3.七人+一人の飲み会
七人は元アイドル、一人は元マネージャーです。
本作はアイドルらしい描写がないので、まさに元アイドル作品と言えるでしょう。
映像から外の世界へ。
あなたが見るのは、とりとめのない現実だ。
あの動画『リョナリョナリョーナ』が動画投稿サイトに載せられてから、一週間以上が過ぎようとしていた。
彼女達は今夜、都内の居酒屋で集まっている。
ミツミツミーツの元マネージャーが元メンバーに連絡をしたら、七人全員が今日のこの時間に来てくれた。元メンバーの多くは飲み会の参加を断るようなタイプの女子なので、元マネージャーは奇跡だと思った。
「みんなー、今日はありがとう! みんなの協力のお陰で、無事にリョナ動画をアップまで漕ぎつけましたーっ!」
元マネージャーが大声で宣言すると一人が拍手をし、それから全員が拍手を合わせた。
「中でも、動画作りの大部分をやってくれたピックちゃんと、動画内でみんながやるのを嫌がった最低な悪女を熱演してくれたショテちゃんに、盛大な拍手をー!」
ピックちゃんとショテちゃんと呼ばれた三つ編み少女以外が、拍手を重ねる。
面白いことに、ミツミツミーツというアイドルグループがなくなったにもかかわらず、元メンバー全員が髪型を左右の三つ編みにしている。黒髪のままなのも、変わっていない。
純朴な少女達。いや、少女とは言えない年齢の元メンバーもいるけれど、全員が未だに、ミツミツミーツという短命だったアイドルグループを大切にしてくれている。それが、元マネージャーにとっては嬉しかった。お酒で顔を赤くする彼女の、クラフトビールのグラスを持つ手も進む。
ちなみにピックちゃんというあだ名は、映像関連の知識が豊富ということから、映像の英語のピクチャーからピックした。
ショテちゃんのほうは、単語の焦点から来ている。
「ピックちゃんとショテちゃんのお二人には、代表して何かステキな感想を言ってもらいましょう! まずはピックちゃんからどうぞ!」
あなたに補足すると、あの動画のスピーカーの声を担当していたのは、この元マネージャーだ。言うまでもなく、動画の企画者でもあった。
「少ない予算の中、けっこうな力作が出来たんじゃないかと思います。ご協力して下さった皆様、ありがとうございます」
ピックちゃんが席から立って謝辞を述べ、全員が彼女に向けて拍手した。
「はい、ありがとうございました! お次はショテちゃん、どうぞ!」
元マネージャーに指名されたショテちゃんは、恥ずかしそうに顔を赤くしている。ピックちゃんが着席し、仲間達の視線が向けられてから、立ち上がった。
「皆さんに動画の中で暴力を振るってしまい、すみませんでしたっ!」
ショテちゃんは大きく頭を下げた。二本の三つ編みが大きく揺れる。
「何度も謝らなくていいよ、ショテちゃん。私としては、ドロワーズを奪われるという貴重な体験が出来たし、同人誌を描く参考にもなるし」
横にいた元メンバーがそう言って慰めた。彼女以外の出演者も、ショテちゃんを責めるような顔をしていない。
あの動画に出演したのは、元メンバー七人中、五人。黒い布をかぶっていた何者かは、その時に映っていなかった元メンバーが演じていた。
ピックちゃんを含めた未出演の二人は、恥ずかしいからと断ったものの、裏方としての協力は惜しまなかった。ついでに言うと、出演者の穿いていた下着類は、撮影のために用意した品である。
もう一度頭を下げてから、ショテちゃんは席に座った。
「二人とも、ありがとう! 残りのみんなもありがとう! でも、ここで残念なお知らせがあります。――動画はもうすでに、運営に削除されてしまいました! なんでよぉ! なるべくエロとか暴力を抑えた感じでピックちゃんに編集してもらったのにぃ~っ!」
元マネージャーは一気にビールを飲んだ。
彼女と元メンバー達とは、決定的な違いがある。元マネージャーがお酒を飲むのに対し、元メンバーは全員ソフトドリンクを頼んでいた。元メンバーの約半数が二十歳以上のため、未成年だからというわけではない。お酒を好まないのだ。元メンバーは外見同様、性格にも共通点が多かった。
「みんなごめんね~っ! せっかく投稿したのにこんなことになってぇ……。動画再生数大幅アップで大儲けしたかったんだけど……世の中上手く行かないなぁ~っ!」
元マネージャーは大泣きを始めてしまった。彼女の横に座る元メンバーが慰める。
その後、泣きやんだ元マネージャーは、気持ち良さそうに眠ってしまう。彼女達の中では最も年長ではあるが、寝顔が子供のようにかわいかった。
ミツミツミーツの元メンバー達は元マネージャーを起こさないよう、静かに対面での交流を続ける。お互い、それなりにおしゃべりを楽しんだ後、今夜の集まりはお開きとなった。
あなたは飲み会、行く派ですか? 私は行かない派です。
ですが、三つ編みのかわいい女の子達に誘われたら、疲れを癒されるために、行ってしまうかもしれません。
今回も最後までお読み下さり、ありがとうございます。