第8話 魔法少女、街へ行く
チチチチチッと小鳥の囀りでトモたちは眼を開けた。
気付けば森の外の沿道に居るようだ。
朝日も昇っており、いつの間にか時間がたっていたようだ。
ドライアドと話した後の記憶がすっぽりと抜け落ちていた。
「妖精の小道ね。 森で迷子になった子供なんかを送ってくれる魔法。 精霊様はやり方がおおざっぱなのよね。助かったけど」
マリーが状況を察したのか説明してくれる。
いきなり違う場所に居てもとくに驚きはないようだ。
「とりあえず街の近くには出れたってこと?」
「そうね。 疲れも取れたし、ゆっくり歩いてもすぐにつくわ」
「ほぉ……、やっぱドライアドってのはすごいなしらん魔法を使うんだな」
ジェイルが移動の準備をしながら会話に入ってきた。
「しかし、嬢ちゃんいつのまにそんなぺらぺら話せるようになったんだ? ってか勇者様とはな。 そりゃ強いわけだ! はっはっはっ」
「はっはっはっ! じゃないでしょ! あんたは、まずお礼も言ってないじゃない! あと、勇者に関しては下手に喋るんじゃないわよ? はっきりしてないんだから!」
無遠慮にぐいぐいくるジェイルをマリーは耳を掴んで静止する。
その光景ににやにやとして、遠くからキリアンとゲラルトは見ていた。
察しの悪いトモもこれにはピーンと来たようで同じような表情を浮かべる。
その表情を見とがめたジェイルはみるみる顔を赤くするのだった。
「あー、うん、ごほん。 そうだったな、昨日はほんと助かった。礼をいう。あと無礼な態度ばかりですまなかった。警戒してたんだ」
つままれて真っ赤になった耳より紅潮した顔のままジェイルはトモに頭を下げた。
その姿勢はリーダーらしい誠意にあふれた姿だった。
その言葉に続きほかの面々も順に頭を下げていった。
「あ……いや、気にしなくていいですから! ほんと。 マジで」
その真摯な態度にまたしても嫌な汗を背中に感じるトモ。
内心で深く、原因については墓場までもっていこうと心に決めたのであった。
準備を終えるとトモたちは出発した。
昨日とは違い町から近い街道ということもあり、会話も弾んだ。
警戒心が薄れたこともあり、ジェイル達とも話に花が咲いた。
どこの店がおいしいだったり、街の名物だったりを教えてもらいながら歩くとあっという間にトモは、街の城壁にたどり着いた。
街の名はシュリンドというらしい。
石造りの城壁はちょっとやそっとじゃやぶれそうにない。頑丈そうな作りだ。
そして門扉には荷馬車や、旅人が列をなしていた。
森の木漏れ日の面々はその脇をすり抜けて門番に話しかけている。
少し遠くからトモが見守っていると、ジェイルが手を振りこっちにくるように促した。
「普段なら、身分証もないやつをすぐに通すわけにもいかんのだが……、責任はギルドで持つってことでいいんだな?」
初老の門兵は渋い顔をしながらジェイルに尋ねる。
「へへ……、だぁいじょうぶだよおっさん。 こんな少女がなんかできると思うか?」
にこにことしながら、ジェイルは愛想よく答えるが、
その言葉に怪訝な顔を更に浮かべながら、門兵はじろじろとトモを値踏みする。
「ワーラットのハーフか。 ちょっとまってろ」
ひとしきりトモを観察するとそれだけ言って詰め所に消えていく。
数分後戻ってくると、手には赤いリボンと帽子を持っていた。
「しっぽの先にリボンをつけろ。 変なのに絡まれたくなきゃその先端と、頭はかくしてろ」
そういってぶっきらぼうに手渡してくる。
言動は横暴だが、面倒見がいいらしい。
「ありがとう! 大切にする!」
「おう。 気ぃ付けろよ」
それに笑顔でお礼をいうとかわらずぶっきらぼうな物言いで返事をしてくれた。
トモは落ち着いたらお礼に来ようと心に誓った。
「よかったわね。トモちゃん、あのおっさんなんだんかんだ子供に甘いのよ」
門をくぐり目抜き通りにでるとマリーが話しかけてきた。
トモのしっぽにはかわいらしい大きなリボンがつけられふりふりと機嫌よく揺れている。
「変に揉めなくて助かりました。 それでこのあとは?」
「冒険者ギルドにいくつもりだけど、とりあえず私に任せてくれる? トモちゃん。あと、あまりしゃべってくれないお友達も」
そういうと、マリーはいたずらっぽく笑みを浮かべる。
クーリガーへ向けての言葉だろう。クーリガーも特に文句はないようだ。
昨夜突然声が響いたこと自体はやはり覚えているようだが、深く追求するつもりはないようだ。
トモは今はその配慮に甘えることにした。
屋台街のある広場を抜け大通りを進むと、大きな酒場が見えてきた。
周りの建物の2,3倍の面積で昼間というのに騒がしく酔っ払いの声が響いていた。
「騒がしくていやになるな」
珍しくキリアンが口を開く。
ここまでの態度で騒がしいのは得意ではないことはわかったが相当に苦手なようだ。
嫌そうな顔を浮かべつつもギルドの扉を開けるのだった。
その姿に森の木漏れ日の面々は苦笑しながら続いていくのだった。