではないと思うが、雪花にとってはそれが男性全般への評価らしい。
さて、彼女については文房具を投げつけて戦う戦闘スタイルから「切り裂き雪花」の異名を持つと伝えたが、それは「表の異名」である。
彼女が相手するゴッドブレス兵もまた、石を握りこんで投げつけてきた。
雪花はそれを紙一重でかわした。いや、かわしたばかりかゴッドブレス兵に向けて走り出した。
距離は約20メートル。これは拳銃のおおよその有効射程距離である。
彼女はこの距離を一秒ほどで駆け抜けた。
そもそも文房具を投げた程度で武器として成立するのは、それを可能にするフィジカルがあるからである。
彼女の「真の異名」は「電光雪花」という。それは彼女と親しい者しか知らない名前だ。瞬発力特化の鍛錬を積んでいる彼女は、一息で敵に肉薄し、その運動エネルギーで圧倒するのだ。投擲による攻撃を行うのは、油断を誘い、この切り札を最も効果的に使う為である。
ゴッドブレス兵は、そもそも女学生がこんなデタラメな速度で動くと予想していない。完全に虚を突かれ、華麗なる延髄切りを受けて倒れた。
それを見た別のゴッドブレス兵が雪花に言う。
「貴様、自分が何をしたか分かっているのか! 公務執行妨害だぞ!」
その言葉に対して、雪花とは別の人物が答えた。若い男の声である。
「へえ。公務なのか。ところで疑問なんだが、超能力者ってのは今では問答無用で害獣扱いで国家の敵なんだろ? 突然巨大化したあんたらってさ、つまり今、害獣なんじゃないの? 取り締まりの対象だね。あんたら自身が」
「…………はっ!?」
ゴッドブレス兵は「確かに」と思った。神力を込めて攻撃できるだけならまだしも、変身能力まで備わっていては言い訳が出来ない。
「な、何者だ貴様あ!」
ゴッドブレス兵は声の主に顔を向けた。
この声の主、実は人造超能力者である。兵器利用される宿命にあったが脱走し、以降、研究所からの追っ手と戦いながら安住の地を探している。
闇夜で光る集光能力に優れた目を持ち、その眼光と高速の眼球運動を合わせる事で相手に暗示をかける「殺眼」という能力を持っており、それは人の心臓を止める事すら可能とする。
なんだかオッチャマのバックボーンとダッシャーの能力をかけあわせたようなキャラクターだが、もう一つ、ルドルフの特徴ともかぶっていた。
超絶イケメンなのだ。
「ぐああああああああああああああああああああああ!」
醜いゴッドブレス兵はイケメンと目を合わせた瞬間に顔を覆って苦しみだして倒れた。
はた目にはギャグマンガのようなリアクションだが、もちろん高度な超能力戦闘である。
また別の戦場でも、ゴッドブレス兵が民間人を攻撃し追い回す。
正義の味方はこれを見逃す事ができないと良く知っているのだ。
まんまと進路を誘導されたマヌケな悪魔軍どもを、伏兵を使って倒すつもりなのである。
「ぎゃははは! くらえー!」
石の散弾が人々を襲った。
その時である。
「鎖分銅! 大! 手裏剣!」
その名が示す通り、鎖に繋がれた大きな手裏剣がどこからともなく飛来して地面に刺さる。それは民間人を守る盾となった。
なお「手裏剣」とは「手の裏に収まるくらい小さな剣」という意味である。盾になるほど巨大な手裏剣とはこれいかに。
完全に言葉の意味を無視した、勢いだけで名付けたような武器だ。
これを振り回す怪力の持ち主とは、仮面忍者隊の隊長、πr2である。
ゴッドブレス兵は仮面の忍者に向けて石の散弾を飛ばした。
πr2は、刀を抜き、そして振る。
「螺旋! 仙空乱波―!」
先述した螺旋乱波とは、一瞬で八回の斬撃を繰り出す技だ。
それを可能にする秘密は筋肉の鍛錬だけではなく、脳が指令を出さずとも条件反射で体が動くほどの反復練習だ。
つまり、別の動きをトリガーに別の動きを条件反射で起こす事も可能。
それが螺旋仙空乱波。
八回の斬撃は体をぐるりと回るような軌道を描き、その領域内に自分以外の存在を許さない。
石の散弾は、あるいは弾かれ、あるいは切られて威力を殺された。
思わず技に見入ったゴッドブレス兵に向けて、忍者戦士シャドウが叫びながら突進する。
「マジックぅぅぅぅ、ハンマーぁぁぁぁ!」
この頃になると、シャドウが魔法を使っていると信じる者は少なくなっていたが、それでも見えない攻撃は対処が難しい。このゴッドブレス兵も無力化された。
怪力を最大の武器として戦う忍者二人は、アイコンタクトだけで通じ合い、にこりと笑って互いを称えたのであった。
悪魔王を主軸とする連合軍と、かみに従うゴッドブレス兵の戦いは、こうして徐々に連合軍側に優勢となっていった。
恐らく個々の能力だけでかみに挑んでいたならば敗北は必至だっただろう。
来るべき時に備えてきた努力が実を結んだのだ。
しかし、敵にとって最大の戦力とは当然ナメンナーである。
新たなナメンナーが生成される前にダーク・アー幹部の心を取り戻し、停止命令を出させるというカオスの奮闘は、ギリギリの局面をむかえていた。
カオスとて伊達に戦ってきた訳ではない。戦いについてのふりかえりだって毎回やってきた。だから分かる。分かってしまう。ほんの少し、わずかに「足りない」と。
ナメンナーの生成は先に終わる。そして攻撃を開始する。
ここで演奏をやめてはナメンナーに停止命令を出すのがそれだけ遅れる。
しかしナメンナーの攻撃をそれまで抑える戦力が足りない。
(誰か。誰か気づいて。ここに来てナメンナーを止めて!)
そう願いながらギターを鳴らした。
その時である。
「どうしたカオス。そんなに焦って、悲し気な音色は初めて聞いたぞ」
声のした上の方を見ると、そこにはアングリイが、ミセスクインと共にいた。
「悪魔! 鼻骨破砕拳!」
ミセスクインの一撃は生成されたばかりのナメンナーを地面に叩き落とした。
連戦したミセスクインにとって、残りの力を振り絞った一撃だった。
わずかに欲しかった時間が稼げた。カオスは演奏を完了し、ダーク・アー幹部がそれぞれ心を取り戻した事を感じ取ると、ダッシャーに言って覚醒させ、停止命令を出させた。
神との戦いを終えたミセスクインは、アングリイの空間跳躍で再びこの現場まで戻って来たのである。
だが援軍として来たのではない。重大な事を自らの声で皆に伝える為である。
それは、静かでありながら一帯によく通る、実力派の声優のような声だった。
「皆さん。よく聞いて下さい。今すぐに戦闘を停止するのです。ゴッドブレス兵の皆さんも、傷心状態の神に代わりお伝えします」
一体何事だと戦場全体がざわついた。
「私、ミセスクインはこの時をもって……神に降伏いたします!」
全員、意味が分らなかった。
最も早く声を発して反応したのはカオスだった。
「……嘘でしょお!?」




