4.リアル・リョナリョナリョーナ
髪の片側だけは全部三つ編みにして、残った片側はそのままにする中途半端な髪型で出かける女性は、ほぼいないと思います。
朝が来た。
元マネージャーが、自宅であるアパートの一室で目を覚ます。
彼女の横では、没個性的な女性が眠っていた。
「……あれ、なんでショテちゃんがいるの?」
寝ている元アイドル、その名もショテちゃんは一切起きる気配がない
「ショテちゃん起きてよぉ!」
元マネージャーは強くショテちゃんを揺すった。
「……あ、阿戸木さん。……おはようございます」
ショテちゃんは上半身を起こし、元マネージャーの阿戸木さんにあいさつをした。彼女は黒髪を三つ編みではなく、解いた状態で寝ていたようだ。
「なんでショテちゃんがここで寝てんのよ。家間違えてない?」
「ええと……覚えていないのですか?」
「何を?」
元マネージャーは全然知らない顔をしている。
「昨日、私の車で帰って来て、阿戸木さんを触手ちゃんと一緒にこちらまで運んだら、独りは寂しいとおっしゃって帰してくれなかったのですよ。それでしかたなく、私もこちらでお泊りをさせて頂きました」
丁寧な説明を聞いて、元マネージャーは昨夜のことを思い出す。独りで寝るのは寂しいと泣きついたことを……。
このアパートには、元マネージャーとショテちゃん、それに触手ちゃんと呼ばれる元ミツミツミーツのメンバーが住んでいる。ミツミツミーツ時代に元マネージャーの紹介で、ショテちゃんと触手ちゃんが別の部屋でルームシェアをして暮らしているのだった。
二人とも、居酒屋から帰って来た時の私服のままでいる。
「あぁー、昨日は私もすごく酔ってたからなぁ……。ごめんね、ショテちゃん」
「いいえ。みんなで頑張って作った動画が削除されてしまったのですから、悲しくなって当然です」
お布団の上で二人は座った。ショテちゃんのほうは正座だ。
「動画は消されちゃったし、そもそも、ミツミツミーツも上手くいかなかったしね。やっぱり私のこと、恨んでる?」
元マネージャーはグループ解散の責任を感じていた。
「いいえ、そんなことはありません。恨むと言うよりも、阿戸木さんやファンのご期待に応えられずに終わってしまい、申しわけないと思っています。アイドル活動が上手くいかなかったのは、私の実力の低さが原因ですから……」
ショテちゃんからそう聞いたのは初めてなのに、今のと似たような話を、他のメンバーから元マネージャーは聞かされたことがある。
やはりあのグループのメンバー達は、性格的にもどこか似通っていると思う。そして、それが悪いことだとは、元マネージャーは全然思わない。
その後、元マネージャーはトイレに行き、次にショテちゃんもトイレをお借りした。
「では、私はそろそろ帰りますね」
「あっ、ちょっと待って」
ショテちゃんを引き止められた。
「何かまだご用がありますか?」
「ご用ってほどじゃないんだけど、ショテちゃんにはいつも助けてもらっているよね。……私に出来ることならなんでもするからさ、日頃お世話になっているお礼に、何かしてほしいことってないかな?」
「特には、ありません。私は、阿戸木さんのお役に立てれば嬉しいので、それだけでじゅうぶんです」
素晴らしい。そう元マネージャーは思った。
見た目は地味でも、性格はお手本とされるべきほどに慎ましく、普通に立って受け答えしているだけでも、彼女の誠実さが分かる。
「あぁー、ホントにいい子だなあ、ショテちゃんは。私が男だったら、結婚してたね」
「……私も逆の立場でしたら、同じように思います。ですが、阿戸木さんは美人ですから、女性で良かったとも思います」
「ショテちゃんはどちらかというと、美女というより、かわいくて守ってあげたいタイプだよねー」
元マネージャーは美人と言われても否定しない。
ここで、元マネージャーは右側の髪を三つ編みにし始めた。その間、ショテちゃんはその場にとどまる。
「は~い、出来ましたぁ」
なぜか片方だけを三つ編みにした。
元マネージャーを、今は三つ編みではないショテちゃんが見る。
「阿戸木さんも三つ編みが似合いますね」
「ショテちゃんほどじゃないよー」
元マネージャーは、――見事にショテちゃんを押し倒した。
「きゃっ!」
びっくりするショテちゃんは愛らしい。
元マネージャーは一方的に、ショテちゃんのゆったりとしたロングスカートをめくり上げる。さっきまとめた三つ編みを、お尻部分に向かって差し込もうとする。
これはいわゆる『アイコン』だということを、あなたに知らせておく。今回の場合、元“アイ”ドルに対して、“コン”セントに見立てた三つ編みを見せパンに差し込む。
「何をなさるのですかぁ~!」
さすがにショテちゃんも抗議し、スカートを押さえる。
「だって私のお役に立てれば嬉しいってついさっき言ってたじゃん! アイコンやってみたかったんだよね~! 様式通りにいやあぁって叫んでよ! ここアパートだから静かにね!」
「いやあぁ……っ!」
静かな叫び声は喘ぎ声のように聞こえた。
あなたが目にするこの光景もまた、リョナだろう。立場的に上の人間が、嫌がる年下の子を従わせている。
「なんでショテちゃんはアイドル時代の白い見せパンを穿いてるのかなぁっ? うんうん、分かってるよ、スカートだと上に何か穿いてないとパンツが見えそうで不安でたまならいんでしょーっ! そんな純情なショテちゃんが可愛過ぎーっ! どうせパンツも昔と同じ白いのなんでしょ~! 見ちゃっていーいっ?」
「脱がすのはどうかおやめを……っ」
「別にいいじゃんっ!」
「あぁん……っ」
二人が床で格闘していたら、玄関のドアが開いた。
そこでは黒髪を左右で三つ編みにした元アイドル、愛称は触手ちゃん、が立っていた。
片方だけ三つ編みが、三つ編みでない元アイドルにリョナる。という内容でした。
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