『ラジオ百物語』の最終回
「今宵も始まりました『ラジオ百物語』。7月からの毎週日曜日、丑三つ刻は深夜2時から、毎回10話の怖い話をして、10週連続でお送りする今夜は10週目。」
パーソナリティをつとめる俺は声を潜めながら決り文句を言い、そのままのトーンで、オープニングトークを続ける。ホラー好きでノリノリで声色を使い分ける俺に対して、もうひとりのパーソナリティの乾瑠美子は、怖いもの嫌いで恐る恐る会話に応じる。とはいえ、朗読が始まると緩急をつけながら、呼吸と間を絶妙なタイミングで入れてくるところは、さすがはプロで、怖がりの瑠美子も憑依したように演じていた。そんな凸凹コンビによるホラー企画がリスナーには、どうやらウケているらしい。
「それでは、百物語もこの番組も最後の話になります。第100話…」
俺たちは掛け合いを続け、瑠美子が最後に物語の終りを示す言葉で締める。
「この体験が夢だったのか、本当に起きたことだったのか、今となってはわかりません。」
その瞬間、バチンッと電気が切れるような音がしたとともに、真っ暗になった。そしてバンバンバンバンッと勢いよく何かを叩く音が響き渡る。ヘッドホンに流れる音から察するに、放送でも流れているようだ。俺は、思わず声をあげる。
「電気点けろよ。スタッフふざけすぎだぞ。」
暗闇のなか激しくバンバンバンバンッと鳴っていた音は、体感ではとても長く聞こえていたように感じられたが、急に止むとあたりは明るくなった。と同時に、
「いやぁー。」
と瑠美子の叫び声が聞こえた。瑠美子の目線につられてスタッフのいる調整室側を見ると、ガラスにいくつもの赤い手形がついていた。
「いい加減にしろよ。」
と、口にしかけたが、スタッフも皆呆然とした表情でガラスを見ている状況に、単なるイタズラではないことを悟る。同時に生放送中であることを思い出し、咄嗟にその場を取り繕う。
「えーと。今起きたことをありのまま言うと、電気が消えて真っ暗闇になって…思い切り何かが叩かれる音がして、明るくなったら、我々のいる部屋とスタッフがいる部屋との間にあるガラスに赤い手形が、いくつもついているという…。とはいえ、ラジオでリスナーは見られないんだから、視覚的なドッキリはやりすぎじゃない、スタッフ?乾、大丈夫?」
「あっ…。あまりにビックリして、マジで怖かったです…。」
瑠美子も、スタッフの仕業ではないということを理解したのか、生放送の進行を続けるためになんとか声を絞り出しているようだった。
「というわけで、お時間になりました。いやー、最終回のエンディングに何を言おうかと考えてたんだけど、すべて飛びました。番組は、この放送をもっておしまいです。」
「うらめしや〜」
本来ならば俺と瑠美子の二人の声で事前収録してあるジングルで番組は終わるはずだったのに、聞こえてきたのは俺でもなく瑠美子でもない苦しそうな声だった。
SNSや掲示版では、電気が切れるような音がしたあとから、投稿数が伸びた。
『この音、演出?』
『いつもとノリが違くない?乾さんもマジで怖がってない?』
『百物語なんてやっちゃいけなかったんだ!』
ところが放送終了後に投稿されたものは、様子が違った。
『ラジオアプリで聞き返すと、肝心なところが、無音なんだよね。ラジオの放送事故って何秒からだっけ?』
『本当に、電気が切れる音とか、ガラスを叩く音なんてしたの?』
『集団パニックというやつ?』
放送では話題に出さなかったが、実はもう一つ奇妙なことが起こっていた。ガラスに付いた赤い手形は、番組が終わる頃には跡形もなく消えていたのだ。もちろん誰かが拭いたわけではない。そこにいる人々がそれぞれ気づいたときには、もうなくなっていたのである。
その後何度となくこのときの放送が話題にあがったが、俺も瑠美子も関わったスタッフも、口を割ることはなかった。
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