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第5話 魔法少女、異世界でも大剣を振り回す

 魔導生物(クーリガー)起動開始(ゲシュタルレット)--


 紡がれるのは魔法の言葉。

 戦いの合図として何度も紡いできた言葉だった。

 しかし今回は普段とは違う感覚が彼女を襲ったのだ。

 淡い光ではなく深く赤い霧が立ち込め、その霧が自分に取り込まれていく。

 心臓が早鐘を鳴らすようにざわつき、どす黒い感情が自分を塗りつぶすように感じた。


「テキヲコロセ! ナニモノヨリモツヨクアレ! タダクラエオノガタメニ!」


 その言葉が何度も頭の中で響いたが、赤い霧が消え去るとともに不快なその言葉は消えていた。


「クーリガーあんたこれ知ってて黙っていたわね」


(なんのことでしょう? 外部干渉があったことはお伝えしたはずですが?)


 いけしゃあしゃあと宣う相棒に憎々し気な眼を向けるが、喫緊の問題はないと判断したのだろう敢えて伝えず不快感については眼を瞑ったようだ。

 その合理的な判断のツケは大体トモが支払うことになっている。


(実際不快感も一時的なものですし、スペックは以前に比べても遜色がないはずです。 いかがですか?)


「いかがですか? じゃないわよ!」


 怒りを爆発させ文句を言いたい気分ではあったが、自分の状態を確認することを優先する。

 以前に比べてマジックスーツの露出が増え、黒と赤を基調にしたゴシックドレスになっていた。

 全体的にスリットが増えたことで恥ずかしさが増していた。

 髪は赤毛のツインテール、大胆に空いた背中には蝙蝠のような羽、更には右側頭部には立派な片角が生えていた。


「あ……うん。 完璧にこれ、闇落ちしてない?」


(そもそも闇落ちなんて概念はない筈なんですけどね。 おそらく外部干渉の結果でしょうね)


「さらっといってくれてんじゃなないわよ! ただでさえきらきらした服で戦う恥ずかしい思いしてきたのに、今度はまんま痴女みたいな服ってどういうことよ! デザイン変更しなさいよ!」


(マイスター。 残念ながら、マジックスーツに関しては機能制限がかけられているようです。現状新規作成やデザイン変更ができません。 現状それを使うほか手がありませんね。修復は可能なようですから、問題はないかと)


「はぁ……、っもう! 次から次へと問題ばっか、 せっかくチェシャが干渉してこないってのに……いやこれチェシャがなにかしたの? それと――」


(マイスター! 考えてる暇はありませんきますよ!)


 考え込んでいるところにクーリガーが割り込んできた。

 はっとして目線を上げると目の前には触手が迫っていた。


「やばっ! 騒ぎ過ぎた!」


 子熊の視覚は潰れたままだったが、さすがに声を出し過ぎたようだ。

 正確に位置を把握し触手が向かってくる。それを間一髪で避けるとトモは相棒に大剣を出すように指示する。


 右手に柄を握る感触を感じると、避けた勢いのまま下から大剣を振り上げる。

 筋力強化と斬撃強化された魔法少女の力は容易くその触手を切断した。

 どさりと、切り落とされた触手は地面に落ちても生命力を感じさせミミズのように地べたをはい回っていた。


「うわ……、気落ちわる……、やりたくないなぁ……、ってか大剣もなんかデザイン変わってない? なにこの趣味の悪いどくろ……」


 マジックスーツだけではなく武器の大剣も全体的にごてごてしたいかつい雰囲気に変わっている。

 以前も武骨といった感じで可愛さのかけらもなかったが、今は鍔の部分に大きな髑髏までついている。


「ださい、かわいくない、趣味が悪い!」


(はぁ……、相変わらず無駄口の多い……。 長期戦は避けたいのでしょう。 左わき腹を切り裂いてください。 異常な魔力圧を感じます。 おそらく急所か核かと)


「あっ! そうだった! とりあえず考えるのはあと、あと! さっさと片づけるよ!」


(防御術式は近距離であれば以前と同じように発動可能です。 触手の対処はお任せください)


「おっけ。 任せた!」


 相棒からの頼もしい発言に笑みを浮かべると真っすぐにトモは駆け出した。

 筋力強化の魔法と、斬撃の強化魔法を全開に弾かれた矢のようにただ真っすぐに突進していく。

 その気配に子熊は残り7本の触手を、トモに向けて突き出した。

 正面からの猛攻に対して、トモは覚悟を決め大上段の姿勢のまま突っ込んでいく。

 硬質な金属がぶつかるような音と共に、両者の勢いが止まった。

 防御術式は完全に触手の一撃を遮断していた。

 勢いが止まった触手に、トモは振り下ろし一閃! 先ほどの無理な体勢からの軽い一凪とは違う全身全霊の一撃は大地をわり、触手を消し飛ばす。更にその衝撃派は子熊の身体を真っ二つに割った。


 追撃のためさらにもう一歩トモは駆け出す。子熊は反応がない。余りに規格外の一撃に反撃の余力さえ奪われたようだ。


 トモは子熊の眼前に迫ると、袈裟切りで右肩から左脇腹へ一撃、返す刃で今度は左からの一文字に切り裂いた。

 胴から上がごろりと地面に落ちる。

 左のわき腹を切り取ったことによるせいだろう。

 蠢いていた触手はピクリとも動かなくなった。


 べちゃりと左わき腹辺りの肉が落ちた。それは奇妙なことにその部分だけで地面を這って蠢いている。


「ほんと気持ち悪いなぁこれ……。 詳しく解析できる?」


 魔力の泡を作り、その肉片を持ち上げつつトモは相棒に解析を依頼する。


(解析結果としては何かはわかりませんが、寄生虫のようなものかと思われます。 寄生した生物に対して、生命力を与えてるようです。 肉片から本体を取り出しますか?)


 わざわざ聞いてくることに嫌な予感を感じながらもトモはお願いする。

 だがにすぐ後悔することになる。



 取り出された寄生虫はアメーバ状で蠢いている。

 肉片が蠢くのも大分SAN値が下がる光景だったが。細い触手を伸び縮みさせて蠢く姿は群を抜いて気持ちが悪かった。


「ひぃぃぃぃ! ほっとくわけにもいかないからさっさと隔離して!」


 涙目になりながら言う主人に辟易しつつクーリガーは気持ちの悪い物体を位相空間に隔離した。


 戦いはあっけなく終わったが、吹き飛ばされたジェイル達は無事だろうか?

 トモは変身を解き、近くにいたマリーのもとに駆け付ける。

 やはり変身が解けても、以前の魔法少女の姿と同じ姿だった。この姿に固定されているらしい。


「マリーさん! 大丈、夫?」

 慣れない現地の言葉で話しかけてみる。


「大丈夫……。ひどく身体を打ったみたいだけど、なんとか生きてるわ。 あの熊倒してくれたのね……。見てたわ。 トモちゃん強いのね……。 お疲れのところ悪いけど、ゲラルトに私のカバンに入ってる薬飲ませてあげてくれない? 彼回復役だから……」


 そういうとマリーは気を失ったようだ。

 なんとか最後の力で伝えたかったのだろう。


(気を失っただけのようです。 言われたとおりにしましょう。 回復魔術は専門外ですし)


 クーリガーに促され、トモはマリーのカバンから薬を取り出す。

 それは触手の一撃を受けても無事なように丁寧に梱包されていた。

 生命線なのだろう。それは大事にしまわれていて助かった。


 うめき声をあげるゲラルトにその薬を飲ませると彼はみるみる回復していった。

 起き上がり周囲を見回すと彼はすぐにジェイルとキリアンのもとに向かうとともに別の薬をトモに渡し、マリーに与えるように指示をだした。


 その薬をマリーに飲ませると血の気が引いていた顔に血色が戻っていった。

 先ほどの薬ほどではないが流血していた足の傷口は閉じ、そしてすぐ意識を取り戻した。


(へぇ……この薬すごいな。 魔法の薬なんだ。 こんなの見たことない)


 それはトモには初めての光景で、回復魔術は見たことはあるがこういった回復アイテムのようなものは記憶にない。

 回復していく姿を眺めていると、ゲラルトがジェイルとキリアンを回復させたようだ。

 三人の声が耳に入ってきた。


(ほんとにすごい。 こんなすぐに回復させるなんて)


 大気のマナが濃いということは、魔術に関して地球よりも無茶が利くということだ。

 この世界の魔術にかんして勉強した方がいいとトモは感じていた。


「トモちゃん? みんな無事だったのね……」


 まだ少し辛そうだ。

 トモはゲラルトにマリーの治療をお願いする。

 ゲラルトが何かに祈りを捧げるとマリーは今度ははっきりと回復していくのが分かった。

 その姿にトモは安堵の表情を浮かべるのだった。


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