表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

4.リアル・リョナリョナリョーナ

髪の片側だけは全部三つ編みにして、残った片側はそのままにする中途半端な髪型で出かける女性は、ほぼいないと思います。

 朝が来た。


 元マネージャーが、自宅であるアパートの一室で目を覚ます。


 彼女の横では、没個性的な女性が眠っていた。


「……あれ、なんでショテちゃんがいるの?」


 寝ている元アイドル、その名もショテちゃんは一切起きる気配がない


「ショテちゃん起きてよぉ!」


 元マネージャーは強くショテちゃんを()すった。


「……あ、阿戸木(あとき)さん。……おはようございます」


 ショテちゃんは上半身を起こし、元マネージャーの阿戸木(あとき)さんにあいさつをした。彼女は黒髪を三つ編みではなく、(ほど)いた状態で寝ていたようだ。


「なんでショテちゃんがここで寝てんのよ。(うち)間違えてない?」


「ええと……覚えていないのですか?」

「何を?」

 元マネージャーは全然知らない顔をしている。


「昨日、私の車で帰って来て、阿戸木(あとき)さんを触手ちゃんと一緒にこちらまで運んだら、(ひと)りは寂しいとおっしゃって帰してくれなかったのですよ。それでしかたなく、私もこちらでお泊りをさせて頂きました」


 丁寧な説明を聞いて、元マネージャーは昨夜のことを思い出す。独りで寝るのは寂しいと泣きついたことを……。


 このアパートには、元マネージャーとショテちゃん、それに触手ちゃんと呼ばれる元ミツミツミーツのメンバーが住んでいる。ミツミツミーツ時代に元マネージャーの紹介で、ショテちゃんと触手ちゃんが別の部屋でルームシェアをして暮らしているのだった。


 二人とも、居酒屋から帰って来た時の私服のままでいる。


「あぁー、昨日は私もすごく酔ってたからなぁ……。ごめんね、ショテちゃん」


「いいえ。みんなで頑張って作った動画が削除されてしまったのですから、悲しくなって当然です」


 お布団の上で二人は座った。ショテちゃんのほうは正座だ。


「動画は消されちゃったし、そもそも、ミツミツミーツも上手くいかなかったしね。やっぱり私のこと、恨んでる?」

 元マネージャーはグループ解散の責任を感じていた。


「いいえ、そんなことはありません。恨むと言うよりも、阿戸木(あとき)さんやファンのご期待に(こた)えられずに終わってしまい、申しわけないと思っています。アイドル活動が上手くいかなかったのは、私の実力の低さが原因ですから……」


 ショテちゃんからそう聞いたのは初めてなのに、今のと似たような話を、他のメンバーから元マネージャーは聞かされたことがある。


 やはりあのグループのメンバー達は、性格的にもどこか似通っていると思う。そして、それが悪いことだとは、元マネージャーは全然思わない。


 その後、元マネージャーはトイレに行き、次にショテちゃんもトイレをお借りした。


「では、私はそろそろ帰りますね」


「あっ、ちょっと待って」


 ショテちゃんを引き止められた。


「何かまだご用がありますか?」


「ご用ってほどじゃないんだけど、ショテちゃんにはいつも助けてもらっているよね。……私に出来ることならなんでもするからさ、日頃お世話になっているお礼に、何かしてほしいことってないかな?」


「特には、ありません。私は、阿戸木(あとき)さんのお役に立てれば嬉しいので、それだけでじゅうぶんです」


 素晴らしい。そう元マネージャーは思った。


 見た目は地味でも、性格はお手本とされるべきほどに(つつ)ましく、普通に立って受け答えしているだけでも、彼女の誠実さが分かる。


「あぁー、ホントにいい子だなあ、ショテちゃんは。私が男だったら、結婚してたね」


「……私も逆の立場でしたら、同じように思います。ですが、阿戸木(あとき)さんは美人ですから、女性で良かったとも思います」


「ショテちゃんはどちらかというと、美女というより、かわいくて守ってあげたいタイプだよねー」

 元マネージャーは美人と言われても否定しない。


 ここで、元マネージャーは右側の髪を三つ編みにし始めた。その間、ショテちゃんはその場にとどまる。


「は~い、出来ましたぁ」

 なぜか片方だけを三つ編みにした。


 元マネージャーを、今は三つ編みではないショテちゃんが見る。


阿戸木(あとき)さんも三つ編みが似合いますね」


「ショテちゃんほどじゃないよー」


 元マネージャーは、――見事にショテちゃんを押し倒した。


「きゃっ!」

 びっくりするショテちゃんは愛らしい。


 元マネージャーは一方的に、ショテちゃんのゆったりとしたロングスカートをめくり上げる。さっきまとめた三つ編みを、お尻部分に向かって差し込もうとする。


 これはいわゆる『アイコン』だということを、あなたに知らせておく。今回の場合、元“アイ”ドルに対して、“コン”セントに見立てた三つ編みを見せパンに差し込む。


「何をなさるのですかぁ~!」

 さすがにショテちゃんも抗議し、スカートを押さえる。


「だって私のお役に立てれば嬉しいってついさっき言ってたじゃん! アイコンやってみたかったんだよね~! 様式通りにいやあぁって叫んでよ! ここアパートだから静かにね!」


「いやあぁ……っ!」

 静かな叫び声は(あえ)ぎ声のように聞こえた。


 あなたが目にするこの光景もまた、リョナだろう。立場的に上の人間が、嫌がる年下の子を従わせている。


「なんでショテちゃんはアイドル時代の白い見せパンを穿()いてるのかなぁっ? うんうん、分かってるよ、スカートだと上に何か穿()いてないとパンツが見えそうで不安でたまならいんでしょーっ! そんな純情なショテちゃんが可愛過(かわいす)ぎーっ! どうせパンツも昔と同じ白いのなんでしょ~! 見ちゃっていーいっ?」

「脱がすのはどうかおやめを……っ」

「別にいいじゃんっ!」

「あぁん……っ」


 二人が床で格闘していたら、玄関のドアが開いた。


 そこでは黒髪を左右で三つ編みにした元アイドル、愛称は触手ちゃん、が立っていた。

片方だけ三つ編みが、三つ編みでない元アイドルにリョナる。という内容でした。


最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ