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6話 初めて気持ちが読めませんでした

「すっかり布ダルマになってしまいましたね」


 宿の部屋にて。呆れた様子で見上げるミアの前で、ありとあらゆる布にぐるぐる巻にされたヴァネッサは頷くことさえできないでいた。

 流れるような速さで寝支度まで終えたところで、ダリウスによって巻かれてしまったのだ。彼はただただ無言で、布ダルマとなったヴァネッサを膝の上で抱えている。

 キツくはないのだが、動こうとすると布同士が邪魔をしてしまうため、可動域が極端に狭くなってしまっているのだ。


「殿下。お願いですから、どうしたのか、どうしたいのか、言葉で教えて下さいませ」

「……君は、他者の悪意に敏感だろう。なのに、どうしてこの役を引き受けた」

「私たちが式に参加するのは外交的に少々問題がある上に、式に参加したことで顔がバレたミアを踊り子にすることはできませんもの」


 ようやく口を開いた彼の言葉は、どこか遠回りで。

 あえて確認するように説明すれば、ダリウスはグッと布ダルマを引き寄せた。


「俺が着ればよかった」

「そ、それは流石に無理があるかと」


 もちろん、見たくはある。

 ダリウスの発言と踊り子衣装に身を包む姿を想像し、顔がニヤケそうになるのを抑えながら言うと、彼はムッとした顔をした。


「君が邪な目を向けられるのを見るくらいなら、俺が犠牲になった方がましだ」

「犠牲って……」


 言いすぎやしないか、と思ったヴァネッサだが、かなり落ち込んでいる様子のダリウスを見て次第に申し訳なさを感じ始めていた。

 確かに、バッチリ着飾ったダリウスを他の令嬢たちが色の乗った目で見ている姿を見たら、ヴァネッサとてひどく不快な気分になるだろう。すぐさま彼に布をかけて退散するかもしれない。他所を排除するよりも、元を絶った方がはやいのだから。

 だとしても、熱いので布ダルマは勘弁してほしいが。

 ヴァネッサは小さく息をついた。その時、しゅるりと音を立てて布が剥がれた。


「きゃっ!」


 くるくると回され、小さな声が漏れてしまう。次の瞬間には、ダリウスの膝にちょこんと座っていた。彼の名前を呼ぶより速くギュウッと抱き締められる。

 首に当たった髪がくすぐったくて身をよじろうとしたその時、彼がコツンと頭を寄せてきた。


「大人気ないことをした……すまない」


 気落ちきた声がどこかかわいらしくて、ヴァネッサは大きな彼の背中に腕を回した。


「もしかして、やきもちですか?」

「……そうらしい」


 ぽそりと呟いた彼の耳を見てみれば、じわじわと赤くなっていく。


「初めて会った時は誰も好きになれないと仰られていたのに、成長が著しいですわね」


 ヴァネッサはどこかゾクゾクとしたものを感じながら、クスリと笑みをこぼす。すると、ダリウスが頭を起こした。


「成長……か」


 どこかとろんとした瞳で見つめるその姿が艶かしくて、ゾクゾクがドキドキへと変わっていく。


「なら、何か褒美をくれないか?」

「成長祝いですか。いいですけれど、何が――」

「ヴァネッサがいい」


 刹那、首元でちゅっと小さな音が鳴った。


「へっ、あっ、なっ……!?」


 慌てて立ち上がろうと胸板を押すも、ビクともしない。頭に血が上っていることが嫌でもわかる。言葉にならない声をあげている間にも、一つ、二つと音が鳴っていく。

 そういえば、大量のお酒を呑んでいたような。なんて、どうでもいいようなことを考えないと、言葉通り火を吹いてしまいそうだ。


(そうだわ! 手! 手があるじゃない!)


 ヴァネッサははっとして手を首へとやった。その指をダリウスが絡め取る。


「かわいい」


 耳元で吐息混じりに囁かれ、鼓膜からビリビリとした刺激が走った。耳が、首が、触れた掌が、指先が、熱くてたまらない。

 ダリウスがクスリと笑みを溢すたび、吐息が首をくすぐる。指を握る力はいつもより強くて――

 ふと、窓際に立つライルと目が合った。


「すすすストップ!!」

「むっ」


 ダリウスの右手が離され、腰へと移動した瞬間にヴァネッサは彼の口を塞いだ。彼の眉間に皺が寄る。しかし、瞳はやはりほけーっとしていて。


「……報告に来たんだけど、帰った方がいい?」

「いえいえいえ! どうぞ! しましょう、報告!」


 見られていたという羞恥を誤魔化すかのように水差しを取り、ダリウスの酔いを覚ますべく飲ませる。


「ヴァネッサ、冷たい」

「ごめんなさい!」


 どうやら的が外れていたようだ。頭からずぶ濡れになったダリウスへと慌てて謝る。


(待って? よく考えたら、この部屋には……)


 壁へと目をやって見えたのは、しれっと顔を逸らすミア。それと、何かを後ろに隠したスチュワート。彼の袖口から見えているのは、ペンだろうか。

 何にせよ、二人にも見られていたのだ。

 わなわなと震え出したヴァネッサの元にダリウスがやってくる。


「……殿下」

「なんだ?」


 ヴァネッサを後ろから抱き締めているからなのか、酔っているだけなのか、ダリウスの声色はどこか嬉しげだ。


「お願いですから、周りを見てから触れてください」

「わかった」


 と、言っているが抱き着いたままである。

 基本的にお酒には強いとミアから聞いていたものの、流石にワイン六本、ウィスキー四杯は多過ぎたらしい。

 ダリウスに引っ付かれながらソファへと移動する。


「まぁ、(かわいい)酔う姿を見られたのはいいとは言えばいいのですけれど」

「いえ、殿下は酔っていませんよ」

「え?」


 ミアからサラッと聞こえてきた発言に、ダリウスへと振り向く。

 否定も肯定もせず、彼は目を細めて微笑むだけだった。

短いので明日朝6時に7話を出します(*´꒳`*)

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