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第3話 魔法少女、異世界で敵に出会う

戦闘まで終わらせるつもりが、ちょっと長くなりました。


 森林火災があったと聞いていたが範囲はそれほど広がってはいなかったようだ。

 一時間も歩けば燃えた木々の数は減り、燻された果実の溶けたカラメルのような香りが漂うこともなくなっていた。


 マリーたち一行は森を足早に進んでいた。

 ここまで特に野生動物に出会うこともなく、鬱蒼とした獣道を切り開きつつ足を進めていく。

 森は特に傾斜があるわけではなく平地だったが、警戒しながらの道程のため顔には疲労の色が見え隠れしていた。

 木、蔦、土の代り映えのしない景色にトモも感想が浮かぶわけもなく、ただ黙々と歩みを進めていた。


 そんな最中、急に水の流れる音が聞こえてくるのが分かった。

 その音にマリーの表情は喜色を表した。


「少し休もう」


 ジェイルが宣言する。

 疲れの色濃いメンバーは全員同意した。


 トモは河原で手足を洗うと、汗が引いていくのが感じられた。

 思いのほか川の水は冷たく手を入れたときにはしっぽが反応して直立するのが感じられた。


(やっぱり神経通ってるよねこれ……。ほんとなんなんだろこれ)


 意識すれば自分の意思で動く。

 それなりに自由に動くようで、上げ下げだけではなくぐるぐるとスプリング状に形を作ることすらできた。

 だが何か役に立つ雰囲気もなかった。

 ぼんやりとそんなことを考えていると、マリーがカップを二つ持ってこちらにやってくるのが見えた。


「やっぱりそのしっぽ気になる?」


「気になる。 こんなの、あった記憶、ない」


「記憶が曖昧だって言ってたわよね。 ほかに何か覚えてることないの?」


「うーん。 やっぱり、覚えて、ない」


 マリーはいい人だと解るがまだ、ほかの世界から来たとかそういう話をして下手に警戒をされるより記憶喪失を決め込むとクーリガーと相談して決めていた。

 少し罪悪感が湧いたが、危険だと判断され置いて行かれる事態は避けたい。

 荒野の後に森の中で一人きりなど精神が死ぬ。

 危険な場所で一人というのはそう何度も体験したくはない。

 あの轟音と硝煙と砂埃の三日間は相当にトモにトラウマを植え付けたようだ。

 思い出すと目頭が熱くなるのを感じられた。


 一通りマリーと談笑していると、地図を拡げたジェイルが話しかけてきた。


「夜通し歩いてさっさと森を抜けるか、ここにキャンプを張って早朝に出るか。どうする? おれとしちゃすぐに出発したいが、嬢ちゃんの体力次第だ」


 もう陽も傾き始めている。

 一応トモの保護を最優先にしてくれているようだが、森に長居したくはないようだ。

 トモにしても見た目は華奢な少女にしか見えない。

 多少魔法を使えるというのを把握していても森の不安定な道を一晩歩かせるのは酷だと思っているのだろう。

 トモは実際のところは、魔法少女として戦い抜いたのは伊達ではなく体力には十二分に余裕があった。

 なので彼らが急ぎたいという意向を尊重し、夜通し歩く決断をした。


 一休みを終えると陽が傾き更に薄暗くなった森をまたしても黙々と歩いていく。

 先頭にいるジェイルとキリアンが道を切り開きながら、真ん中にマリーとトモ、後方にゲラルトの体制だ。

 陽が完全に落ち暗闇の中での行軍でもその体制が崩れることもなく軽快な足取りで進むことができていた。


(魔法かな? 多分私よりみんな周りが見えてるよね)


 暗視魔法を発動したが、森の中の為足場の悪さで躓くのだ。

 赤外線を捉える程度の魔法のため、段差や根っこ何かは判別できない。

 だがマリーたちはひょいひょいと避けたり、トモに危ない場所を教えたりとよく見えているのだ。

 彼らが居なければ、トモは無様に泥まみれになっていたことだろう。


 そんなことを考えていると、唐突に木々がバキバキと音をたて倒れていく音が聞こえ始めた。

 その音は正面方向から真っすぐ近づいてくる。

 何者かが木々をなぎ倒しながら高速で近づいてくるようだ。

 その音にジェイル達の行動は早かった。

 ジェイルは腰を落とし背負っていた大盾を構え、キリアンは近くの気に登り弓を引き絞る。

 マリーとゲラルトはなにやら魔力を集め詠唱し始めている。

 臨戦態勢というところだ。


 そしてその音に反応したトモは、


「あわわわわわわわわわわ! なんか来た! 来てる! 来てるよ! どうしよ! どうしよ!」


 いつも通り慌てふためき、相棒の水晶球はため息を漏らすことになるのだった。 


「ライトフォーカス!」


 詠唱が終わり、マリーが何か上空に光の玉を放つ。

 流石にある程度は見えているようだが、光源がない中の戦いは難しいのだろう。

 相手に視認されるリスクより、戦いやすさを重視したようだ。


 トモも赤い影が見えるのみだった物が全容を表した。

 それは体長1mほどの子熊だった。

 それが木々をものともせず、直進してくるのが見えた。

 このままこちらに突っ込んでくるつもりのようだ。


 だがその思惑はジェイルによって阻まれる。

 大盾で突進を抑え込んだのだった。

 勢いが止まった子熊の眼に間髪を入れず矢が突き刺さる。

 その矢の痛みで子熊は二本脚で立ち上がり咆哮を上げた。

 すかさずジェイルが飛びのくとマリーとゲラルトが水の魔法弾と土の魔法弾を浴びせかけた。

 その猛攻が終わると、子熊は辛うじて立っていたが朦朧としている姿が見えた。

 効いている様子を確認するといつの間にか大盾をしまい剣に持ち替えたジェイルが子熊の首筋に剣を横一文字走らせたのだった。


 そして子熊は崩れるように地面に伏せる。

 鮮やかな手並みだった。

 無駄のない連携。個々の技量。そう言ったものが絡みあった結果だろう。

 トモはその瞬時の判断と結果に見惚れていた。


「マッドベアかこれ? 子熊にしちゃ力が強かったが、なんで親熊と離れてこんなとこで暴れてんだ?」


 ジェイルは子熊の不自然な動きに疑問を口にした。


「マッドベア? この、動物の、名、前?」


 トモはジェイルが不安な様子を見せたため、会話を促すことにした。

 その言葉にマリーが続いた。


「マッドベアっていうのは熊のモンスターね。 野生動物には近いけど魔力を内に秘めた魔物。 森の中じゃ強い方の魔物だけどあんな無茶な突進できるほどの魔物じゃないわね」


 そう語るマリーの表情には不安や不信感といった表情が浮かんでいる。

 異常事態が起きているようだ。トモがその表情を見つめているとマリーは、


「大丈夫よ! もう倒したし! 早く森を抜けましょ」


 笑顔をトモに向けたが内心の不安感は拭えなかった。

 そして皆が移動しようと進行方向に眼をやった時、その不安は的中したのだった。


 切り裂いたはずの首から触手のような物が生えている。

 それは四対八本が左右に伸びていた。

 倒れ伏していたはずの子熊もまたしても二本脚で立っていた。

 矢で穿たれた眼は見えていないようで鼻をひくひくとさせ周りを伺っている。


 ジェイルが音を立てない様に口に人差し指を立て移動するように指示をだす。

 手に余ると判断したようだ。

 ここは一度逃げる選択をした。正体不明の化け物と何の準備もなしに戦うほど彼らは愚かではなかった。


 だが、どんなに最善の選択をしたとしても時として最悪は訪れるものだ。


 子熊が咆哮を上げると触手が膨れ上がり、それを辺りへ無差別に振りまわしたのだ。

 木々はなぎ倒され、岩は砕ける。その暴風が収まった後には、誰一人立ち上がれる者はいなかった。

 トモ一人を除いては。



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