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第11話 魔法少女、危機一髪

時間指定忘れてました。

再投稿です。

「首を落とさないだけありがたく思いなよ!」


 カトラスの横薙ぎが脇腹に向け吸い込まれるように振るわれる。

 阻むものがない一撃は観衆の眼にも勝負を決める一撃だと確信される。

 観衆は決着の瞬間を静かに見守っていた。


 後数ミリまで迫った攻撃にトモは痛みを覚悟し歯を食いしばる。

 その瞬間閃光と爆発音が二人を包むのだった。

 強烈な光に観衆たちは目を閉じ爆音に耳をふさいだ。

 光が収まり、観衆たちが目を開くとどよめきが広がる。

 爆発に吹き飛ばされぼろぼろで気を失ったエステルと無傷で立っているトモ、

 結果だけを見ればトモが勝ったように見える。いや勝ったのは間違いない。

 誰も剣劇の勝負とは言っていないのだし、ルールも特に決まっていない。

 エステルが気絶した時点でもの言いを入れる者もいないだろう。


 だがあまりに不可解な勝利にみな釈然とせず、一番に出てきたのは、


「「「え、えぇ……」」」


 という、ドン引きした賞賛とも罵倒とも取れない困惑の言葉だった。

 攻撃が当たる瞬間何があったかといえば、感応型(リアクティブ)破式衝撃軽減防御術式(マジックシールド)が発動して周囲のマナを巻き込み大爆発。それに巻き込まれたエステルが衝撃に巻き込まれて気絶したというのが真相である。

 もちろんそれを仕込んだのは、クーリガーである。

 誇りだとか正々堂々と言った倫理感はない。

 主の助けてという言葉に対応した結果だった。彼なりに。


 周囲の冷めた目線がトモに突き刺さる。

 その視線にトモは狼狽するのみで、勝ち名乗りをあげる図太さはなかった。

 泳いだ目線でマリーたちに目線を向けると、彼女たちは目頭を抑え他人の振りをしている。


(ちょっともうちょいなんかやり方なかったの!?)


(想定以上の爆発でした。怪我が無くてなによりですね)


(反省の色はなしかこいつ……)


 元凶を問い詰めても現状の打開策はないようだ。

 トモはこの場を乗り切る良案を考え続けたが、ただただ時間が過ぎ去るのだった。


「くっそ! 酷い目にあった!」


 ざわついた雰囲気の中、服についた埃を払いながらエステルは忌々し気に起き上がった。

 見た目は酷いが大きな怪我はないようだ。

 意気軒昂な様子は変わらず第二ラウンドを始める気が見て取れる。

 トモはその姿に辟易する。


「そこまで!」


 だがそこで水入りであった。

 マリーがこれ以上はと戦いを止めたのだった。


「何勝手に止めてるんだい?」


 怒気を孕んだ一声は周囲を威圧する。

 しかし、涼しい顔でマリーは続ける。扱いにはやはり慣れているようだ。


「虎の子のスキルまで使って、その上カウンター貰って気絶しといて第二ラウンドもないでしょう? 首狩り兎の名が泣きますよ?」


「うぐ……。しかし、」


 にこにことしたマリーの笑顔の圧に二の句を継ぐことができない。


「はぁ、納得はいかんが今回は負けでいい! 言っとくが今回だけだぞ!」


 酷く小物臭い敗北宣言にトモはほっと胸を撫でおろす。

 最初からやる気のない戦いだ。引いてくれるならそれに越したことはない。

 ぷりぷりと肩をいからせエステルは庭を後にする。


 屋内に入るころに後ろを振り向くと、


「準備しておく、明日来い」


 ぶっきらぼうに言って去っていた。

 扉の開閉はその怒りを発散するように乱雑であった。


 エステルが中庭から消えると、トモは歓声に包まれた。

 勝ち方に物言いはあったものの、あのギルマスに負けを認めさせるというのは相当な快挙らしい。

 試すような瞳を向けていた観衆たちは、尊敬の瞳へ変わっている。


「お疲れ様。 無理させちゃったわね」


 マリーが濡れタオルを差し出しながら、トモに話しかける。

 酒匂が少し漂っていることにトモはむっとした顔を向ける。


「ほんとにね。 マリーさんがこんな酷い目に合わせるとは思わなかったよ」


 非難を込めた瞳を向けながらの悪態に、マリーは心から謝罪の言葉を綴る。

 そいてトモの機嫌が直るとお詫びと言って湯浴みと食事に誘うのだった。

 ひとまず最初の課題が終わった。

 明日まではゆっくりとできるらしい。


 汗を流し、食事をとり休めることにトモは思いを馳せ、今はひとまずの休息を謳歌することとした。

 エステルにまた絡まれる事がないことを祈るばかりである。






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